1.がんについて知っておきたいこと
誰でもなる可能性がある
現在、日本人の2人に1人は一生のうちに何らかのがんになるといわれています。がんは、すべての人にとって身近な病気です。しかし、ひと口にがんといっても、その病状や経過は、がんの種類やがんが見つかったときの状態などによって異なり、人によってさまざまです。
「がん情報サービス」では、がんに関連するさまざまな情報を紹介しています。世の中にはたくさんのがんの情報がありますが、がんという病気について知りたいときには、まず、「がん情報サービス」で自分の状況に合った確かな情報を確認しましょう。
国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」より作成
完全に防げるわけではないが、なりにくくすることはできる
生活習慣や感染など、さまざまな要因でがんになると考えられています。現在のところ、日本人を対象とした研究では、喫煙(受動喫煙を含む)、過度の飲酒、塩分や塩辛い食品をとりすぎる・野菜や果物をとらない・熱すぎる飲み物や食べ物をとるなどの食生活、太りすぎ、痩せすぎ、運動不足、ウイルスや細菌への感染ががんの要因になるとされています。
がんを完全に防ぐことはできません。しかし、禁煙、節酒、食生活の見直し、体を動かす、適正体重の維持といった生活習慣の見直しや、がんの原因となることが分かっているウイルスや細菌への対策などによって、がんに「なりにくくする」ことはできます。
がんという病気そのものはうつらない
がんは、遺伝子が傷つくことによって起こる病気です。一部のがんの発生にはウイルスや細菌への感染が関係している場合がありますが、がんという病気そのものが、咳やくしゃみなどの飛沫や、他人との接触などによって、人から人に直接うつることはありません。
高齢化の影響を除くと、がんによる死亡は減っている
がんになる人の数とがんで死亡する人の数はいずれも年々増加していますが、その主な理由は、人口全体に対する高齢者の割合が増えていること(高齢化)です。高齢化の影響を除いたときの、一定期間中にがんになる人の割合(年齢調整罹患率)は、2010年ごろからほぼ横ばいに、がんで死亡する人の割合(年齢調整死亡率)は1990年代半ばをピークに減少しています。
治療法の進歩などにより、がんにかかった人の生存率は、多くの部位のがんで向上する傾向にあります。すべてのがんを完全に治す(根治する)ことができるわけではありませんが、根治を目標とした治療を受けたあと、定期的な検査を受けながら、転移や再発をすることなく生活している人はたくさんいます。また、転移や再発をした場合でも、治療を受けながら社会生活を続けている人は少なくありません。
がんで死亡するリスクは、科学的根拠に基づくがん検診を受けることで下げられる
がんの種類にもよりますが、一般的に、がんは進行するとより治りにくく、また、がんそのものやがんの治療による体への負担もより大きくなります。科学的根拠に基づくがん検診を受けることでがんを早い段階で発見し、適切な治療を受けることが可能になります。
がん検診には、受診することによる利益(がんによる死亡のリスクの減少)だけではなく、放射線被ばくなどの不利益もあります。利益(メリット)と不利益(デメリット)のバランスを科学的根拠に基づいて吟味し、国が推奨しているのは、現在(2023年)、大腸がん、胃がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの5つのがん検診です。
2.がん(悪性腫瘍)と良性腫瘍
細胞の中にある遺伝子は、それぞれ決められた役割をもって働いています。その役割の1つが、細胞の増殖とその抑制です。正常な細胞は、体や周囲の状態に合わせて遺伝子が適切に働くことにより、増えたり、増えることをやめたりしています。
正常な細胞が分裂するときなどに、偶然、遺伝子に「傷」が生じることがあります。また、この傷は、喫煙、ウイルスや細菌などの感染、さまざまな化学物質、放射線などの外的要因によって生じることもあります。この傷のことを遺伝子の「変異」といいます。さまざまな原因で生じた遺伝子の変異によって、細胞が無秩序に増え続けるようになることがあり、このようにしてできた細胞のかたまりを「腫瘍」といいます。
腫瘍は、腫瘍をかたちづくる細胞の増え方や広がり方の違いから、大きく悪性腫瘍と良性腫瘍に分けられます。悪性腫瘍は、細胞が無秩序に増えながら周囲にしみ込むように広がったり(浸潤)、血管などを介して体のあちこちに飛び火して新しいかたまりを作ったり(転移)する腫瘍です。放っておくと全身に広がり、体にさまざまな悪い影響をもたらすため、ほとんどの場合、治療が必要になります。悪性腫瘍のことを「がん」ともいいます。
一方、浸潤や転移をすることがなく、周りの組織を押しのけるようにしてゆっくりと大きくなる腫瘍を良性腫瘍といいます。良性腫瘍には、生涯にわたって症状がでないものや、生命に影響を及ぼさないものもあります。このため、腫瘍のできた場所や大きさ、種類などを総合的に判断し、必要に応じて手術(外科治療)を行います。多くの場合、完全に取りきることができれば再発することはありません。
3.がんの分類
がんは、がんが発生した細胞の種類によって、癌※や肉腫、造血器腫瘍(血液のがん)などに分類されます(表1)。
分類 | 発生する細胞 | がんの例 | 特徴 | |
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固形 がん | 癌※ | 体の表面や臓器の粘膜などを 覆っている細胞(上皮細胞) | 大腸癌、肺癌、胃癌、乳癌、 前立腺癌、膵臓癌、肝細胞癌など |
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肉腫 | 骨や筋肉などを作る細胞 | 骨肉腫、軟骨肉腫、脂肪肉腫、 未分化多形肉腫、粘液線維肉腫、 平滑筋肉腫など | ||
造血器腫瘍 (血液のがん) | 白血球やリンパ球などの、血管や骨髄、 リンパ節の中にある細胞 | 白血病、悪性リンパ腫、 多発性骨髄腫など |
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4.がんの発生と進行
がんの発生と進行について、図2でイラストを使って説明します。多くのがんは、以下の①~⑤の段階を経て発生、進行することが分かっています。
がん細胞は、細胞の遺伝子に変異が生じることによって発生しますが、正常な細胞ががん細胞になり、浸潤、転移をするようになるまでには、ほとんどの場合、複数の遺伝子変異が必要です(多段階発がん)。これらの遺伝子変異は一度に生じるわけではなく、時間をかけて徐々に蓄積していくことが分かっています。高齢になるとがんになりやすくなるのはこのためと考えられます。
5.がん遺伝子とがん抑制遺伝子
変異はさまざまな遺伝子で起こりますが、変異が生じたときに、特にがんの発生につながりやすい遺伝子があることが分かっています。
細胞の中にある遺伝子は、それぞれ決められた役割をもって働いています。その役割の1つが、細胞の増殖とその抑制です。このような役割をもつ遺伝子に変異が生じると、細胞の増殖をコントロールすることができなくなるため、がんが発生しやすくなります。このような遺伝子には、「がん遺伝子」と「がん抑制遺伝子」があります。名前に「がん」とついていますが、いずれもがん細胞だけにあるわけではなく、正常な細胞にもある遺伝子です。
がん遺伝子
細胞を増やす役割をもつ遺伝子に変異が生じると、細胞がどんどん増えて止まらなくなり、がんの発生につながることがあります。このような遺伝子を「がん遺伝子」と呼びます。
がん遺伝子には、EGFR遺伝子、HER2遺伝子、RAS遺伝子など、たくさんの種類があることが分かっています。変異を起こしたがん遺伝子から必要以上にタンパク質が作られたり、変異のあるタンパク質が作られたりすることにより、細胞が無秩序に増殖します。このようなタンパク質などを標的とする薬物療法の研究、開発が進められ、一部のがんでは標準治療になっています。最近では、遺伝子変異などのがんの特徴に合わせて、一人ひとりに適した治療を行う個別化治療も行われています。
がん抑制遺伝子
一方、細胞が増えるのを抑えたり、遺伝子の変異を修復したり、異常な細胞を排除したりする役割をもつ遺伝子もあります。これらの役割をもつ遺伝子に変異が生じると、細胞の異常な増殖を抑制することができなくなり、がんの発生につながることがあります。このような遺伝子を「がん抑制遺伝子」と呼びます。
がん抑制遺伝子には、TP53遺伝子やRB遺伝子、BRCA1/2遺伝子などがあります。がん抑制遺伝子についての研究も進められており、標準治療となる薬物療法が開発されているほか、がんの予防や早期発見などにつながることが期待されています。
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