プロフィール
神奈川県在住で、夫と息子2人(大学3年生と高校3年生)の4人暮らし。元新聞記者。現在は会社員としてイベントやセミナーの運営全般を担当し、企画・広報・司会まで幅広く携わる。
2018年(当時46歳)、会社の健康診断がきっかけでステージ1の直腸がんが発覚。手術、一時的ストーマの造設を経験する。罹患後1年たたない2019年、肺への転移が発覚してステージ4に。2021年に直腸がん局所再発となったときに永久的ストーマを造設した。これまでに3度の転移性肺がんの手術を行い、2023年3月より経過観察中。
がん罹患後から、自身の経験をYouTubeなどで発信したり、ほかのがん患者さんの相談を受けたりしている。
健康診断がきっかけで直腸がんが見つかり、手術、肺転移による肺の手術、抗がん剤治療、ストーマの造設と、さまざまな経験をしたK. S.さん。今回は、最初にがんだとわかったときまでの流れや、そのときの気持ちについて、詳しく語ってもらいました。
会社の健康診断がきっかけ
―― 直腸がんが見つかったときのことを教えてください。
2018年の5月に、会社の健康診断を受けたのがきっかけです。便潜血検査を毎年受けているのですが、その年に初めて“D判定・要精密検査”という結果が出たんです。
実は今思えば、自覚症状のようなものはありましたね。2017年12月あたりからでしたが、夕方になると便意が起こってトイレに行くものの、座って踏ん張っても便が出なかったんです。そしてお尻をトイレットペーパーで拭いたら、少し茶色いおりもののようなものが、小指の爪先くらい、ちょっとだけついていたんです。でも、夕方にそんな状態があるだけで、痛くもかゆくも何ともなかったんですよ。
ただそれが何カ月か続いていました。あとは、便が細くなるという現象もありました。指の細さくらいの便がニューッと出ていましたね。
後から調べたら、便が細くなることや血液がつくことって、大腸がんの特徴的な兆候だったんです。それまで便器が鮮血で染まるのが大腸がんの兆候というふうに私は思っていたのですが、便が通るときにちょっと腫瘍(しゅよう)に擦れて出る血液もあるのだとわかったんです。今となると「あれだったのかぁ…」という感じです。
ほかにも思い当たることとして、朝起きると吐き気がすることがありました。その頃は仕事が忙しかったりして睡眠不足気味になってはいたのですが、朝起きるのがつらくて、やっと起きても「うぅ…」ってなる、みたいな。今思うと、何か貧血っぽい症状が出ていたのかもしれません。今は朝に吐き気は出ていないですし、やっぱり関係があったのかなとは思います。
最初はお尻をトイレットペーパーで拭くと何かがついている状態があって、その後、便が細いな、吐き気もあるな、と思うようになって…と、症状には段階があった気がしますね。
ただ当時は、痛くもかゆくもないから別にいいや、と思っていたんです。もしかして婦人科に行ったほうがいいのかなー、でも5月に健康診断があるからいいや! という考えに至っていました。それが2018年の1〜2月頃。5月なんてすぐ来る、と先延ばしにしてしまっていたんですよね。
「そうきたか!」という感覚が強かった
―― “要精密検査”という結果は、どのように受け止めたのでしょうか?
当時は大腸がんなんてまったく疑っていませんでした。だから、健康診断の判定を見たときは「そうきたか!」「あの変な現象はこれだったんですか!」って思いましたね。ショックというより「そうきたか!」という感覚が強かったです。
―― 精密検査を受けるまでの流れを教えてください。
2018年5月に健康診断の結果を受けて、6月にクリニックで精密検査を受けました。健康診断の結果の中に“ここで検査を受けられるよ”という都道府県別の医療機関リストが入っていて、私は神奈川県に住んでいるので、神奈川県の医療機関の中から自分で選び、電話で予約を取る流れでした。
私はとにかく、痛い・苦しいは嫌、胃カメラは大嫌いなので、リストの中でも鎮静剤で眠らせてから検査をしてくれそうな近所の病院をピックアップし、インターネットで調べてから選びました。
―― では精密検査では、眠った状態で受けることができたのですね。
いえ、検査のことはよく覚えています。実は、眠っている間に大腸内視鏡検査をしてもらうはずだったのですが、案外眠れなくって…。先生が見ているモニター画面が私にも見えていたんです。「なんかここの出口に1個、大きくてうちで取れないのがあるな」という先生の声も聞こえてきて、何だろうな…何があるんだろう…と思っていました。
いくつかあった小さいポリープは内視鏡で取ったようなのですが、検査後に行った診察室で、先生から「最後に大きい何かがあったので、ちょっと入院して、大きい病院に行って取ってもらうことになります」と言われました。入院? と驚いて「え、なんですか? みなさんどういうところで治療されるんですかね? 1泊2日ぐらいですか?」という感じで聞いたら「いやいや、1週間か2週間ですね」と返ってきて。「えーっ」となりましたね。
そして「どういう病院ですか、(自宅から近い)横浜でいいですか?」と私が続けて聞くと「いや、みなさん築地とか有明に行かれますね」と。私は当時、がんの知識はそれほどではなかったものの、築地・有明というとがん専門病院があるところじゃない!? とは気づきました。
ここまでの先生との会話では、先生からはがんの“が”の字も出ていなかったと思います。そこで「先生、それって、がんってことですかね?」と、私から尋ねたんです。そうしたら「いや、まだ細胞の結果は来週出ますので。それを見ないと悪性か良性かはわからないですけれども。まあ、その可能性もありますね」と。それが告知といえば告知だったのかなと思います。
私でもがんになるんだ…おかゆを食べながらひとりで泣いた
―― がんかもしれないと知ったとき、どのような気持ちでしたか?
診察室で先生と話していたときは「がんなんだ…私でも、がんになるんだ…」と、本当に半信半疑というか、夢みたいな感じでした。
その後、クリニックを出てご飯を食べたときにじわっと涙が出てきました。内視鏡検査は午前中から下剤を飲んで、おなかを空っぽにしていくので、おなかがペッコペコなんですよ。クリニックと同じ商業施設にあるレストランで、おなかに優しい中華がゆを食べながらひとりでポロポロ泣いたのは、すごく強烈に覚えていますね。
そこから、現実というか、いつもの街の風景が見えたとき、もう街の見え方が何か違うように感じました。頭が真っ白というより、やっぱり「目の前のことをどうしよう」っていう気持ちの方が多かったかな。入院するということもあり、子どもも当時中学生と高校生だし、これから現実的な対処をどうしよう、という気持ちにすぐなっていたと思います。
本当につらかったです。なんか、急にきますからね、がんって。
それまではちょっとお尻から血のようなものがつくくらいで、痛くもかゆくもない、健康なつもりでいたんですよ。だけれど、調べたら何かあると言われて、本当に? みたいな気持ちもありつつ…。
このあと、(悪性か良性かの)結果を聞きに行くまでに1週間の猶予があったのですが、この1週間が、がん人生の中でも心理的にきつい1週間なんだと思います。
ずっと「私、がんなのかな」と思いながら今も治療を繰り返していて、がんになってから6年目になりましたね。
―― その後、はっきりとがんだとわかったときのことについても教えてください。
はい。精密検査の1週間後に結果を聞きに行ったのですが、そのときは夫も同席してくれました。夫婦で並んで、一緒に先生から話を聞きましたが「やっぱり悪性でした、どこの病院にしますか」という話でした。
覚悟は決めていたというか、検査の時点で「がんの可能性が高い」という話をしていたので、“やはり悪性”と聞いたときは“そうでしたか…ちーん”くらいの反応でしたね。
でもその次、どこの病院に行きますか? 紹介状どうしますか? という話に進んだときは、大きな決断を迫られるときなんですよね。
なので、私は検査結果が出るまでの1週間に、どういう病院があるのか、自分の状態はどの術式になるのか、などを調べまくりました。私は昔、新聞記者をしていたので、調べたり、取材して裏を取ったりということをかなりやるタイプなんですよ。
それで、事前に病院のあたりをつけていて「先生、私この病院に行こうと思います」と伝えました。ですが「いや、K. S.さんの場合、ちょっとこの術式では取りきれない可能性がある。また違う病院で、となると大変だから、別の術式ができる病院も視野に入れた方がいいね」という回答でした。
ただ私は第2候補の病院も用意していたので「じゃあ、こちらはどうですか?」と相談しました。
すると「ここだったら総合的で安心ですね」というお墨付きをいただけて。その日のうちに紹介状をもらう手はずを整えることができました。
人によっては病院選びに時間をかける場合があるかもしれませんが、私はもう、わかってしまったからには早く切ってほしいという思いが強くて、結果を聞いてすぐに病院を決めることができたので、その点はよかったですね。
ほしい情報を探して、たどり着くのは難しい
―― 上手に病院を見つけられたということでしたが、情報収集はどのような工夫をされたのでしょうか?
情報収集にあたっては、検索ワードの選び方と組み合わせ方がポイントになるのかなと思います。私は「大腸がん、認定医、東京」などで調べていましたね。
専門的なワードを入れて検索すると情報はぎゅっと限られてくるので。でも、例えばその“認定医”というキーワードっぽいものをまず見つけないといけなくて。
また、当時はインターネットで検索すると怪しい治療法などが上位にいっぱい出てくるので、引っかかりましたね。情報が多々ある中で、ほしい情報を探すのは本当に難しいです。
結果的にすぐに病院を決めることができたものの、私の知識が足らなかったというか、私の症状への先生の見立ては(私が考えていたものと)違っていたんですよね。私は“私の受ける術式はこれだ”と思い込んで調べてしまっていました。
それはほかの方もやってしまうことだと思います。私ほどしつこく調べないにしても、誰だって検索しますよね。ただ出てきた情報が正しいか見分けることや、ほしい情報にたどり着くことが難しいなと思います。
私のような昔、記者をしていた人間でも、調べることはできたものの、自分のがんの状態をわかっていなかったので、自分に合った情報にたどり着くのはとても大変だったんですから。
気持ちも大変な中で調べないといけない。そして、そこで決めた病院は長い付き合いになるから、病院選びが違っちゃうとその先の方向性も結構違っちゃうってことがあると思うんですよね。そういうのを上手に調べるサービスがあるといいなとは思いますね。
直腸がんが発覚し、治療スタートへ。中編では手術そしてストーマ造設するまでの道のりを語ってもらいます。