プロフィール
東京都港区にてバーを経営するトランスジェンダー女性。
2020年4月にステージ4のS状結腸がんと肝臓転移が発覚、余命1年の告知を受ける。腫瘍(しゅよう)を小さくする抗がん剤治療や2度の切除手術を経て、現在(2023年取材時・35歳)も抗がん剤治療を継続中。
2020年4月、32歳のときにステージ4のS状結腸がんの告知を受けたM. H.さん。術前抗がん剤治療を経て、切除手術を行う。その後、原発巣(げんぱつそう)であるS状結腸と転移巣を含め、2度の切除手術を経験。現在も、抗がん剤治療と仕事を両立する毎日を送っています。今回はM. H.さんに、抗がん剤治療後の手術から、ほどなく起きた再発と転院、今に至るまでを語ってもらいました。
抗がん剤が効き、手術へ。その後すぐに再発、転院
―― 抗がん剤治療をがんばって、腫瘍(しゅよう)が小さくなり手術ができることになったんですね。
抗がん剤治療は、身を任せていたというか…。目の前に来たことをこなすっていう感じでした。あんまり、一生懸命やんなきゃっていう感じではなかったかもしれないんですけど…。なんか、先生がこうやって言うからやろうみたいな。うん。だから言葉で表現するのが難しいんですけど「うれしい」とかではなかったし「がんばっているな」って感じでもなかったですね…。
抗がん剤が効いて、小さくなったので手術ができるっていうふうに言われて、2020年9月に(原発巣である)S状結腸がんの摘出と転移巣の肝臓の摘出手術を同時に行いました。S状結腸は腹腔鏡手術で、肝臓は開腹手術でそれぞれ可能な限りの腫瘍を取り除きました。手術のときは前日の検査を含めて2週間くらい入院しました。
―― 手術後の経過はどうだったでしょうか?
無事に終わって、2カ月経ってから抗がん剤治療を再開するためにCT検査をしたら、再発しているのが見つかってしまいました。
それで、2回目の手術をするための抗がん剤治療が始まって、2021年の7月に手術が可能になり、再度手術を受けました。
このとき(2回目の手術の前)に主治医の紹介でもっと大きな病院に転院しています。当時の主治医いわく、(紹介先の病院のほうが)肝臓と大腸を一緒に手術できる環境が整っているという点と、私がトランスジェンダーということもあり、そういった専門の医師が在籍しているという点で転院をすすめてくださったようです。
―― 転院先の病院で2回目の手術をされたのですね。そのときはいかがでしたか?
じつは、1回目の肝臓の開腹手術の際に、麻酔の効きが弱かったのか、術中にすごく痛くって、それがトラウマになってしまって…。
2回目の肝臓の開腹手術の前に、最初の手術の激痛のことを伝えたら、「麻酔を増やして、痛くないようにするから」と言われて、そしたら本当に痛くなくて…。開腹手術でも痛くなく手術できるんだなっていうのがわかりました。その後、自分で色々と調べてみたら、このような手術で使用される麻酔では、まれに効きが弱いトラブルがあるそうで。自分もそうだったのかな、と。
―― 手術の後遺症はどうですか?
大腸を切除しているので、下痢になりやすいし頻便気味です。手術したあとは、1日50回ぐらいトイレに行ってフラフラになってましたね。
さらなる再発。このまま見た目が変わってしまったら…。
―― 2度の手術を経て、現在の状況を教えてください。
今、また再発してしまっているんです。2週間に1回の抗がん剤治療をしていて、4クールごとにCT検査をしています。肝臓の腫瘍が大きくて手術ができないそうです。なので、抗がん剤の副作用と仕事をどうやって両立させていくかが大変で、なんか忙しいって感じです。
大体1年ごとに手術して再発しての繰り返しなので、今回再発がわかったときは、治らないのにもう手術したくないと思ってしまって…。それをTwitter(現X・以下取材時のTwitterで表記)で発信したら5回も6回も(手術をして)切ってる人とつながれたり、「私も同じような経緯でまた手術です」っていうDMをくれる方とかがいて。再発をしている人たちの生の声というか、会話できる感じが、すごい助かりました。
―― Twitterは情報収集の場所だけではないのですね。
そうですね。治療中って何度もこう…なんだろうな。がんばっているのに私…って、なってしまうんです。そういうなかで自分だけじゃないと感じられるというか。思いや現実を自分からアウトプットもできるし、ほかの人のことも知ることができる。そういうところがよかったのかもしれないですね。そういう場所は必要だし、そういう場所を多くの人に知ってもらいたいなと思います。
―― 抗がん剤治療を長い間受けられていますが、生活や仕事との兼ね合いはどうされていますか?
実は、2回目の手術後の抗がん剤治療でアナフィラキシーショックが出てしまったんです。それで、それまでの薬が使えなくなって薬を変更したら、目が霞んで視力が悪くなったような感覚になったんですよね。で、先生や看護師さんからも原因がわからないって言われちゃって…。それをTwitterに書いたら、同じような人がいたんです。抗がん剤を打つ前に吐き気止めのステロイドを打つんですけど、吐き気止めの副作用で視力が落ちるって言ってて。
そのことを先生に伝えたら、すごく珍しくて、あんまりないケースだと言われましたね。
その症状は最初の頃だけで今はあまりありません。あと、抗がん剤治療をすると、頭が回らないし、ぼーっとしちゃったり、考えがまとまらなくなったりとかもあります。そういうなかでも仕事をしなければならないので、治療とどうやって両立させるかは今も考えつづけています。
―― 仕事は治療が長くなるほど、切実な問題ですね。
先ほど(※前編参照)も触れたんですけど、私は自分の見た目の変化にすごく落ち込んでしまって。
薬の副作用で全身にブツブツができてしまって、体や顔中にニキビがあるような…。自分で鏡を見てても落ち込むし。脱毛もあって…見た目が変わっていくことで、メンタルがめちゃやられてしまい、うつ病にもなってしまったんです。
人前に出ない裏方の仕事を探したりとかもしたんですけど向いてなくて、結局現場に戻りました。
自分は、舞台とかも出ていたので、見た目はすごく大事というか。自分を商品にする生き方をしていく人なんだなと改めて気付かされました。
―― 仕事と治療の両方をつづけていくなかで、課題だったことはありますか?
見た目のことは、ネットやTwitterで調べてもあんまり情報が出てこなくて、みんなそういう状況を受け止めている人が多いのかなっていう印象でした。私にとって見た目の変化は、仕事にも直結しているし、切実な悩みなので、見た目に関して、より改善できるような情報が欲しかったかなと思います。
自分なりに考えて今の仕事をつづけたいという思いから、見た目に影響が出る薬はやっぱりやめたいと主治医に相談して、調整してもらうようにしました。
今は抗がん剤治療を定期的に受けている状況なので、副作用がひどいときは本当に動けなくて。でもお客様商売なので、お客様の都合で仕事に行かなきゃいけないこともあり、点滴を首からぶら下げて腹巻きに隠しながら、会食や接待をしているときもあります。抗がん剤治療と仕事のスケジュールの管理、それが一番大変ですね。