肺がんの疑いがある場合、胸部のX線やCTなどいくつかの検査を行う必要があります。こちらの記事では、段階を追って行われる検査の目的・役割や、検査でどんなことが行われるのかについて、わかりやすく説明していきます。
肺がんの疑いがあるときに行われる検査の目的と流れ
肺がんが疑われるきっかけは、肺がん検診による胸部X線検査(レントゲン検査)のほか、何らかの自覚症状があって胸部X線検査を行った際に異常な影が見つかる場合や、ほかの病気でたまたま胸部X線検査や胸部CT検査を行った際に見つかる場合など、患者さんによってさまざまです。
こうしてがんの疑いがあるとわかった後はさまざまな検査が行われます。なぜ、多くの検査を受ける必要があるのでしょうか。その目的を検査の流れに沿って整理すると以下のようになります。
STEP①:より詳しい画像を見て調べる
胸部X線検査により「肺に影」が見つかっても、そのすべてが肺がんと診断されるわけではありません。例えば、感染症(ウイルス、細菌、カビなど)に伴う肺炎や自己免疫性の肺疾患でも胸部X線検査の結果からは肺がんと区別がつかないことが多々あります。
そのため、胸部X線検査で肺がんの可能性がある病変が見つかった際は、より詳細な情報が得られるCT検査が追加で行われます。同時に、血液検査でわかる腫瘍マーカーなども診断の参考にします。
CT検査や血液検査から肺がんが強く疑われても、この時点ではまだ「がんの疑いがある」段階であり、肺がんとは確定していない状態です。そのため、次は確定診断のための検査が必要となります。
STEP②:がん細胞があるかどうか調べ、診断を確定させる
「肺がんである(または、結果的に肺がんではない)」と最終的な診断を確定するには、がん細胞があるかどうかを詳しく調べる「病理検査」の結果が必要で、その検査を行うためには肺に異常が見つかった場所(病変)から組織や細胞の一部を取り出す必要があります。
この一連の流れによって行われる検査のことを「生検(せいけん)*」と呼びます。生検には以下に説明するように複数の方法があり、ひとつだけで診断を確定させる場合もあれば、複数を同時に進める場合もあります。
* 「生検」と「病理(または病理検査)」は同じような意味で使われることもあります。
気管支鏡検査
肺がん疑いの場合、多くはこの気管支鏡検査によって確定診断がなされます。肺の組織の採取に必要な器具のついた内視鏡を口から気道に挿入し、気管支の内部をモニターに映して粘膜などの状態を観察しながら組織や細胞を採取します。通常は喉や気道に粘膜の麻酔をかけてから管を挿入します。ほかにも痛みを抑える薬や眠たくなる薬を注射する場合もあります。
穿刺(せんし)生検
CTで肺の中の様子を見ながら、肋骨(ろっこつ)の間から細い針を刺し、組織や細胞を採取する方法(CTガイド下肺生検)や、首のリンパ節や肝臓への転移が疑われる場合、これらの臓器に超音波(エコー)を当てながら細い針を刺して組織を採取する方法(経皮的針生検)などがあります。
胸腔鏡検査
胸部を数カ所、小さく切開して内視鏡や必要な器具を挿入し、肺の一部を切除したり、胸膜(肺のまわりにある薄い膜)に広がっているがん組織を採取したりします。局所麻酔で行う場合と全身麻酔で行う場合があります。
また、肺のまわりに水が溜まっている場合(これを胸水と呼びます)、水の一部を抜いてその中にがん細胞が混ざっていないか調べることもあります。
上記のような検査で採取された組織や細胞は、その性質を詳しく調べるため病理検査に回され、顕微鏡で調べられます。病理検査は病理医と呼ばれる専門の医師によって行われます。
病理検査によって、採取された病変が肺がんであるか否か、また肺がんであった場合どういった組織型なのかが判明します。この組織型は肺がんの治療方針を決定するうえで非常に重要な情報となります。
STEP③:どの程度進行しているのか調べる
病理検査の結果「肺がんである」と診断(病理診断)された場合、治療方針や治療内容を決めるための検査が続きます。
このとき行われる検査には、CT検査、PET-CT検査、頭部MRI検査、骨シンチグラフィなどがあります。
※詳しくは『肺がんの診断後に行う検査』へ
検査によって合併症が起こる可能性も
肺がんの検査の中には、体内に器具を挿入するもの、細胞や病変を採取する病理検査(生検)など、体への負担が大きい検査もあります。また、これらの検査により合併症が起こる可能性もあります。
気管支鏡検査の合併症・リスク
気管支内に管を挿入することで、出血や気胸(ききょう:肺に穴が開いてしぼんでしまう)、発熱や肺炎、麻酔薬によるアレルギーなどの合併症やリスクが考えられます。
経皮的針生検の合併症・リスク
気胸(ききょう)や喀血(かっけつ:せきをしたときに肺や気管からの出血があること)、血栓症、血管損傷、麻酔薬によるアレルギーなどの合併症やリスクが考えられます。
どちらの検査を行う際も、体の状態を十分に考慮した上で行われます。合併症やリスクについては事前に医師から説明が実施されます。わからないことや不安に思うことがあれば、些細な内容でも担当の医師や看護師に確認するようにしましょう。
確定診断が出るまで時間がかかることも
病変の一部(組織)を採取してから病理診断の結果が出るまで、数日〜2週間ほどかかります。そのため、多くの場合、がんの疑いから診断の確定に至るまでには2週間〜1カ月ほどの時間がかかるのです。
結果を待つ間「がんだったらどうしよう…」と不安に感じる人も少なくないでしょう。もし、がんだとすれば少しでも早く治療を始めたいと思うかもしれません。しかし、がんの疑いにより精密検査を行うことになっても、必ずしもがんと診断されるわけではありません。また、肺がんであったとしても、患者さんに合った適切な治療を行うためには、現状をきちんと把握しておく必要があります。
そのため、結果が出る前からあまり心配しすぎないようにしましょう。どうしても不安が強い場合には、主治医やがん相談支援センターなどに相談することをおすすめします。