プロフィール
妻と2人の娘(当時13歳、9歳)との4人家族。
2011年、43歳のときに人間ドックがきっかけでステージ3の悪性リンパ腫[濾胞性(ろほうせい)リンパ腫]が見つかる。上司のすすめもあり4カ月ほど休職し、治療中に復職。抗がん剤治療を受け、現在(2024年取材時)は寛解の状態。抗がん剤治療中は、脱毛や気持ちの落ち込みなどの副作用にも悩まされた。
抗がん剤治療の副作用として、脱毛を経験する患者さんは男女ともに少なくありません。「また髪は生えてくるのか」「まわりの人にはどうやって伝えたらいいのか」など、悩みの種類もさまざまあるようです。今回は、悪性リンパ腫の治療で脱毛を経験したK. S.さんの体験談。まだ幼かった子どもへの伝え方、また男性患者さんにおける脱毛対策の事情などについて語ってもらいました。
娘にがんだと知られたくない。その想いが病院選びの基準に
―― がんが見つかったきっかけと、その後の治療の流れについて教えてください。
悪性リンパ腫、つまり血液のがんなんですけれども、僕の場合、自覚症状はほとんどなく、人間ドックがきっかけで見つかりました。まれなケースだったようで、血液検査はとくに問題はなかったのですが、腹部エコーで異常が見つかったんです。その後、血液の専門医がいる病院へ行き、内視鏡検査で腫瘍から取った組織で病理検査をして、悪性リンパ腫と確定診断されました。
そして、抗がん剤治療を受けました。治療については自分でもネットで調べてみたのですが、どこの病院も基本的な治療の流れは大体同じだったのと評判のよしあしまではわからなかったので、当時働いていた会社から近くて通いやすく、比較的患者さんがたくさん通っていそうな病院で受けることにしました。
ただ、名前に「がん」とついているところは避けました。
―― どうして「がん」とついた病院を避けたのでしょうか?
娘が2人いるのですが、当時、娘にどうやってがんのことを伝えるか悩んで…。結局、病気になったということは伝えたのですが、がんになったという直接的な話はしなかったんです。そういう背景もあり、「がん」とつくところだと、もし子どもが病院に来ることがあればがんということがすぐわかってしまいますよね。
ほかにも、抗がん剤治療の副作用で髪の毛が抜けてしまうことには一番悩みました。「どうしてパパの髪の毛抜けるの?」と子どもに言われて、すごく悩ましかったです。
実際に探して感じた、男性向けウィッグにまつわる情報の少なさ
―― 髪が抜けてきたのは、抗がん剤治療をスタートしてどのぐらいのタイミングでしたか?
3クール目くらいからですね。薬を飲みはじめてすぐということではなかったです。髪が抜けはじめたタイミングでバッサリ坊主にしました。
もう休職に入っていましたが、坊主にするのは何十年かぶりだったこともあって、意外と勇気が必要で。「いよいよか」というような一抹の寂しさもありました。
―― お子さんから「どうして髪の毛が抜けるのか」聞かれたということでしたが、どんなふうに返事をしたのでしょうか?
がん治療の副作用でということは直接的には伝えてないんですが「ちょっと病気になって、しばらくおうちにいるよ。髪の毛は一旦抜けちゃうんだけど、治療が終わったらまたもとに戻るからね」という感じで、サバサバっと伝えました。
治療から10年以上たちますが、子どもに伝えた通り、今は治療前と同じ髪型に戻っています。医師からも「一旦抜けるけど、またもとに戻るからね」と言われていたのですが、抗がん剤治療が終わったら実際その通りに髪はまた生えてきました。
―― ウィッグや帽子を着用するなど、ほかの選択肢も検討されたのですか?
僕の場合、脱毛の症状がはじまったのがまだ少し暑いころ(秋口)だったこともあって、暑くて帽子はかぶっていられなかったですね。それで、ネットで調べたら坊主にしたという男性がいて、僕もスッパリ坊主にしました。あとウィッグは、女性用のものはたくさんあったけど、男性用の情報は当時あまり見つけられなくて…。
髪があると、薬が効いている間はまだらに抜けてしまって、その処理も面倒くさいし、途中からすごく抜けるようになったので、それがちょっと嫌だなと思ったことも大きいですね。最初にバサッと切ってしまえば、家族にも「(もとの短髪から)ちょっと短くしてきたよ」というふうに言えますから。
ちなみに、抗がん剤治療中に職場復帰したときは、冬場だったこともあり毎日帽子をかぶっていました。まわりにはがん治療について説明はしていなかったのですが、生え際まで髪の毛がなくて帽子をかぶっていたらみんななんとなくわかったようで、とくに何も言われることはありませんでした。
ただ、今振り返ってみても、脱毛の対応策についてはほかの男性の意見もいろいろ聞いてみたかったなと思うところもあります。
―― もし、ほかにも情報に出会えていたら、心構えや対策など変わっていたと思いますか?
ネットやSNSを使えば、がんに関する情報や同じ病気になった方などはすぐに見つかるのですが、脱毛対策について男性のがん患者さんで情報発信している方は少ない印象でした。僕がよくやり取りしていた患者さんたちも、ウィッグは使わず、みんなバッサリ坊主にしていた方が多かったです。
ウィッグをかぶる男性は多いんですか? 僕は選択肢になかったけど、もし抗がん剤治療中に、男性でウィッグを使用している方の情報に触れていたら、また違っていたかもしれないです。例えば、男性俳優さんとか影響力のある人が、がんになって髪が抜けたときにウィッグを使ってそのよさを発信してくれたら「この人が使っているなら自分もウィッグ試してみようかな」と思う人もいるんじゃないかと思います。
“脱毛”にナーバスになりすぎない
―― 当時はどんな思いで、“髪が抜けること”に向き合っていたのでしょうか?
シンプルに「治療が終わったら髪はまた戻るからね」ということが一番のメッセージだと思います。男性も女性も、一時的に髪は抜けてしまうけれども、また髪は生えてきます。なかにはもう戻らないんじゃないかと不安になる方もいるかもしれませんが、大丈夫です。
今はちょっとしんどいかもしれないけれど、まずはしっかり治療をしたほうがいい。家庭持ちで子どもが小さい方は、万が一、命を落としたらもう子どもに会えないですからね。脱毛に対してナーバスになりすぎないことが大切だと思います。


