プロフィール
夫と高校生の長男を含む3人の子どもと暮らす5人家族(診断当時、子どもは13歳・10歳・8歳)。熊本県で家族経営の飲食店を営む。
毎年夫婦で受けている人間ドックがきっかけとなり大腸がん(結腸がん・ステージ0か1)が見つかる。更年期障害からくる不安症状の治療や、子どもの受験などと重なり、精神面で苦労することは多かったものの、早期発見ということもあり内視鏡検査のタイミングでがんは切除され、現在(2024年取材時)は経過観察中。仕事も変わらず続けている。
人間ドックがきっかけで大腸がん(結腸がん)が見つかったT. I.さん。がん自体は内視鏡検査の段階で切除され、告知のタイミングで治療も終了するなど、比較的スムーズに進んだものの、更年期障害なども重なり精神的に悩むことも多かったとのこと。
大腸がんの発見から治療が終わるまでの経緯やそのときの気持ち、またがんを経験したことで起きた変化などについて話してもらいました。
早期発見により、大腸がんの診断とともに治療終了
―― 大腸がんが見つかったときの経緯を教えてください。
毎年受けている人間ドックがきっかけです。そのなかの便潜血検査で陽性反応が出てしまいました。それまでは、腹痛や血便などの自覚症状はまったくなかったのですが、内視鏡で精密検査をしたほうがいいということになり、紹介状を持ってすぐに近くの胃腸科に行きました。
そこは個人病院で、その場ですぐに内視鏡検査を受けることはできなかったので、その1週間後に検査を受けました。
検査が終わったあと、先生から「ポリープが5個見つかったので(切除したものを)すべて病理検査に出しますけど、ひとつは形がおかしくて大きい。いびつな形をしていて、30%くらいの確率でがんかもしれない。また詳しいことは結果が出てから考えましょう」というような説明を受けました。
それを聞いて、私はパニックといいますか、不安になってしまったんですけど…。先生には「これがもしがんだったとしても初期の段階のものだから、今クヨクヨしてもしょうがないよ」と励ましていただいたのを覚えています。その日は検査の際にポリープを切除したので、そのまま1日入院しました。
検査から1週間後、主人と一緒に病理検査の結果を聞きに行き、そこで大腸がん(結腸がん)と告げられました。
―― 診断を受けて、その場で治療方針についても説明があったのでしょうか?
実は、がんは内視鏡検査のときに(切除したポリープのひとつががんであり)すでに切除されていました。なので、検査の段階で治療は終わっていたようです。早期に発見できたこともあり、ステージは0か1に近いということでした。2年後ぐらいにまた大腸の内視鏡検査をしましょうということで、ひとまず治療は終わりました。
検査とは別日に(内視鏡を使った)手術となる病院が多いようなのですが、私が行った病院は、切れる大きさだったらその場で切除するというやり方を取り入れているとのことでした。
不安症状を落ち着かせた「自分の体を自分で救えた」という視点
―― がんと診断されたとき、心療内科にも通われていたと伺いました。当時、どのようにがんと向き合っていたのか教えてください。
更年期に入ったこともあって不安障害になってしまい、何をするにも不安を感じていたころでした。
検査の結果が出るまでは不安で、もう自分は死ぬんじゃないかとか、極端なことを考えるようになっていました。めまいがするような、立っていられないような苦しさが押し寄せてきて…。もし、私ががんだったら子どもたちのことはどうしたらいいんだろうと考えてしまって、夜も恐怖で熟睡できませんでした。
あと、不安からネットでいろいろな情報も探したんですけど、誰が発信したかわからないような記事を見ては「自分はどれに当てはまるんだろうか…」と悩んだり。ほかにも、過去の人間ドックの結果で何か予兆を見落としはいないか探したり、こうなってしまったのはお酒を飲んでいたからじゃないかと考えたり、自分を責める日が続きましたね。
当時は主人にも、がんになったらどうするかという話ばかりしていたみたいで、主人もたぶん苦しかったと思うんですけど、もう私の頭の中は不安だらけ。パニック状態でした。
そんななか、心療内科の先生にも大腸がんかもしれないということは相談に行きました。そこで先生から「これはある意味ラッキーだったんだよ。ちゃんと人間ドックに行っていたからこそ、自分で自分の体を救えたんだよ」と言ってもらえたことで、自信を持つことができたのだと思います。「そうなんだ。自分で自分を守れたんだ」というふうに視点を変えることができたので、だんだん気持ちがリラックスして、その状況を受け入れられるようになっていきました。
―― がんの治療は終わり、今は経過観察中とのことですが、今もまだ不安感は続いていますか?
がんの切除が終わったと聞いて、不安はだいぶやわらぎました。
ただ、更年期からくる不安の症状はその後も続いて、がん以外にも不安を感じることはありました。がんが見つかったあと半年くらいかけて徐々に和らいでいって、今は心療内科からも卒業しています。
まだ幼い子どもたちとのコミュニケーション
―― がんと診断されたとき3人のお子さんはまだ未成年でしたが、がんが見つかったことは伝えましたか?
子どもは当時13歳、10歳、8歳でした。
内視鏡検査を受けるときに「入院するかもしれないよ」ということは伝えてありましたが、大腸がんだったことは今もまだ伝えていません。
そのころは一番上の子が受験のタイミングだったことに加え、真ん中の子が起立性調節障害*になり、朝から学校に行くことができず不安定になってしまっていたので、大人になるころには必ず言うべきことではあるものの、今は伝えるべきではないと思ったんです。
* 起立時や起床時のめまい・ふらつき・起床困難・腹痛・吐き気などが現れる症状
―― ちょうどいろいろなことが重なったタイミングだったのですね。お子さんたちにはいつごろ伝えるか、すでに決めていたりするのでしょうか?
いろいろ理解できるようになってから徐々に、と考えています。親が病気になるということは、子どもたちにとってはたぶんすごく大きなことで、心にモワッとしたものを感じてしまうのではないかと思うんです。今、高校生になった長男には先に伝えるべきかなと考えています。
実は私の両親もがんを経験していて、父は大腸がん、母は乳がんでした。ふたりとも今も元気にしていますが、大腸がんや乳がんは遺伝する可能性もあると聞くので、子どもたちが大人になるとき、社会に出るときには、毎年ちゃんと検診を受けてほしい。そうすれば自分を守れる可能性は高くなるんだよということを伝えたいと思っています。
忙しくても、たった1日の人間ドックで命を守ることができる
―― ご両親ともにがんを経験されていたということで、ご自身も人間ドックなど検診は積極的に受けるようにしていたのでしょうか?
自営業なので、会社で受けられるような健康診断はないこともあり、主人と一緒に毎年人間ドックを受けるようにはしていました。
でも、人間ドックで対応してもらったレントゲン技師の方に「胃にポリープがたくさんあるから、大腸にもポリープがあるかもしれない。40歳を過ぎたら大腸の内視鏡検査も受けたほうがいい」と言われて、(人間ドックの検査項目である)便潜血検査だけではだめなんだと思っていた矢先に、今回運よく便潜血検査でがんを見つけることができたという状況です。
父が大腸がんを経験していたこともあるし、もっと早くから内視鏡検査も受けるべきだったのかなと後悔の気持ちもあるのですが、今回は早期に見つけることができて、内視鏡検査の大切さも学べたので、いい経験になったと思っています。
―― 大腸がんを経験して、生活や気持ちに変化はありましたか?
生活の面においては、日常生活には何も支障がないと言われたので、内視鏡検査の翌日、退院したその日からいつも通り働いています。何かしていないと落ち着かないということもありましたし、クヨクヨしてずっと横になっているよりも、いつも通りの日常を過ごしたほうが楽でした。
気持ちの面の変化としては、家族の存在や、いつも通りの毎日を送れることのありがたさが身にしみるようになりました。
あと、私は自分のことをさらけ出して話すタイプなので、大腸がんになったことを友だちには伝えているのですが、子育てに追われて人間ドックに行っていない友だちもまわりに結構いるんです。「たった1日、数時間はとられてしまうけれども、それで自分の命を守ることができるなら人間ドックに行ったほうがいいよ」と伝えるようにしています。
子育てに忙しくてそれどころじゃないという方も多いとは思いますが、親が病気になったときに一番影響を与えてしまうのは子どもなので、親の役目として自分で自分の身を守ることも、子どものためになるんじゃないかなと強く思っています。


