プロフィール
妻、娘(13歳)と3人暮らし。愛知県在住。自営業(化粧品販売会社を設立。がん診断時は衛生材料メーカーの会社役員)。
2018年にステージ1の肺がんと診断され、左肺の上葉を胸腔鏡手術で切除した。手術後に4クールの抗がん剤治療を受けるなかで、脱毛などの副作用を経験した。その後、経過観察中の2022年には全身の骨への転移再発と診断され、再び抗がん剤治療を開始し、2回目の脱毛を経験した。2023年にセカンドオピニオンを受けた際、骨転移再発が誤診であった(転移がなかった)ことが判明し、現在は転医して無治療経過観察中であり、肺がんの再発なく経過している。
抗がん剤治療の副作用のひとつに「脱毛」がありますが、その影響の受け止め方や対策は人それぞれです。特に男性の場合、女性に比べて情報が少ないと感じ、どのように対応すればよいのか戸惑うことも多いのが現状のようです。今回は、2度の抗がん剤治療で、脱毛を含むさまざまな副作用を経験したA. K.さんに、脱毛について振り返り、見た目の変化とどう向き合ってきたか、当時の思いとともに語ってもらいました。
肺がんを患い、2度の抗がん剤治療を経験
―― がんと診断されたときのことや治療の経過について教えてください。
最初にがんが見つかったのは2018年です。左肺の上葉に腫瘍(しゅよう)があることがわかり、胸腔鏡(きょうくうきょう)手術で摘出しました。病理検査の結果、顔つきの悪いがんが混ざっていたことがわかって、抗がん剤治療を4クール受けることになりました。
そのとき、初めて抗がん剤の副作用としての脱毛を経験しました。脱毛のほかにも、吐き気や食欲不振、皮膚のしびれなどがありました。体重も自然に減っていって、もうガリガリに痩せました。元気がなくなり声も出なかったです。
治療を終え、経過観察をしていましたが、2022年11月、全身の骨にがんが転移していると言われました。主治医から「延命治療を行う」「治療法は抗がん剤しかない」と告げられ、再び抗がん剤治療を開始することになりました。治療は3クール続けて、そこで2回目の脱毛を経験しました。
でも、抗がん剤治療を受けても苦しいばかりだったので疑問に思い始めて、2023年6月にセカンドオピニオンを受けました。それがきっかけで、がんの転移はなかったことがわかったんです。
見方によっては誤診ともいえるかもしれません。結果として、がんではない体に抗がん剤を打っていたことになりました。
抗がん剤治療で起こった脱毛の副作用――最初は“抜けない”と信じていた
―― 1回目の抗がん剤治療を受けるとき、事前に脱毛への対策はしていたのでしょうか。
事前に帽子などを準備することはせず、ひたすらインターネットで“脱毛しない場合もある”という情報を探し続けました。そして、その言葉を見つけて信じました。主治医の先生にも「脱毛が起こらない場合もあるんですか?」と質問していましたね。
でも、抗がん剤を打って2週間ほど経ったころ、髪をかき上げるとボロボロと抜けてしまいました。シャンプーをしたときの抜け毛も見るからにわかりましたし、朝起きると枕に抜け毛がたくさんついていました。それが3~4日続き、「さてどうしよう」と考え始めたのですが、それでもまだ「全部抜けることはないだろう」と思っていましたね。
―― その後、どのような対応をしましたか?
抜け毛が止まるのではないかと、行きつけの美容院で髪を短くカットしました。でも、カットしたその日中に、すべて抜け落ちたくらいの状態になりました。まゆ毛もなくなりましたね。すぐに、仕事用のハットと普段用のニットキャップを購入しました。
とくに仕事では丸坊主の姿を見せたくなかったので、スーツに合う中折れ帽(頭頂部の中央が縦にへこんでいるハット)を選びました。医療用ウィッグも検討し、病院の近くにある専門店で試着してみたのですが、似合わないと判断してやめました。ニットキャップは安いものだったので、すぐ伸びてしまって、何個か購入しました。
脱毛したのが冬だったので、頭がとても寒かったのを覚えています。育毛剤を使って頭をマッサージしたりもしましたし、女性が使うまつ毛やまゆ毛用の育毛剤をもらってまゆ毛にちょこちょこと塗ったりもしていましたね。毛が全部抜けてからは未来を見るしかなくて、「抗がん剤終わって早く生えろ」ということしか考えていなかったです。
抗がん剤治療が終わって、髪が生えてくるときはチクチクして痛いなという感じがしました。生えてきたのはクルクルのくせ毛でしたね。抗がん剤をやめてから髪が生えてくる目安をインターネットで調べて、「来年の今ごろは…」と思い描きながらがんばっていた覚えがあります。帽子は「人様にさらしても大丈夫かな」と自分で思える長さになるまでかぶっていました。
周囲の目が気になった――脱毛で感じたプレッシャー
―― はじめて脱毛を経験したとき、どのような気持ちでしたか?
正直ショックでしたし、鏡を見たくなかったです。当時は大阪に単身赴任中でしたが、地元の名古屋に戻り、会議はオンラインで参加していました。従業員さんたちには「治療中なのだろう」「がんなのだろう」と認識されていたと思います。
会社の人たちからは休むよう言われましたが、私は「仕事をしないと自分の価値がない」と思っていたので、とにかく動きたかったんです。スーツを着るとモチベーションが上がるので、スーツに合うハットをかぶって、名古屋の事務所は家の近くにあったこともあり、可能なかぎり事務所まで歩いて行っていましたね。
また、ちょうど娘の運動会のタイミングだったのですが、非常に複雑な気持ちでした。結局ニットキャップをかぶって見に行ったのですが、痩せているし、まゆ毛もないし…。
娘の友達の親たちにそういう姿を見せるのは初めてだったので、なるべく自分が注目されないようにと喋らなかった記憶があります。今でも思い出すと泣きそうになりますね。
―― 家族とのコミュニケーションで気を遣った点はありますか?
家のなかでは帽子を脱いでいましたし、私から家族に気を遣うことはありませんでした。逆に、抗がん剤治療が終わったあと「生えてきた?」「伸びてる?」とずっと確認していましたね。とくに実家の母には写真を撮ってもらってどれくらい生えてきたか聞いていました。母も「ちょっと生えてきたんじゃない?」と気を遣ってくれていたように思います。
―― 1回目と2回目の脱毛対策で、気持ちの違いはありましたか?
1回目の脱毛のときは、“社会復帰できる”という確固たる自信がありました。そのためには見た目が大事なので髪の毛が必要、という感じでいろいろ対策しましたね。
2回目のときは、本当に生きることしか考えていなかったので、脱毛のことは重視していなかったように思います。「この先どうしよう」「家族をどうしよう」ということしか考えられなかったです。
男性向けの脱毛情報が少ない――事前準備の大切さ
―― これから抗がん剤治療を受ける男性に向けて、アドバイスはありますか?
脱毛は一気にやってくるので、なるならないは別にして、自分が納得できる準備はしておくべきだと伝えたいです。見た目重視であればウィッグもひとつの選択肢ですし、いろいろな選択肢を用意しておくべきだと思いますね。
でも、やはり男性向けの情報が非常に少ないように感じます。調べて出てくる写真も、みんな女性なんです。例えば、もとの髪に戻るまでにかかる期間について、女性のがん患者さんが発信していたブログやインスタグラムの写真を見て確認していました。男性の写真はどうしても出てこなくて…、調べ切れなかったです。
「男性ならはげていてもいい」「男性は見た目なんてそんなに気にしなくていい」と言われているように感じました。
私としては、男性も女性も関係ないと考えています。また帽子やウィッグについては、本来はTPOを考えて、シーンごとに用意できるといいのではないかと思います。「仕事のときはこれ」「自宅で恥ずかしいと思うときはこれ」というように、男性向けの情報がもっとあるとありがたいですね。


