プロフィール
神奈川県在住で、夫と息子2人(大学3年生と高校3年生)の4人暮らし。元新聞記者。現在は会社員としてイベントやセミナーの運営全般を担当し、企画・広報・司会まで幅広く携わる。
2018年、会社の健康診断がきっかけで精密検査を行い、46歳でステージ1の直腸がんが発覚。手術、一時的ストーマの造設、抗がん剤治療を経験する。罹患後1年たたない2019年、肺への転移が発覚してステージ4に。以降、3度の転移性肺がんの手術を行い、2023年3月より経過観察中。2021年に直腸がん局所再発となった時に永久的ストーマを造設した。
永久的ストーマにして旅行なども楽しめるようになったK. S.さん。積極的に情報収集をするなど、自分らしいストーマ生活を模索するなかで「幸せ」を感じるようになったとか。自らが経験したこと、感じたことを通して、ほかの人にも伝えたいということについて語ってもらいました。
オストメイトのアドバイスや口コミが参考になった
―― ストーマ装具や便利グッズについては、どのように情報収集をしましたか?
ストーマの手術を受けたときに処理の仕方を事細かに教えてもらうのですが、そこでその病院が取引している業者のいろいろなものを紹介されます。それがファーストコンタクトですね。
そのほかに、日本オストミー協会という団体から情報をもらいました。そこは日本各地に支部がある協会でがん以外の人たちもいらっしゃるのですが、情報の総本山のようなところで、ストーマ歴30年という人たちもたくさんいらっしゃるんです。オンライン交流会があったときに、協会では50歳のオストメイト(ストーマを保有している人)は若いほうらしいのですが「50歳でも入っていいですか?」と聞いて、入れていただきました。
そこで「あなたはこういうのを使ったほうがいいわよ」といった情報をいただいて。「こういう世界があるんだ!」と知ることができました。私はストーマにしてからわりと早い時期にいろいろな情報に接することができたと思います。それ以降は、好きなオストメイトさんたちのSNSの発信を見て、情報を仕入れることが多いです。やっぱり実際に使っている人の口コミって、いいですよね。サンプルの取り寄せができることも知ることができました。
―― サンプルでほかのストーマ製品も試されたのですね。
はい。病院で紹介されたものはもちろん自分に合っているんだけれども、種類があるなら試してみたくなりますよね。結局いろいろ試してみて、やっぱり病院に紹介された最初のものが合っていた、ということにはなったのですが。
でもそれはその病院にもよりますし、病院とメーカーさんとの関係性にもよりますし、薬と同じだと思うんです。積極的に行動しない限りは入らない情報だと思うので、知らないから良い製品を使えないでいる人たちも、たくさんいるのではないかなぁという気はしています。
ストーマがあって私の体。いいように扱うしかない
―― 上手にストーマと付き合っているんですね。
上手にといいますか、これが“私の体”なので、自分でいいように扱うしかない、という気持ちです。ただやっぱり、体型やストーマの状態も本当に千差万別なので「Aさんに合うから私にも合う」とはならないですよね。そこが難しいところなので、私が人にすすめる場合は「私には合ったけど…」といった言い方にしています。ストーマの状態については、ストーマ自体がとても処理しやすい・管理しやすい形状で作られた人もいる一方で、大きかったり、小さくてへこみがあったりして扱いが難しいケースもあるんですよ。
これには医療の地域格差もあると思うし、病院や先生によって得意なことの差もすごくあると思っていて、ストーマの話を発信するときはその観点を忘れてはいけないと思っています。
私の場合はストーマに定評のある病院で造設してもらったのですが、医療の地域格差っていろんな点であると、とても思うんです。そうなると、“排便障害を抱えて我慢したほうがいい”という人生もあるかもしれない。私は(ストーマのほうが)総じていいとは思うものの、諸手(もろて)をあげてみんなにおすすめするのは難しいなとも思っています。
でも、排便障害が本当にひどい人はストーマがいいって、医師の間でもそういう考えになってきてるんじゃないかなという気がします。肛門の温存がいいとされるケースもあれば、温存したことで再発が増えるケースや排便障害がつらくなることもあるようですし。本当に難しいのですが…でも、私は今とても幸せで、ストーマでハッピーになっている人が実際にここにいるっていうことは事実です。あのときのつらさを思えば「こんなすごいシステムを誰がいつ開発してくれたんだろう!」って、本当にそう思えるくらい、ストーマってすごいものだと私は思っています。
「ストーマって、悪くない」。それをうまく伝えられたらいい
―― 改めて、ストーマになってどんなお気持ちですか?
がんになると、がんの治療の話が最初に来るから、誰もその先のことは考えられないですよね。“直腸を切ったその先にはひどい排便障害がある”と先に脅されるのも…とは思うし、難しいところです。でも“この先結構大変だよ”ってことは、もう少し強めに先生たちからも教えてほしいなっていう気持ちはありますね。
私が声を大にして言いたいのは「ストーマって、悪くないよ」っていうことです。
旅に出ることができたり、人と会って楽しく過ごせたり、トイレを常に意識しなくてもいい人生を送れているのは、本当にこのおかげだから。有無を言わせず(初回の手術でストーマを造設する方針が決まり)永久的ストーマになった経緯の人とはまた違うかとは思いますが、ストーマを受け入れるということも課題だったと思います。どうしてもストーマを受け入れられないっていう人もやっぱりいらっしゃるし、つらいだろうと思います。
人の気持ちってそう簡単に変えられるものではないと思うから「無理して“大丈夫”って思いましょう」とも言えません。ただ、私が(がん罹患後も海外旅行を楽しむ様子をYouTubeで配信するなど)楽しんでいる様子を見て「あ、何か楽しんでもいいんだ」って思ってくれた人もいらっしゃるようなので、それであればよかったと思っています。受容できたらストーマのほうが本当に楽になったし、幸せに生きられているので。「みんなも早く受け入れなよ」って言ってみんなができたら楽なんですけどね。これは本当に難しいです。でも、自分の経験を発信してそういうお手伝いができたらいいなとは思います。