プロフィール
神奈川県在住で、夫と息子2人(大学3年生と高校3年生)の4人暮らし。元新聞記者。現在は会社員としてイベントやセミナーの運営全般を担当し、企画・広報・司会まで幅広く携わる。
2018年、会社の健康診断がきっかけで精密検査を行い、46歳でステージ1の直腸がんが発覚。手術、一時的ストーマの造設、抗がん剤治療を経験する。罹患後1年たたない2019年、肺への転移が発覚してステージ4に。以降、3度の転移性肺がんの手術を行い、2023年3月より経過観察中。2021年に直腸がん局所再発となった時に永久的ストーマを造設した。
永久的ストーマ(人工肛門)を造設し、排便障害に悩む日々が改善したというK. S.さん。今回は、永久的ストーマにしてトイレを気にせず出かけられるようになってからの生活について、詳しく教えてもらいました。
海外旅行や温泉を楽しむ日々。最近はギリシャにも
―― 今では旅行に行っているそうですが、ストーマ(人工肛門)であることに不安はありませんでしたか?
はい、旅行しまくっています。旅行中に問題があるとしたら、便意がコントロールできないので、ストーマ袋が便でいっぱいになることですかね。通常は袋に半分たまったくらいで、トイレでストーマ袋の中の便を捨てるんですけど、しばらくトイレに行くことができないのにたくさん便が出たりすると、袋がパンパンになってしまいます。そんなときは「早く捨てに行かないと袋が破れちゃう!」ってなりますね。機能的にはそう簡単に破れないのですが、その恐れを感じてしまうので。
先日は飛行機に乗ってギリシャに行ってきたのですが、ロングフライトだと「今トイレに行かなきゃ」って思ったときにシートベルト着用サインが出て、焦るなんてことはありました。でもそれくらいで、袋がパンパンになることはそこまで起こらないです。
―― 海外の滞在中も、問題なく過ごせましたか?
はい、問題なかったです! オストメイト(ストーマを保有している人)専用ではない普通のトイレでも全然困らないですね。ただ、ギリシャの修道院に行ったときはトイレが和式のような形の便器で、洋式ではなかったんです。そのときは袋の中の便を捨てることができずに困りましたね。次の場所に移動したときに捨てられたから大丈夫でしたけど。アジアの国々は和式トイレが主流だそうで、行った人は大変だったと言っていました。
ストーマって、おへその横あたりに袋を装着していて、その袋の口を開けて便を捨てるんです。洋式のトイレの場合は便座に普通に座って、足の間から袋の口を便器の中に入れて捨てられます。もしくは家のトイレだったら、床にひざまずいて袋を便器の中に入れて捨てます。でも和式トイレだと、それをしゃがみながら行わなければいけないので、体勢がやりづらいんです。外だと床に膝をつきたくないですし。
だから、そういう意味でもオストメイト専用のトイレがあるのはいいと思います。深いコップみたいになっている便器で立ったまま便を捨てられるので、あるとうれしいですね。
日本の温泉も行きまくっていますよ。でも温泉は、自分の気持ちの上でのハードルが高くって。最初の頃は、ほかの人と一緒に入らない貸し切りの温泉を利用していましたね。部屋風呂がついている宿にも奮発して行きました。でも今は、大浴場にみんなと一緒に入っていますよ。隠して入ればいい話なので、それはもう、自分の気持ち次第かなと。
「こんなの死んでも見られたくない」という人は絶対に入らないだろうと思います。でも私は多少見られたところで、別に悪いことをしてるわけでもないし、という思いがあるので、入るようにしています。でも気になる人は気になりますよね…これはやっぱり人次第だと思います。
そもそも人の排便スタイルって、人に話すことではないから、普通がよくわからないですよね。人によって(ストーマ袋にたまった便の)処理の仕方などにバリエーションがあり、何に・どこまで抵抗があるのかも、人によるのかなと思います。
ときにはもれたりすることも。でも、それも込みで“ストーマ生活”
―― 日常生活で失敗してしまったことはありますか?
失敗談は結構ありますし、今でもありますよ。ちょっともれてしまったりとかね。ストーマ袋自体から便がもれることはないのですが、体に貼り付けている部分(面板)が緩くなってきて、なんかくさいと思ったらそこから便がしみ出ていた、なんてことはありますね。そうならないようにテープを貼ったりするなどの対策はいろいろあるんですが、私はほとんど家にいるので、家でもれてきちゃったときはすぐにシャワーを浴びて、装具を貼り替えるようにしています。でもそれもミスっちゃったりすることもあって、そういうこと込みでストーマ生活、という感じですね。
――ストーマ装具の扱い方って大変なのかなと思います。
ストーマ用の装具って、たくさんのメーカーからたくさんの種類が出ているんです。でも、ストーマになったばかりの頃は、そんなことは知らないわけですから、病院に紹介されたものをみんな使っているんですよね。そのうち体型が変わってくると、“ちょっと太ってきたから合わなくなった?”みたいなことが起こります。そこで、「なんか最近もれやすいんです」というふうに病院に伝えたら「体重も少し増えましたし、変えましょうか」となるんですよ。
私が通っている病院のストーマ外来ではそういう相談ができて、その都度、自分に合った装具を選んでもらえます。でも、そんなことも最初は全然知らないというか、そこまで気が向かないっていうか、まずは必死で与えられたことを行う感じでした。
そのうちにストーマの先輩たちの話を耳にする機会が増えて「そんなこともあるんだ」「こんな便利グッズもあるんだ」みたいな感じで、知識を増やしていきましたね。
―― 便利グッズにはどのようなものがあるんですか?
最近気に入っているのは、腹巻きです。普通の腹巻きですが、切り口がほつれない素材でできているんです。だから、自分のストーマ装具の位置に合わせて穴を開けて、そこからストーマ袋を出して、袋と肌が接しないようにしています。ストーマ袋は不織布でコーティングされているものの、やっぱりプラスティックの感じがあって、素肌に当たるとあまりいい気持ちはしないんですよね。でも腹巻きをすれば、袋が肌に直接当たらない。それがすごく気持ちいいんですよ。
あとは、においが気になるときに使う、強めの潤滑消臭剤も気に入っています。潤滑消臭剤はゼリー状なのですが、それをストーマ袋の中に仕込んでおくんです。すると袋の中で便がひとまとまりになって、しかもにおいも抑えてくれるんですよ。
ストーマがらみのアイテムはいろんなものがいっぱい出ていますし、どんどん進化していると思います。がんの治療もそうですけど、そういったものの進化も1年単位。5年前と今とでは全然違っていて、この世界ってすごいなと思います。
積極的にストーマのある生活を確立するための工夫をしていったK. S.さん。さまざまな経験からほかの人に伝えたいことに気づいたという。詳しくは【後編】へ。