【プロフィール】
千葉県在住。夫と息子(高校2年生)の3人暮らし。
2017年(当時35歳)、人間ドックで胃がんが見つかり、胃の5分の4を切除。生検でステージ4、余命1年半と診断され、手術の1カ月後から抗がん剤治療(化学療法)をスタート。2019年には卵巣転移が見つかり再び手術を行う。
闘病生活を経て2022年5月の検診で治療終了となり、2022年現在、術後5年(12月)に向けて経過観察中。
仕事は教育関連企業の事務職。抗がん剤治療開始時に退職を余儀なくされたものの、1年半後に復帰し、フルタイムで勤務中。趣味は競馬場で好きな馬を見ること、好きなアイドルのコンサートに行くこと。
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Tさんに胃がんが見つかったのは35歳の時。息子さんは当時、小学6年生でした。まだ小学生だった息子さんにがんであることをどのように伝え、治療中はどのように接していたのでしょうか。闘病5年目を迎えて病状が落ち着いた今、高校生に成長した息子さんへの思いとともに語ってもらいました。
最初は子育てへの不安を感じていなかった
――がんが見つかったときの子育ての状況について教えてください。
がんが見つかったとき、息子は小学6年生でした。主人か私のどちらかが習い事の送り迎えをすることはありましたが、二人ともフルタイムで働いていたので、息子一人で過ごす時間が多かったと思います。それもあって他の小学6年生の子たちと比べて、息子は一人で何でもできるイメージがありました。
――がんだとわかって、子育てへの不安は感じましたか?
自分は楽天家で、基本的になんとかなると思うタイプ。がんが見つかったときも子育てへの不安はなく、主人も息子のことを見てくれているし、なんとかできるだろうと思っていました。むしろ、住宅を購入したばかりだったので、ローンをちゃんと払えるんだろうかという金銭面の不安の方が大きかったですね。
頼りがいのある息子。でも、ダメージを受けていたと知った
――Tさんが治療している間、息子さんはどんな様子でしたか?
息子はもともと優しい子で、入院中はいつも病院に来てくれました。中学生になってからも、私が入院したときは学校帰りに毎日バスに乗って来てくれて、洗濯物を持ち帰ったり、差し入れをしてくれたり。
私、息子が来てくれると主人よりもテンションが明らかに上がるんです。ベッドに向かって足音が近づいてきてカーテンが開いたときの私の反応は、主人と息子とで全然違っただろうなって思います(笑)。
――とても頼りになる存在ですね。
はい、こんなに頼っちゃいけないと思いつつ、いつも来てくれて本当にうれしかったですね。
でもその後、手術をして、私が自分のことで精一杯だったとき、息子が1週間くらい学校をサボってしまったことがありました。朝は学校に行っているふりをして、そのまま家に帰ってくる、ということを続けていたみたいで、学校の先生から連絡が来て初めて知ったんです。以前、がんが確定し、息子にがんのことをストレートに伝えたとき、ショックを受けさせてしまったこと(※)もありましたし、やっぱり精神的にダメージを受けていたのかもしれないな……と思いましたね。
それからは一緒に出かける機会を作ったりなど、なるべくコミュニケーションを増やすようにしました。
※ Tさんの体験談『がんを告知されたあのときの私 ~「実は、ママ、がんだったんだよね」~』参照
自分がつらすぎて、気が回らなかった
――息子さんの学校行事に行くことは?
小学校の卒業式に行きましたが、ウィッグをして、体重が減って痩せているので誰にも会いたくないなと思いながらコソコソと参加しました。保育園時代のママ友たちで写真を撮ろうということになったんですが、バレないかなと思いながら撮って、本当はもっとお話ししたかったけどそそくさと帰りましたね。
その後、中学1年時の最初の半年くらいまでは、抗がん剤治療でぐったりしていて学校行事には行けませんでした。
当時は私の母が手伝いに来てくれていたんですが、息子にしてみれば、突然おばあちゃんが来て何泊かしていく、という日常にガラッと変わっていました。歓迎してはいたものの、何かしらのストレスを抱えていたんじゃないかと思います。
――見えない変化に気づくことはなかなか難しいものですよね。
はい、自分がつらすぎて、息子のことにまで気が回らなかった。正直、私は子育てと治療の両立はできていなかったと思うんです。
息子は私に色々と気を遣ってくれる一方、学校にうまく通えなくなったり、中学に入って始めた部活動も数カ月で辞めてしまったり。自分が健康だったら「どうして辞めちゃったの?」と聞いてあげられたかもしれないけど、何もできず、ただ時間だけが過ぎてしまった。精神的にすごく負担をかけてしまったな、かわいそうなことをしてしまったな、と思っています。
また、ちょうど反抗期を迎える時期だったんですが、「宿題やりなさい」と言ってムッとされるようなことがあったくらいで、いわゆる“反抗期ぽさ”は全然なくて……。それも申し訳なかったなという気持ちがありますね。
子育ての悩みに対して、正解はない
――子育ての悩みについて、誰かに相談したことはありますか?
子どものつながりでできた純粋なママ友はいなかったので、誰かに悩みを話すことは特にありませんでした。ただ、息子が学校を休んでいたとき、私がつらいと感じたことをブログに書いたことがあり、それを読まれた方からアドバイスをもらったことはあります。そのときは「子どもが学校に行かなくて“私が”困る」というふうに思っていたことを反省しました。
がんの仲間たちと作っているLINEグループなどでは、私は相談するよりも相談される側でしたね。幼稚園や小学校に通うお子さんがいる人たちからは「がんであることを子どもにどのように、どこまで伝えたらいいのか」といった相談が多かったです。そのときは、「こうした方がいい」とは断言せず「私の場合はこうでしたけど……」という感じで伝えていました。
――ママ友との関係に悩んでいる人も多そうですね。
自分の体験談ではないですが、LINEでつながっている人の中には、ママ友にがんであることを伝えるべきか、隠しておくべきかを悩んでいる人もいて、それによって疎遠になってしまうこともあるらしいです。ママ友側は「がんの人とどう付き合ったらいいんだろう」と考えちゃうのかな?と思うのですが、がんはたくさんある病気の中の一つにすぎません。がんだからと大げさに考えなくてもいいのにな、と思ったりしますね。
成人式で、息子のスーツ姿を撮るのが楽しみ
――闘病を始めて5年目を迎え、高校2年生になった息子さんの様子はいかがでしょう?
高校に入ってから前向きになったみたいで、休まずに通いたい、と毎日登校していて欠席ゼロ。勉強もがんばっていますし、部活も続けています。
それは今、私が元気でいることも関係しているのかもしれません。私がだんだん元気になっていくのに比例して、息子も精神的に元気になってきたという感じです。私の母はすごくタフで、病気をしているところを見たことがないんです。私はそんな母を見て元気でいなくちゃと思いながら過ごしてきたので、それと一緒なのかなと思います。
――病状が落ち着いて、息子さんへの気持ちは変わりましたか?
今は、余計な心配をかけないようにがんばらないといけないな、と思っています。当時の息子は私の詳しい病状について知らなかったと思うんですが、「5年経ったらお母さんの病気治るのかな?」とぽつりと聞いてきたことがあったんです。そのときは「治るといいね」と答えましたが、内心では「いやー、治んないんだよな……」と思っていて。息子が卒業するとき、成人するとき、結婚するときなどを私は見ることができないんだろうな、と正直思っていました。
でも、すごく先の希望は見えないけど、2年、3年先の希望は見えてきています。私のために成年年齢を18歳に引き下げてくれたのかな?とも思いましたが(笑)、成人式で息子のスーツ姿を見ることができそうです。そのときは、息子が小さい頃に写真を撮った場所へ一緒に行って、ビフォー・アフターの写真を撮りたいですね。