【プロフィール】
千葉県在住。夫と息子(高校2年生)の3人暮らし。
2017年(当時35歳)、人間ドックで胃がんが見つかり、胃の5分の4を切除。生検でステージ4、余命1年半と診断され、手術の1カ月後から抗がん剤治療(化学療法)をスタート。2019年には卵巣転移が見つかり再び手術を行う。
闘病生活を経て2022年5月の検診で治療終了となり、2022年現在、術後5年(12月)に向けて経過観察中。
仕事は教育関連企業の事務職。抗がん剤治療開始時に退職を余儀なくされたものの、1年半後に復帰し、フルタイムで勤務中。趣味は競馬場で好きな馬を見ること、好きなアイドルのコンサートに行くこと。
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人間ドックの検査結果を知らされて胃がんの疑いを持ったとき、真っ先にお金のことを心配したといいます。
今回は治療に関する支援制度など『お金』にフォーカスをあてます。お金について夫に伝えたこと、まわりからの情報の引き出し方や節約の工夫など、実際の経験を通じてたどり着いた考え方と併せて聞かせてもらいました。
漠然と「すごいお金がかかるかも」という不安
ーー病気が発覚したとき、真っ先にお金のことを心配されたそうですが、その時の気持ちを教えてください。
まず治療費がいくらくらいかかるのかが全然わからなかったので、漠然と不安はありました。病気をする前提で生きてなかったので100万、200万かかっちゃうのかなと。それまで医療費が高額になったのって出産くらいしか経験がなくて、でも出産の時は一時金みたいなのが戻ってきたと思うんですけど、たぶんがんの治療ってそういう戻ってくるようなものもないんだろうなと。
あとはちょうど家を購入してローンの審査が通った直後だったんです。私も働いて夫と一緒にローンを返していく前提だったので、そこも漠然とした不安はありました。
ーー病状や治療の説明に加えて、病院から治療費の話はありましたか?
病院からお金についての説明は一切なかったです。逆に今そういう質問を受けて、ほかのみなさんは説明を受けてるのか知りたくなりました。
ーーそうなんですね。利用できる制度などお金の知識はもともと持ち合わせていたんですか?
制度についてはほとんど知らなかったです。ある程度の額に達すると、確定申告すれば少しはお金が戻ってくるということは頭にありましたけど、それ以外は全然知りませんでした。
制度の存在を知って「なんとかなるかもしれない」と思えた
ーー漠然とした不安があったという話でしたが、制度やお金の知識について調べたり相談したり何かアクションを起こしたことはありましたか?
自分から調べるっていうよりはまず先に、告知されてすぐ上司に報告をしました。そしたら上司が「人事の人にも言っとくから」と言ってくれて、すぐ人事の方が面談してくれました。そこで初めて、「限度額認定証というのがありますよ」とか「傷病手当がもらえますよ」とか制度的なものを教えてくれたんです。あ、これならなんとかなるかもしれないってちょっと希望が持てましたね。
ーーなるほど。お仕事を治療でお休みする可能性を感じていた時、制度があると知って安心できたんですね。
実際、給料の2/3くらいの金額が支給されて思ってたよりもお金がもらえました。あと、私は医療保険に入っていて、がん保険には入ってなかったんですが、医療保険に加入してたおかげで入院・手術などでお金がおりました。
保険に入るとき、自分は病気しないだろうと謎の自信がありまして(笑)。子供の学資保険に入るときに保険屋さんに勧められて渋々入ったんですよね。でも、結果的に入っててよかったです。
ーー備えていたものにも助けられたんですね。
夫に伝えたのは治療費の話ではなく……
ーーこのようなお金の話について旦那さんと話し合いはしましたか?
私が家計を管理していて、夫には治療にいくらかかるとか生活費にいくらかかるとかの話は全くしなかったんですよ。もらえるお金を自分で把握し、これなら残された家族がなんとかやっていけそうだなという気持ちがあったので治療費については話さなかったです。
逆に(先生から)ステージの話をされたとき、「平均の余命が1年くらいですよ」っていう話をされて、もう結構すぐ死んじゃうな自分って思いました。なので、夫には「私が死んだら生命保険でいくらもらえるよ」のほかに「私が死んだらここに連絡してね」や「光熱費の支払いとかこうなってるよ」など、そういう話しはしました。私が死んだときのお金の動きについてはしっかりと伝えましたね。
恥ずかしさを捨てて知識のある人に相談することが一番
ーー会社への報告は上司の方が率先して動かれたと思いますが、今振り返って「こうするとスムーズにいきそう」と思うことはありますか?
会社勤めの人だったら人事の担当の人に、「こういう病気になっちゃって、入院とか手術とかあるんですけど、どうしましょう?」って漠然と相談するほうがいいかもしれないですね。人事の方はちゃんと制度を理解してると思うので、わかる人に相談することが一番いいかなと思います。
ーーなるほど。ほかにはどうですか?
あとは自分が入っている保険を今一度確認したほうがいいですね。かなり前に入った保険だとどういう保障がついてたかっていうのは覚えてないことが多いと思うので。
私の場合、保険会社のコールセンターに電話して、「こういう病気になっちゃったんですけど」って言うとオペレーターの人がすごく優しく教えてくれたんですよ。すごく心配してくれて。それがすごく助かりましたね。恥ずかしさや言いづらさなどの気持ちをいったん捨てて聞いたほうがいいなと思いました。
無駄な出費もあったが、やったことに後悔はない
ーー治療費以外には何にどのくらいお金がかかりましたか?
高額だったのはウィッグでしたね。結果的に安いやつでもよかったなと学んだんですけど、やっぱり大きな出費だったかなって思いますね。あと交通費とかですかね。わたしの通っていた病院はバスだったら片道180円くらいで、すごく元気だったら自転車でも行ける距離なんですけど、体調が悪い時はタクシーを使うのでその費用がかかりますね。
あと、そんなに大きい出費ではなかったんですけど、治療で痩せてしまった時に服のサイズがガラッと変わるので、洋服や下着を買い替えていました。
ーー免疫力アップやウィッグ以外に見た目のケアに払ったお金はありますか?
民間療法的なものも試したことがあって、1回2万円くらいで何回か通いました。でもやっぱ高いし値段に見合った効果かって言われるとちょっと疑問だったので、結局続けられずにやめました。
あとは治療がちょっと落ち着いて体力的にも余裕が出てきたころに、副作用でシミがすごかったんで、フェイシャルのレーザーに通ってました。これは美容医療になるのでお金がかかりましたね。結局それも、あんまり大きな効果がなくて結構無駄だったなと思いますね。気持ちに余裕があったほうがお金を使うんだろうなと思います。
ーー治療費以外では副作用の対策や予防などでお金がかかったんですね。コストを抑える工夫があれば教えてください。
振り返ってみて、無駄な出費だったなっていうことがあるのはあるんですけど、どれもやったことはよかったかなとは思っていて、当時もそんなに出費の削減という意識はなかったですかね。命にかかわることでもあるし自分の生活を維持していくために必要なことだったので。
同じ境遇の人に話すのが聞きやすくて的確な答えが返ってくる
ーーあまりお金にピリピリせず、安心して治療が行える環境があったというイメージでしょうか?
そうですね、決して裕福ではなく全然お金もないんですが、まぁ貯金がなくても暮らせればいいやっていう感じのタイプなんで、あんまりがんばって節約しなきゃという気持ちはなかった感じです。
ーーお金について相談したいことや悩みはなかったですか?
やっぱり傷病手当をもらっていたことが大きくて、生活費が足りないというようなことは正直なかったですね。だから相談する必要もなかった感じです。
ただ、私の胃がんの知り合いの方で高額な薬を使った治療をされていて、医療費の限度額いっぱいで払っている人がいるんですね。私の治療は高額ではないので、もし今後薬が変わって毎月高額な出費があると、悩んだり相談するかもしれません。
ーーお知り合いの薬物治療に関するお話はどのような経緯で知ることになったんですか?
胃がんの仲間で作っているLINEグループがあり、「限度額認定証ってあったほうがいいんですか?」と質問をされている方がいて、その話の流れで知りました。ほかにも介護保険のこともグループラインで初めて知りました。「がんでも申請はできる」と他の人たちが言っているのを聞いて、実際申請した人もいましたね。
ーーなるほど、そういう相談しづらい内容は仲間でしゃべるほうがしっくりくるんですか?
本当にそうですね。同じ病気を患ってない人に何を話してもたぶん100%理解してもらえないと思うんですよね。なので、同じ境遇の人に話して実際に同じ経験をしている人が一番聞きやすいですし、的確な答えが返ってくるかなって思います。
最初からうまくできる人はいない
ーーありがとうございます。では、最後にこれから治療する方に知っておくとよいことやアドバイスがあれば教えてください。
限度額認定証は入院・手術をする場合は必ず取得したほうがいいということですね。
それと、治療のサイクルは先生の言うことが絶対なんだろうなって、最初は思っちゃうんですが、治療を続けていると「休薬をもっと伸ばしたいです」とか、「この期間、旅行に行くからここは治療したくないです」など、わがままがある程度受け入れられるというのを学ぶんです。そうすると入院のタイミングとかも、「入院して」って言われても「いや、したくないです」って言ったり、だんだんずうずうしくなってくるんです(笑)。
ーー先生との信頼関係があってこそ成せる技なんでしょうね。
たしかにそうですね。先生と人間関係をちゃんと作るのも大事だと思いますね。最初からずうずうしくなれる人ってなかなかいないと思いますし、やっぱりある程度経験してから身に付くことかなと思いますが、最初からできると節約にもつながりますよね。
ーー実際に体験したからこそ得た知恵ですね。ヒントがたくさん詰まったお話をどうもありがとうございました。