【プロフィール】
埼玉県在住。夫と子ども2人(7歳と4歳)の4人暮らし。
下のお子さんの産休・育休中だった2018年3月(当時39歳)にステージ4の胃がんと診断され、その後、抗がん剤治療と胃の全摘手術を経て、現在(2022年)も闘病中。
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突然の重症な状態であったことから抗がん剤治療からスタートし、胃全摘手術を経て、術後の抗がん剤治療を続けて今年で闘病満4年を迎えます。がん治療の副作用・つらさにフォーカスをあて、実体験に基づいた解決方法や治療や副作用との向き合い方のヒントを、当時を振り返りながら語ってもらいました。
告知から治療開始まであっという間だった
ーー抗がん剤治療によって起きた副作用についてお聞きします。まずは、がんが見つかってから治療開始までの流れを教えてください。
ある日、突然倒れてしまったんです。吐血・下血をして緊急入院しました。倒れてからいろいろな検査をしましたが、告知までの10日間は原因がわからずとてもつらかったですね。退院の前日に先生から「あなたはがんでした、転移を疑っています。今後さらに検査をしてください」という内容のことを言われました。告知から約2週間で抗がん剤治療がスタートしたので、(治療を)やらない選択肢やセカンドオピニオンを受ける時間的な余裕はありませんでした。
ーー治療を開始する前に、先生からはどのような説明を受けましたか?
告知を受けたときに、「今後の治療の薬が4つ(の段階が)あります」と言われて、1st~4thライン*1で用いる具体的な薬の名前など、ステージ4の胃がん患者が受ける標準治療の全体像の説明を受けました。ステージ4の私でも、「治療がうまくいってがんが小さくなれば、手術のチャンスがあるかもしれない」ということも伺いました。でも、4つしかないんですか?っていう感覚もあったんですけどね。
私の場合は、奇跡的に治療がうまくいったので1stライン治療後に手術できたんです。治療の副作用については、製薬会社が制作した治療薬に関する小冊子を元に説明を受けました。
*1 切除不能の胃がんに対して行う初めての化学療法(抗がん剤治療)を1stライン(ファーストライン)と呼びます。通常は効果が期待できなかったり、副作用などで化学療法が続けられなくなったりするまで同じ抗がん剤を使用した治療を行います。次の治療に切り替えた際、その治療を2ndライン(セカンドライン)、その次を3rdライン(サードライン)、さらにその次を4thライン(フォースライン)と呼んでいます。
ーー治療の説明を受けてから実際に治療を開始するまでの間に、ご自身で調べたことはありましたか?
もらった冊子をじっくり読んで、副作用にはこういうものがあるのかなという心構えだけで治療が始まりました。実は、細かいことは調べていないんです。(1stラインの薬が)それでいいのか?と思っていたけど、結局は先生が言ってるから正しいんだろうと理解していましたし、今振り返っても細かく調べなくてよかったと思っています。
治療に専念できる環境に助けられた
ーー告知から治療開始までの期間が非常に短かったと思います。その中で治療を始めるにあたって、困ったことはありましたか?
がんのステージや副作用だけでなく、2人の子供のことですね。治療開始するときに3泊4日の入院が必要でしたが子供が小さくて……。私の場合は近くに住んでいた義理の両親のサポートを受けることができたんです。入院中や治療中には、子供を預かってもらって、上の子の保育園の送り迎えやご飯の世話もお願いできたのがとてもありがたかったですね。
ーー家事や育児についての悩みは解決できたというお話ですが、お仕事に関しての悩みはありませんでしたか?
私のがんが見つかったのは育休中だったんです。産休のあとそのまま育休に入っていたから、会社には「病気がわかったから予定通りには復職できません、もう少しお休みします」ってお願いしました。急に倒れて入院してがんがわかって、すごくバタバタしたけど、仕事の急な引継ぎで迷惑をかけずに治療に専念できましたね。
指先に物が触れないよう服の素材や着方にまで注意を払う
ーー専念できる環境を整え治療が開始できたというお話でした。抗がん剤治療の副作用というと、脱毛や吐き気が代表的な症状と言われていますが、実際に治療を開始してからはどのような副作用がありましたか?
現在は4thラインの治療を受けているのですが、1st~4thラインで投与する薬によって副作用が異なります。副作用は個人差があるので、症状が出たら一つひとつ対処していく感じでしたね。私の場合は血管痛、手足のしびれ、顔のシミや赤み、けん怠感、味覚障害、脱毛などがありました。その中でも、一番つらかったのはしびれですね。
ーーしびれは具体的にどのようなときがつらかったですか?
手足にしびれが強く出てしまって、物に触るだけでつらかったです。特に冷たいもの、カトラリーやドアノブなどを触るときは症状が強くなっていました。当時は、スマホも素手では触れなかったくらいです。しびれの原因になっていた薬をやめてからも半年間くらいは、手のしびれは残っていましたし、4年経った今でも足のしびれは少し残っているんです。
ーー身のまわりのものに触ることもつらかっただなんて……、そんなに大変な症状とずっと付き合ってきたのですね。しびれを少しでも軽くするために、工夫していたことはありますか?
しびれを和らげるために24時間常に布手袋をして、靴下は厚いものを履くようにしました。手袋は縫い目に当たるとダメで、裏返して着用していました。
着替えも大変で、指先を使わなくていいようにボタンの無い服を選んだり、指が触れたときを考えてサラサラ、ツルツルした触り心地の服にしたりと、素材を気にする日々でした。
私の場合、しびれていたのは指先から手首、足先からふくらはぎの途中までで、体はしびれていなかったので、服を裏返しに着る必要はありませんでした。服を裏返しにすると、かえって縫い目が表に出て、指先に当たってしまう危険性が高まるんです。とにかく指先に何かが触れるとビリビリ痛むような感じでした。
それと金属に触れるとしびれが強くなったので、カトラリーは木製に変えました。スマホはタッチペンや手袋だけだと操作できないので、手袋をして指サックもするようになったんです。シャンプーやお風呂も手袋がないと痛くて髪の毛にも触れないので、ビニール手袋が欠かせませんでした。
それに包丁も触れなくて……。包丁だけじゃなくて食材を触るのも痛かったし、布手袋とビニール手袋をして料理って難しいですよね。わが家は夫がもともと食事を作るのが好きだったので、1stラインの治療以降、料理は今でも夫が担当してくれています。つらかったところを夫がカバーしてくれたんですよね。
目標を持てないのがつらい
ーーここまで、手のしびれなど体に現れる症状の話を伺ってきました。それ以外に精神的な部分はどうでしたか?
うーん……。告知を受けてからはもうしょうがないなという感じだったんです。でもやっぱり先生に「(ステージ4で)治らない」って言われると悲しいというか、この先の目標が持てなくてつらかったですね。
ーーそうなんですね。目標がなくつらい状況をどのように克服したのでしょうか?
私と同じ胃がんのステージ4の状態で見つかって、治療を受けて奇跡的に生き残った人がいないかを探しました。そのときにがんサバイバーが作っている『がん患者の体験談が載っている雑誌』を見つけたんです。体験談を通して、かなり厳しい状況だったけど奇跡的に生きている人がいることを知ることができました。私がその中に入れるかはわからないけれど、奇跡が起こる可能性がゼロではないことをモチベーションにして治療に望んでいました。
ダンピング対策は家事をしながらちょこちょこ食べること
ーー次は後遺症についてのお話を聞かせてください。手足のしびれ以外に、がん治療による後遺症はありますか?
気になるのは、顔のシミですね。やっぱり女性だから、顔のシミは気になります。あとは1stラインの治療後に胃を全摘したので、ダンピング*2がつらいですね。
*2 ダンピング症候群のことで、胃切除前は少しずつ胃から腸へと移動していた食べ物が、胃切除により直接、急に腸へ移動することによって起こるさまざまな症状を指します。
ーー女性はシミ*3は気になりますよね。ここではダンピングの具体的な症状やYさんなりの対処法を教えてください。
*3 シミについては、Yさんの体験談『外見の変化と実践したケア ~顔色の悪さやシミ、育児に支障の出る二枚爪への対処~』参照
ダンピングは食事と関連した後遺症なので、ちょっと油断して食べ方を失敗してしまうと起こってしまうんです。軽いダンピングのときは気持ち悪くなったり、心臓がドキドキして脈が早くなります。軽いダンピングであれば休憩は不要か、横になったとしても30分くらいで良くなります。ひどいダンピングは、冷や汗・吐き気・めまい・下痢などが起こります。トイレに10~15分くらいこもって、その後も2時間ぐらい寝ないと回復しないんです。
ーーダンピングにならないために、工夫していることはありますか?
ダンピングの原因は、早食いや大食い、脂っぽいものの摂りすぎです。一回に食べる量を減らして、長い時間かけてゆっくり食べる、小分けに何回も食べるのを大切にしています。そうすると朝ご飯を1時間ぐらいかけて食べて、食べ終わって30分ぐらい休憩したらもう昼ごはんになっちゃうんです。
1日に必要な栄養が不足しないためには、気が向いたらちょこちょこ食べるしか方法がなくって。手術をして胃がないので食べ物をためて、少しずつ腸に送ることができません。だから、胃の代わりに自分でゆっくり腸に食べ物を送る必要があります。
手術後は家のダイニングテーブルにご飯をずっと出しておいて、通り過ぎる度に食べていました。習慣で早食いしたり、たくさん食べたりすると、ダンピングが起こっちゃうんですよ。ご飯一口食べて洗濯物干しに行って、おかず一口食べてトイレ行って、日常の生活の中でちょこちょこ食べるようにしていました。
ーー食事の取り方は、現在も継続していますか?
そうですね。手術からだいぶ経ちましたから食べ方で失敗することも減って、ダンピングになってしまうのは月2回ぐらいに減りましたね。ダンピングしそうなときが少しずつわかってくるんです。あの2口が多かった……とか。
今では、ランチ1人前であれば1時間ぐらいで食べられるようになったので、焦らず少しずつ食べる習慣をつけることが大切だと思ってます。
我慢せずに早めに相談すればよかった
ーー最後に、治療の副作用や後遺症の対処法に悩んでいる方にアドバイスをお願いします。
副作用や後遺症は一人ひとりつらさが異なります。人には気にならなくても、自分には死にたくなるほど、目標を失いそうになるほどつらいときもあるんです。あまりにも副作用や後遺症がつらいときは、主治医や看護師に相談するといいと思います。
私はしびれがつらすぎて、抗がん剤の量を減らしてもらったことがありました。それ以外にも抗がん剤を投与するときに血管が痛くなってしまって、とてもつらかったんです。どうしても血管痛が我慢できなくて先生に相談したら、胸に『ポート』という抗がん剤を投与するカテーテルを入れることになりました。点滴のために毎回針を刺すのは痛いし、刺し直しもありますよね。ポートは部分麻酔で手術をしなければならないので、その時は大変でしたが、ポートを入れた後は針刺しの痛みも血管痛もなくなって、かなり治療が楽になりました。早めにポートの手術をすればよかった、我慢していたのが無意味だったとも思ったんです。
がん治療は、歯をくいしばってするものじゃないと思っています。全てを解決できるわけではないかもしれませんが、主治医に相談することで解決できることはたくさんあると思いますね。