【プロフィール】
千葉県在住。夫と息子(高校2年生)の3人暮らし。
2017年(当時35歳)、人間ドックで胃がんが見つかり、胃の5分の4を切除。生検でステージ4、余命1年半と診断され、手術の1カ月後から抗がん剤治療(化学療法)をスタート。2019年には卵巣転移が見つかり再び手術を行う。
闘病生活を経て2022年5月の検診で治療終了となり、2022年現在、術後5年(12月)に向けて経過観察中。
仕事は教育関連企業の事務職。抗がん剤治療開始時に退職を余儀なくされたものの、1年半後に復帰し、フルタイムで勤務中。趣味は競馬場で好きな馬を見ること、好きなアイドルのコンサートに行くこと。
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胃がんが見つかり、抗がん剤治療の副作用による脱毛を経験したTさん。髪の毛が抜けることを医師から聞かされたときのことから実際に脱毛が起こったときのこと、その後ウィッグをどのように活用していったのかまで、当時の正直な胸のうちとともに語ってもらいました。
事務的な対応がショックだった
ーー最初に、治療の流れとどのように脱毛が起こったか教えてください。
胃がんが発覚して胃の5分の4を切除する手術を受けた後、すぐに抗がん剤治療が始まりました。お医者さんからは「だいたい2,3週間後くらいから髪の毛が抜けてくるよ」と説明を受けていて、薬の投与を始めてからちょうど2週間後ぐらいに手櫛(てぐし)でこうやってたらパラって抜けて、「あ、脱毛が始まったのかな」と感じました。10~20本くらいだったと思います。その日からどんどん抜けていって、数日後にお風呂場で髪の毛を洗っていたとき、カツラが作れそうなくらい一気にゴソっと抜けましたね。
ーー脱毛の副作用に関する説明を聞いたときはどのような印象を受けましたか?
お医者さんから「ウィッグの説明も受けた方がいいでしょうね、Tさんまだ若い女性なんで」と言われたんですが、女性だからって……とか別に若くなくても髪抜けるとショックだろうしな……とか考えて、なんともいえない気持ちになってしまいました。
その後に看護師さんからウィッグの説明を受けたときも事務的な対応をされてしまって……。
ーー事務的な対応ですか?
看護師さんは別に悪気もなかったと思うんですけど、一日に何人も説明するうちの一人に扱われているなっていう感じを受けちゃって。
「ウィッグはこういうのがあって、これがカタログです」「この近所だとここにお店がありますよ」みたいな感じでどんどん説明してくれるんですけど、こっちとしては髪の毛が抜けちゃうこと自体がショックなので、気持ちがついていかなくて。まだ抜けてもいないのに「ヘアアレンジを楽しんでいる人もたくさんいますよ」と言われても全然慰めにはならなかったし、このときが一番心情的にはショックでしたね。
ーー脱毛が始まる前に、そんなつらいことがあったのですね。
会う人にはカツラを事前に伝えることに
ーー脱毛が始まってからはどんなことを考えたのでしょう?
いざ抜け始めると開き直りのような感じで、髪の毛が『抜けること』に対してのショックはありませんでした。お風呂場でゴソッと抜けたときも、主人を呼んで一緒に片づけてもらっていましたし。
ただ、髪が抜けた自分の姿を一度も直視したことがなかったし、家族の誰にも絶対に見せなかったです。全部抜けた後は家でも頭にタオルを巻いたり帽子を被ったりしていました。
ーー外出するときはどうしていたのですか?
ウィッグを着けて外出していました。人と会うときは、相手にこの人もしかしてカツラ?と思われるのが嫌で、「私、今カツラだからちょっと不自然かもしれないけど気にしないでね」と会う前に言っておくようにしていました。そういう風に言える仲のいい友達とだけ会っていましたね。
医療用のほかにファッションウィッグも購入
ーーウィッグに関する情報はどのように集めましたか?
看護師さんからは「脱毛された方は医療用ウィッグを使われるんで」と言われ、医療用ウィッグの説明しか受けられなかったので、それしか買っちゃだめなんだ……と最初は思っていました。それでまず医療用ウィッグを買って。その後、色々ながん患者さんのブログを読んでいる中で、ファッションウィッグというものもあることを知ったんです。最終的にはファッションウィッグも何個か買いました。
ウィッグのことを調べるには、やっぱり人の体験談が参考になったと思います。他の人が買ってよかったお店や実際に着けている写真とかも見ていました。中でも、がん治療中の美容師さんが書いていたブログには、ウィッグを使ったヘアアレンジを毎日のように載せてくれていて、すごく参考になりましたね。
医療用ウィッグは選択肢がなかった
ーー最初は医療用のウィッグを購入されたのですね。そのウィッグはどのタイミングで購入したのですか?
手術の後に入院して、抗がん剤の点滴をして退院した後です。手術の前はまだ脱毛するかどうかもわかっていなかったし、手術後すぐは少し仕事に復帰したのでバタバタしてて、ちょっと落ち着いたタイミングでお店に行きました。
あと、叔母の後押しも大きかったです。医療用ウィッグってすごく高くて、私が買ったものは10万円ちょっとしたんですが、叔母が「プレゼントするから」とそのとき言ってくれたおかげで買えたと思います。
ウィッグのほかに、専用のシャンプ―や、外すたびに洗ってられないので外したらかけるスプレー、ウィッグ専用の櫛とかも併せて買いました。お店の人におすすめされて、そのときは買った方がいいのかわからなかったんですけど、買ってよかったなと思います。
ーーどのウィッグにするか、すぐ決まりましたか?
それが、消去法だったんです……。私が行ったお店にはたくさんウィッグがあったんですが、明らかにベテラン演歌歌手だろみたいなスタイルの、どう考えても年齢に合ってないものばっかりだったんですね。その中で一つだけ、前髪のないストレートで肩ぐらいの長さのウィッグがあって、これならまぁなんとかなるでしょというウィッグを選ばざるを得なかったという感じです。そのとき、病気になる人はある程度年取った人の方が多いのかなと思いました。
ーーなるほど。最初のウィッグはそもそも選択肢がなかったのですね。次のウィッグはいつ買いましたか?
医療用ウィッグを買ってから、そんなに間を開けずにです。最初に買ったウィッグの着け方とか着けて外出するのは問題ないと思ったタイミングだったことと、もうちょっとかわいいのが欲しいなという気持ちがあったので、ネットで探して、ショート、ボブ、ロングのファッションウィッグを買いました。
ファッションウィッグを使うようになり「気持ちが切り替わっていった」
ーーファッションウィッグを使い始めてから気持ちに変化はありましたか?
ファッションウィッグを使い始めてからは、自然と『楽しむ』という方向に気持ちが切り替わっていったという感じですね。目的や気分によってウィッグを変えていて、例えば、近場への外出ならサッと被れるショートのウィッグ、お出かけするときはロングのウィッグという感じで使い分けてましたね。最初に買った医療用ウィッグは着け心地がすごくよいので、長時間外出するときは着けていました。
ブログを参考にして、ちょっと気分転換でハーフアップにアレンジして外出することもありました。あと、地毛だとそんなにころころ髪型を変えられないですけど、ウィッグだとショートの次の日にロングになったりとかができるんです。しかも、寝ぐせを直す手間がないから、慣れるとウィッグの方がすごく楽だと思いますね。
ーーウィッグ以外にも脱毛に対して工夫したことがあれば教えてください。
髪の毛が抜けた後に生え始めるときは場所によって伸び方に差があって、前髪が伸びてくるのが遅いんですよね。一見ショートヘアで、ウィッグを着けなくてもよさそうだけど、前髪が短すぎる時期があって、このときは美容院へ行ってシールエクステを前髪に着けてもらいました。これもブログで知って、半年ぐらい通いました。そのおかげで、ウィッグを着けずにシールエクステだけで職場に復帰できました。
ーー脱毛というと、つい抜ける時のことを考えがちですが、生えてくるときにも別の悩みがあるのですね。
そうなんです。髪が抜け始めて、抜けて全くなくなって、そしてまた生えてきて、というその時々で悩みが違うので、そのときそのときで有用な情報を探していったという感じです。
ウィッグに慣れると自然と楽しめるように
ーー抗がん剤治療で脱毛を心配している方へ、ウィッグの取り入れ方についてアドバイスはありますか?
やっぱりウィッグなしで帽子だけ被っているとどうしても病人感が出てしまうため、ウィッグはあった方がよいと思います。いきなり高いものを買わなくても、ネットで数千円の手頃なものを買って試してみて、着け心地とかが良くないって感じたときに高いものを探してみてもよいと思いました。
ーーウィッグを着けているときのコミュニケーションの取り方で工夫できることがあれば教えてください。
私は、この人、頭見てるかもしれないというのを結構気にしちゃうタイプなんです。同じようなタイプの方だったら、もし言えるのであれば、まわりの仲の良い人にだけでも「実はカツラだから」っていうのを言えたらいいかもしれません。
ウィッグは慣れてくると自然と楽しめるようになってきて、自分の好きなことができるようになると思います。