ここでは、肺がんの放射線治療における副作用について見ていきましょう。
放射線治療によって起こる副作用とは
肺がんの放射線治療は、治療を始める前に放射線腫瘍(しゅよう)医などと相談して決めた「治療計画」をもとにして行われます。治療計画は、放射線の効果がもっとも大きく、副作用はできる限り小さく抑えられるよう、患者さんに合わせて考えられたプランです。
照射期間が数週間に及ぶ場合、治療が進むにつれて副作用も表れやすくなりますが、効果と副作用のバランスを見極めながら慎重に治療を進めていきます。
副作用が表れたことで自己判断で治療を途中でやめてしまうと、治療効果が得られず、副作用だけが残ることがあります。治療を安心して継続していくためにも、治療中に感じた不調や違和感は、早めに医師や医療スタッフと共有していくことが大切です。
放射線の副作用は、治療中や治療終了直後に起こる「早期合併症」と治療終了後、数カ月〜数年ほどしてから起こる「晩期合併症」のふたつに大きく分けられます。これらの症状についてくわしく見ていきましょう。
早期合併症:主な副作用と対策
皮膚炎(照射部位の赤み、かゆみ、皮むけ、ただれなど)
放射線治療が始まって2週間ほどすると、照射された部位が日焼けしたように赤くなって、皮膚の乾燥やかゆみ、ヒリヒリ感、熱感、皮がむけるなどの皮膚炎が起こることがあります。通常は、照射後1カ月程度で皮膚が入れ替わりもとに戻っていきますが、かいたりこすったりするとただれや潰瘍(かいよう)ができることがあります。
皮膚炎はなるべく刺激を与えないことが大切です。日焼けはなるべく避け、かゆみや痛みがあってもかきむしったりせず医師に相談しましょう。
また清潔の保持・保湿も大切です。入浴の際はなるべく刺激が少ない石けんを選びましょう。患部は毎日観察し、症状がひどくなるようなら主治医に相談し、保湿剤や炎症を抑える軟膏(なんこう)の処方をしてもらいます。
食道炎(のどのつかえ・飲み込むときの痛み・胸やけなど)
胸部に放射線を照射する場合、照射範囲に食道が入ってしまう場合があります。放射線の影響で食道の粘膜に炎症が起こると、食べ物がのどにつかえたり、食べ物や飲み物を飲み込む際に強い痛みを感じるたりすることがあります。さらに、胸やけや食道がチクチク痛むなどの症状となって表れることもあります。
放射線療法を始めて2週間〜治療終了後2週間くらいの時期に表れることが多く、治療が終了すると徐々に改善する傾向があります。
のどの痛みが強いときは、柔らかいものや刺激の少ないものを選んで少しずつ食べるようにしましょう。症状がひどくなるようなら、早めに主治医に相談し、食道の粘膜を保護する薬や痛み止めの処方を検討してもらいます。
また、のどの痛みから食欲が低下することがあります。また、放射線による影響だけでなく、病気への不安などのストレスが食欲不振を招くケースもあります。
のどの痛みが強いときは食べる意欲がわかない場合もあるでしょうが、適正な栄養摂取を維持することは大切です。柔らかいものや刺激の少ないものを選んで少量ずつ数回に分けて食べるものひとつですし、栄養補助食品という選択肢もありますので、早めに主治医や管理栄養士に相談しましょう。
肺臓炎[咳(せき)・痰(たん)・息切れ・発熱など]
胸部に放射線を照射する際、正常に機能している状態の肺が放射線治療によるダメージを受けることが原因で起こる肺炎です。一定以上の放射線量に達した場合や、肺の広い範囲に当てた場合に起こる可能性が高くなり、主に肺胞の外(間質と呼ばれる肺胞と肺胞の間の壁の部分)で炎症が起こります。
これが進行すると肺が硬くなって酸素や二酸化炭素が通りにくくなり、呼吸がしづらくなる(線維化といいます)ことがあります。
放射線治療中から治療終了後6カ月以内に起こりやすいといわれています。
少し咳が出る程度で、時間とともに治まっていくケースが大半を占めますが、まれに重症化する場合もあります。高齢の方、肺にほかの持病がある方、喫煙歴がある方は重症化のリスクが高くなるのでとくに注意が必要です。放射線治療中や治療後に空咳、息苦しさ、発熱などの症状があったら、すぐに主治医に相談しましょう。
倦怠(けんたい)感(疲れやすさ・だるさ)
放射線治療後は「疲れやすい」「だるい」「やる気が出ない」と感じやすくなりますが、そのほとんどは、数週間程度で軽減していきます。放射線治療によるこれらの症状は、放射線の影響に加えて精神的負荷や通院の疲れも原因となっていることがあります。
治療以外のことに関しては、無理をせず休むことも大切です。調子が良いときは、軽い運動をするのもよいでしょう。疲労の回復には十分な睡眠が大切なので、眠れない、眠りが浅いと感じる場合は主治医に相談しましょう。
感染しやすくなる、貧血になる、出血しやすくなる
放射線の影響で白血球、赤血球、血小板が減少し、感染症、貧血、出血などの症状が起こりやすくなることがあります。これは、骨の内部にある骨髄に放射線が照射されることで、血液をつくり出す能力が一時的に低下するためです。
治療中は定期的な血液検査で血球数の変化を観察し、減少の度合いが大きい場合には治療を休止することもあります。
薬物療法による症状
放射線治療と薬物療法を同時に行う場合、放射線治療の副作用に加えて、薬の影響で吐き気、食欲不振、手足のしびれなどの症状が生じることもあります。副作用の症状が強い場合は、症状を軽減する治療を行いながらも、放射線治療はできるだけ中断せずに続けます。
治療期間中に表れる副作用は、一般的に治療終了後2週間〜1カ月ほどで改善していきます。
全脳照射による症状
進行スピードが比較的速い小細胞肺がんの場合、脳に再発するパターンが多いため、それを予防する治療として、頭部全体への放射線照射(予防的全脳照射)が行われることがあります。
その場合は、頭部の脱毛、白内障、認知機能の低下(注意力、判断力、理解力の低下など)などの副作用が起こることがあります。
晩期合併症:主な副作用と対策
肺がんに対する胸部放射線照射が終了したのち、数カ月〜数年後に表れることがある放射線治療の晩期の副作用には、以下のようなものがあります。
- 肺繊維症:放射線性肺臓炎が慢性化した状態
- 無気肺(むきはい):気管支に痰(たん)が詰まり、肺への空気の流れが悪くなった状態
- 胸水貯留(きょうすいちょりゅう)
- 心膜炎
- 食道狭窄(きょうさく)
- 脊髄(せきずい)炎
など
まれなものが多いですが、起こった場合には症状がずっと残るケースもあります。
放射線治療後の注意点
放射線治療では、治療中はもちろん、治療が終了した後も治療の効果が十分かどうかや副作用の有無などを調べるため、定期的に放射線腫瘍医の診察と必要に応じた検査を受ける必要があります。
治療の目的や方法、副作用・合併症などに関する不明点があれば、まずは主治医や放射線腫瘍医に確認することが大切です。