肺がんの手術を経験した患者さんは、息切れが起こったり息苦しさを感じたりすることがあります。
ここでは、肺がんの手術が呼吸機能にどのような影響を与えるのか、そして呼吸機能を早期に回復するための対策や症状への対処方法についてお伝えします。
息苦しくなってしまう原因とは?
肺がんの手術後に息苦しさを感じる主な理由は、手術によって肺の一部が切除され、肺の容量が小さくなるためです。小さくなった肺に体が慣れるまでは、息苦しさを感じやすくなりますが、この症状は、時間とともに体が慣れることで、だんだんと軽減していきます。
また、息苦しさは肺の容量だけでなく、病気の不安など精神的ストレスとも深く関わっていることがわかっています。
さらに、手術の前から本来の肺機能が低下している場合や、手術による合併症が起こった場合などには、息苦しさが続くことがあります。このようなケースでは、酸素ボンベや携帯型の酸素濃縮装置を使って体内の酸素不足を改善する治療や、薬を使った症状の緩和が行われることがあります。
術後の息苦しさが長く続くようなら、いつから、どのくらい、どんなときに症状が表れやすいのかなど、主治医に症状をより具体的に伝えられるようにしておきましょう。
コラム:手術による切除範囲の違い
肺がんの手術は、肺の切り取り方によって①片側肺全摘手術(片側の肺を全て切除)②肺葉切除術(がんのある肺葉を切除)③縮小手術(肺葉の一部分のみを切除)の3つに分けられます。
①片側肺全摘手術
②肺葉切除術
③縮小手術
肺を切り取る範囲が小さくなるほど、手術による体の負担も抑えられると考えられています。切り取る範囲は、手術の前に患者さんの病状や肺機能の検査内容をもとに主治医と患者さんの話し合いによって決められます。
合併症について
最大限の注意を払って手術をおこなっても、一定の頻度で合併症が起こることがあります。肺癌の手術で認められる合併症には次に挙げるようなものがあり、これらは初期症状として息苦しさを呈することがあります。術後の息苦しさには様子をみていい場合と、速やかな対応が必要な場合があるので、まずは主治医に相談するとよいでしょう。
息苦しさや息切れなどにつながる手術の主な合併症
- 換気不全:痰をうまく出せず、肺の中で酸素と二酸化炭素の交換がうまく行えなくなる
- 肺瘻(はいろう):肺を切除した部分や縫合した部分から空気がもれる。肺胞瘻(はいほうろう)ともいう
- 無気肺(むきはい):肺に空気が入らず潰れたようになる
- 術後肺炎:咳(せき)や発熱、呼吸困難、胸の痛みなどの症状が起こる
- 肺動脈血栓塞栓症(はいどうみゃくけっせんそくせんしょう):手術中に生じた血栓が肺の動脈につまり、手術後初めて歩行したときに急に息苦しくなる
- 反回神経麻痺(まひ):声帯を動かす反回神経が手術で傷つき、片方の反回神経麻痺が起こると、声がかすれたり、飲み込むときにむせたり咳き込んだりする症状が起こる
呼吸器疾患の持病がある方や、高齢で喫煙歴がある方には、これらの合併症が起こりやすい傾向にあり、より一層の注意が求められます。
手術や合併症に備える
合併症を予防し、肺機能を回復させるためには、手術前からのリハビリテーション(呼吸訓練)がすすめられます。リハビリテーションによって、手術の前からコツコツと呼吸機能を強化しておくことは、手術後のスムーズな回復にもつながります。それでは、合併症の予防と対策について見ていきましょう。
術前リハビリテーション(呼吸訓練)
呼吸訓練では、肋間筋(ろっかんきん)や横隔膜(おうかくまく)などの呼吸に関連する筋肉を鍛えます。胸や腹をゆっくりと大きく膨らませる胸式呼吸や腹式呼吸、またインセンティブスパイロメトリーというトレーニング器具を用いた方法があります。この器具は軽く、持ち運びやすいので自宅に持ち込んでトレーニングをすることもできます。術後は、術前に設定した基準を目標に訓練を継続することが大切です。
適度な運動
体力の維持と回復のために、適度な運動を行ってみましょう。これは気分転換にも役立ちます。退院後も、体の調子を見ながら家事や散歩などの軽い運動を続けることが、体力と呼吸機能の回復につながります。
ただし、急激な運動や重労働は、坂道や階段などでは息切れが強くなることがあるため、あくまでも自分のペースで、適宜休息を取りながら行うことが大切です。
禁煙
喫煙は気管支を刺激し、肺炎のリスクを高め、残っている肺機能の低下を引き起こす原因となります。手術前に禁煙に成功した方も、術後の再開は避けましょう。また、喫煙は呼吸機能の回復過程においても著しい悪影響を及ぼすため、厳しく禁じていきましょう。