肺がんの手術は、がんのある部位を取り除くことで肺がんの完治を目指す治療です。ここでは、手術の対象となるケースや肺のどこを切除するのか、どんな手術方法があるのかについてお話しします。
手術の対象となる場合
手術をするかどうかは、がんの種類や進行度だけでなく、患者さんの体力や呼吸機能などが手術に耐えられるか、術後も以前と同じように日常生活を送ることができるかなど、総合的な検討を経た上で決定します。
また、手術の目的は、がんを残さず切除し(体の外に取り除き)、完治を目指すことです。そのため、手術でがんが取りきれない、手術に耐えられる体力がない、患者さん自身の希望などで手術をしない場合は、ほかの治療法(放射線治療や薬物療法)が選択されます。
肺がんは、非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分けられ、手術の対象となる目安はそれぞれ次のような場合です。
非小細胞肺がんの場合
ステージ1、ステージ2、もしくはステージ3の一部で、手術でがんを取りきれると考えられる場合が手術の対象となります。
小細胞肺がんの場合
小細胞肺がんは進行が速く、薬物療法や放射線治療の効果が比較的高いため、限局型でリンパ節転移がないステージ1、ステージ2の一部のみが手術の対象となります。
切除する部位はどうやって決まる?
それでは、手術で肺のどこを切除するのかを見ていきましょう。肺はたとえ一部分が失われたとしても呼吸などの生命活動ができるように、いくつかのブロックに分かれています。
このブロックを肺葉といい、右の肺には3つ(上葉、中葉、下葉)、左の肺には2つ(上葉、下葉)の肺葉があります。
さらに、それぞれの肺葉は、より小さなブロック(肺区域)に分けることができます。
肺がんの手術では、がんのある部位を肺葉や肺区域ごと切除し、さらに転移の可能性のある周囲のリンパ節も一緒に切除します。これは、がん細胞を残さず取りきることで再発や転移のリスクを可能な限り低くするためです。手術方法には、大きく次の3つがあり、この中から最適な方法が選択されます。
①がんのある肺葉を切除する:肺葉切除術
肺葉切除術は、がんのある肺葉とその周辺のリンパ節ごと切除するもっとも一般的な手術です。対象となるのは、非小細胞肺がんのステージ1、ステージ2、ステージ3の一部、および小細胞肺がんで手術が対象となる場合です。
場合によっては、「上葉と中葉」、「中葉と下葉」などふたつの肺葉をまとめて取り除く「二葉切除」が行われることもあります。
②小さな範囲の切除で肺をできるだけ温存する:縮小手術
縮小手術は、肺葉の一部のみを切除して、肺をできるだけ残す手術です。がんのある区域ごとに切除する「区域切除」と、がんのある部分のみを切除する「楔状(くさびじょう または けつじょう)切除」があります。
対象となるのは、リンパ節転移のないごく早期(ステージ1 A1〜A2)の非小細胞肺がんの場合です。
このほか、肺の持病や高齢のため呼吸機能が低い場合や心不全や腎不全、糖尿病などの持病で手術による体への影響が大きいと考えられる場合にも、呼吸機能の維持を優先し、縮小手術が選択されることがあります。
③がんがある側の肺をすべて切除する:片側肺全摘手術
片側肺全摘手術は、がんのある方の肺を丸ごと切除する手術です。がんが肺葉を越えて広がっている場合や、肺の中央部分にある大血管や気管支に及んでいる場合に行われます。
切除範囲に比例して、術後の呼吸機能の低下も大きいため、心肺機能や体の状態が手術に耐えられるか十分に検討をした上で選択されます。
【コラム】できる限り肺を温存する:気管支形成術
片側肺全摘手術は根治性(がんを完全に取り除くこと)の高い治療法ですが、その負担の大きさから、もともと呼吸機能が低い患者さんには実施できないことがあります。
そうした場合に、呼吸機能を維持する方法のひとつに気管支形成術があります。この方法では、がんのある部位を周囲の気管支ごと切除したあと、残された気管支同士を糸でつなぎ合わせることで、本来は切除するはずの部位を温存することができます。
肺へのアプローチ方法:開胸手術と胸腔鏡手術
肺がんの手術には、メスで胸を開く開胸手術と内視鏡という特殊な機器を使用する胸腔鏡(きょうくうきょう)手術があります。どちらの手術にも長所と短所があり、具体的な方法や対象となるケースは病院によって異なります。また、病状や体の状態によっても手術の方法が変わるため、主治医とよく相談することが大切です。
開胸手術
肩甲骨の下から胸にかけて15〜20cmほど切開し、肋骨を広げて肺を切除する、従来から行われている方法です。
胸腔鏡手術
胸腔鏡手術では、胸部に3〜4カ所開けた小さな穴から、小型カメラ付きの胸腔鏡やメス、自動吻合(ふんごう)器などの器具を挿入して肺の切除を行います。
モニターだけを見て手術する「完全胸腔鏡下手術」や、胸部の穴から肉眼で肺を観察しつつ、モニターの画像も併用する「ハイブリッド胸腔鏡下手術」、繊細な動きが可能な医療ロボットを活用した「ロボット支援胸腔鏡下手術」などがあります。