がんの可能性があると考えたとき、またがんであることがわかったとき、その原因を考えた方は多いのではないでしょうか。ここでは、肺がんを引き起こす要因としてどのようなことが知られているのでしょうか。ここでは肺がんの危険因子について統計データをもとに説明していきます。
最大のリスクは喫煙習慣
肺がんを引き起こす最大の要因は喫煙です。日本では、男性の肺がんの約70%、女性の肺がんの約20%は喫煙が原因であると公表されています。喫煙者が肺がんになる確率は非喫煙者と比べて、男性で4.4倍、女性で2.8倍高くなります。また、喫煙は肺がんの原因となるだけでなく、他の臓器のがん(口腔がん、食道がんなど多数)や虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)、脳卒中、糖尿病などのリスク因子としても確実視されています。
喫煙を始めた年齢が若く、喫煙年数や喫煙本数が多いほど肺がんの危険性は高くなり、喫煙と飲酒の習慣が重なることで、よりリスクが高まるという統計データもあります。
また、近年では加熱式の電子たばこも一般的となりましたが、加熱式の電子たばこの方が肺がんになりにくいというデータは今のところなく、肺がんやその他の疾患の発生に影響を及ぼす可能性は否定できません。
「喫煙者が今さら禁煙しても遅い」と思われる方もいるかもしれませんが、禁煙を始めてから10年後には、禁煙しなかった場合と比べて、肺がんになるリスクを約半分にまで減らせることもわかっています。
肺がん予防のためには、まずは喫煙をしないこと、すでに喫煙習慣のある方は一日も早い禁煙を達成することが重要です。
肺がんの中でも特に喫煙との関連が強いと考えられているのは、「扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん*1」と「小細胞肺がん」です。一方、肺がんの約60%を占める「腺がん*1」は、非喫煙者にも起こりやすいがんです。
*1 いずれも非小細胞肺がんの組織型のひとつ
喫煙以外のリスクも
喫煙以外にも肺がんのリスクを高める要因はあり、現在わかっているだけでも、次のようなものがあります。
危険因子①:受動喫煙
自身は喫煙者でなくとも、受動喫煙(他人のたばこの煙を吸うこと)の影響により、肺がんになる危険性が約30%高まります。空気中に広がるたばこの煙(副流煙)には、喫煙者がフィルターを通して吸う煙(主流煙)よりも多くの有害成分(発がん性物質を含む)が含まれているのです。
こうしたことから昨今では受動喫煙防止の重要性が叫ばれ、2018年に改正した健康増進法により学校・病院などは敷地内禁煙、飲食店・職場などは原則として屋内禁煙と定められました。
危険因子②:職場環境・生活環境
石綿(アスベスト)、ラドン、ヒ素、クロムなどの有害物質にさらされやすい職場や生活環境で過ごす方は、肺がんになるリスクが高いことがわかっています。また大気汚染(PM2.5など)も肺がんの危険因子のひとつです。
危険因子③:既往歴(これまでかかった病気の履歴)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)*2や間質性肺炎を抱えている方は、そうでない方と比較し、肺がんになるリスクが高まります
*2 たばこの煙を主とする有害物質に長期にさらされることで、息を吐くときの速度が低下する状態が慢性化する疾患
危険因子④:家族歴
家族(両親や兄弟・姉妹)で肺がんになった方がいること(医学的には肺がんの家族歴を有する、といいます)も肺がんの危険因子として知られています。
この理由として、遺伝的要因や同じような生活環境・習慣を共有しているためという可能性が考えられていますが、はっきりとした因果関係は証明されていません。
これからの生活のために
ここまで挙げてきた肺がんの危険因子は、あくまで現時点までに証明されているもののみです。未知の危険因子や、今後さらなる科学技術の進歩とともに発生してくる危険因子があるかもしれません。
肺がんの可能性を感じたり、肺がんの診断を受けたりしているときは、がんの原因を探るよりも、まずは自身の現状を把握し、肺がんと確定した場合はどのような治療を選択すべきかを十分に主治医と話し合って決めることが大切です。
そのうえで、治療を円滑に進めその効果を最大化するために、どのような生活を送ればよいか考えてみましょう。