抗がん剤治療(などの薬物療法)中には、手足がしびれたり、力が入りにくくなったりすることがあります。そこで今回は、手足のしびれの症状やセルフケアについてお話しします。
Q.抗がん剤治療を行うとなぜ手や足がしびれるのですか?
A.使用する薬の種類によっては、副作用として手や足がしびれるなどの「末梢神経(まっしょうしんけい)障害」が起こることがあります。
抗がん剤治療(などの薬物療法)による末梢神経障害の症状には、以下のようなものが挙げられます。
- 手や足がしびれる
- 何かに少し触れただけで痛みを感じる
- 手や足に力が入りにくくなる
- 手や足の感覚が鈍くなる
- 手や足がほてる
また、それらの症状によって、日常生活に影響が生じることもあります。
- 服のボタンがとめられない
- 熱さや冷たさに対する感覚が鈍くなり、やけどをしてしまう
- 文字がうまく書けない
- つまずくことが増える
- 物をうまく握れない、物をよく落としてしまう
Q.抗がん剤治療が終われば、しびれは治りますか?
A.現在、抗がん剤治療(などの薬物療法)によるしびれなどの末梢神経障害を予防する方法や、有効な治療法は確立していません。
治療終了後に徐々に改善されることもあれば、一方で治療を重ねるごとに症状が悪化したり、範囲が広がったりすることもあります。症状がなかなか治らない、または完全に回復することが難しい場合もあるので、状況によって主治医に相談するといいでしょう。
Q.しびれをやわらげる方法はありますか?
A.症状によっては、治療の効果を考えながら薬の変更や休薬など、がんの治療方法を変更することで対処できる場合があります。また、しびれによる痛みが気になるときは、鎮痛薬を使って痛みをやわらげることもあります。
しびれをがまんして、症状が悪化してから薬の使用を中止しても、症状が長期間回復しないことがあります。がんの治療と日常生活を両立するためにも、気になる自覚症状が出始めたら早めに主治医や薬剤師、看護師などに相談するようにしましょう。
Q.しびれによって、日常生活で不便を感じることがあります。何か気をつけるべきことはありますか?
A.しびれによって手足に力が入りづらくなったり、感覚が鈍くなり熱さなどに気付きにくくなったりすることで、日常生活に危険や不便が生じることもあります。
危険を防止するため、以下のことに気をつけるようにしましょう。
やけどに注意する
- 鍋やフライパンに直接触れないように、鍋つかみやふきんなどを使うようにする
- お風呂などお湯の温度を確認するときは、ひじからお湯につけたり、温度計を使ったりして、直接指先を入れないようにする(*1)
*1 末梢神経障害の多くは手首と足首から先の感覚が鈍くなるため
転倒に注意する
- カーペットなどの敷物の段差にも気をつけて、確認しながら歩く
- 脱げやすいサンダルやスリッパ、バランスの取りにくいヒールの高い靴はできるだけ避けて、スニーカーなどの脱げにくい靴を履くようにする
- 夜間、トイレなどに行くときに使用する廊下はセンサー付きライトをつけると、つまずきを防げる。また、廊下に物を置かないようにし、家族がいる場合は協力してもらう
- お風呂場の浴槽にラバーマットを敷く
怪我をしないように注意する
- 包丁の代わりにキッチンバサミやピーラー、フードプロセッサーを使ったり、あらかじめカットされた食材(カット野菜など)を利用したりする
- 料理をするときは手元を見て行う
またそのほかにも、日常生活の中で感じる不便を解消するため、できることから工夫してみましょう。例えば以下のようなことを参考にしてみてください。
- 服は被るタイプを選んだり、ボタンやファスナーから脱ぎ着しやすい面ファスナーに変えてみる(購入するとき試着し、自分で着替えられるか確認する)
- 箸が使いにくい場合は握りやすいように設計された箸に変えたり、柄の太いスプーンやフォークを代用する
- コップは軽い力で持てて落としづらい、持ち手のあるものにする
- ペットボトルのフタを開けるときは、オープナーやタオルを使う
Q.しびれを悪化させないために、自分でできるケアはありますか?
A.しびれている部分を温めたりするなど、血行を良くすると症状がやわらぐことがあります。そのためにも、締め付けのある衣服や、冷たい水に触れるなどの体を冷やす行為はできるだけ避けるようにしましょう。
しびれ対策のためのセルフケア
- 入浴中などに手足を優しく揉んだり、指を閉じたり開いたりする
- 服や靴などは締め付けの少ないものを選ぶ
- 手や顔を洗うとき、冷たい水は避け、できるだけ温水を使うようにする(*2)
- 手袋や靴下を活用して手足を冷やさないようにする
- 足の筋力が低下すると、さらに転倒しやすくなるので、座ったまま脚を上げ下げしたり、転倒に気をつけながらウォーキングしたりするなど、できる範囲で適度な運動を行う
*2 冷たいものに触れたり飲んだりするとしびれが強くなる薬があり、その場合は必ず温水を使う
「副作用は仕方のないもの」「これくらいなら我慢できるから」と気になる症状が表れても医療者に伝えないまま治療を優先する方も少なくないでしょう。
しかし、我慢していてもしびれが良くなることはありません。早めに対処し、がんの治療との折り合いを見つけながら向き合っていくことが大切になります。
日常生活の中で、自身ができる工夫は取り入れながらも、気になることがあれば主治医や看護師などに相談するようにしましょう。