抗がん剤治療(などの薬物療法)を受ける患者さんは、さまざまな副作用に直面することがあります。なかでも多いのが手足の爪の変形や変色。ここでは、抗がん剤などの薬による治療で爪に起こりやすい副作用とその対処法についてお話しします。
Q.抗がん剤治療を始めてから爪が変形し、割れやすくなりました。これはよくあることでしょうか?
A.抗がん剤などの薬による治療中は、一時的に爪の変形や変色が現れることがあります。具体的には、爪が薄くなり小さな刺激で割れやすくなる、黒く変色しスジが入る、湾曲(わんきょく)し巻き爪となって痛むなどの症状です。
これは、抗がん剤が爪を生み出す細胞や指先の毛細血管に影響を及ぼしたり、メラニンを生成するメラノサイトを刺激したりすることで起こると考えられています。
爪の変形や変色は、治療の終了とともに徐々に回復に向かいます。けれども、変形が進行すると爪がはがれ落ちたり、痛みで日常生活に影響が出たりすることもあるので、治療中に爪の変形や変色、痛みなどを感じた場合は、我慢をせずに主治医や看護師に伝えるようにしましょう。
なお、爪の症状には、爪のふちが赤く腫れたり膿んだりして痛む爪囲炎(そういえん)という症状もあります。これは特定の分子標的型の薬*でよく発生しますので、症状が出たらすぐに主治医や看護師に相談しましょう。
* がん細胞の増殖に関わるタンパク質など、特定の分子を標的にしてがんを攻撃する薬のこと
Q.日常での注意点やセルフケア方法について教えてください
A.爪は皮膚の一部で、ケアについても皮膚(肌)と同じように考えることができます。
清潔にする・保湿する
まずは、爪を清潔に保つことが大切です。手洗い、入浴時は、泡で爪の間をやさしく洗うように心がけましょう。洗浄後はハンドクリームや爪用オイルで保湿し乾燥を防ぎます。このとき、爪をやさしくマッサージするように塗りこむことで、その成長を助け、保湿効果を高めることができます。
保護する
爪がでこぼこになったり浮いたりしているときは、衣服などに引っかかり割れる危険性があるので、必要に応じてマニキュア(ペディキュア)やベースコートなどで爪の表面を保護します。透明のものはもちろん、幅広いカラーが販売されていますし、においやツヤが控えめなものもありますので、お店の人と相談するなど、ご自身の好みに合ったものを探すといいでしょう。
ベースコートや透明なマニキュアであれば、目立たないのでふだん爪のお手入れに慣れていない方でも大きな違和感はなく、使用できます。
また、ばんそうこう、液体ばんそうこうなどでも表面を保護することができます。ばんそうこうの粘着力が強すぎる場合は、粘着力が弱い粘着性伸縮包帯を指に巻いておくのもおすすめです。これらはドラッグストアなどで手軽に手に入ります。ただし、ばんそうこうを貼ったままにすると爪囲炎が悪化することがありますので、定期的に交換し清潔な状態をキープするよう心がけましょう。
なお、マニキュアなどを落とす際は、皮膚への刺激が少ないノンアセトンの表示がある除光液を選ぶようにしてください。マニキュアを落とした後は保湿を忘れずに。ジェルネイルは爪の表面を削りながら落とすため、爪の障害や感染症につながることがあり避けた方がよいでしょう。
また、除光液を使わないタイプのものもあり、こちらは塗ったままでOKなものやお湯で落とせるものもあるので、ケアが簡単なことや爪や肌への負担が少なくてすみます。ベースコートや爪保護剤、爪補強剤などさまざまなタイプまた商品名のものがありますので、ドラッグストアなどで問い合わせてみるといいでしょう。
爪の長さは、長すぎても深爪でもよくありません。指先から爪が1〜2mm出るくらいの長さで切ったら、角は爪ヤスリで丸めておきましょう。カットは、入浴後に爪が柔らかくなっている状態で行います。また、手作業時や外出の際は、薄い綿の手袋や靴下を身につけて爪を保護するように心がけてください。
Q.抗がん剤治療が終わったら、爪は元に戻りますか?
A.個人差がありますが、抗がん剤治療(などの薬物療法)に伴い起こった爪の副作用は、多くの場合、治療の終了時から手の爪は半年、足の爪は1年程度で元のように再生します。
ここまで抗がん剤治療(などの薬物療法)に伴う爪の副作用とそのケアについてお話ししました。
患者さんのなかには、爪のトラブルは体調に影響しなければ、治療のためには我慢するものだと考える方もいます。しかし、ささくれなどの小さな傷から感染症が引き起こされるケースもあり、早めの対処や医療的処置がそれらを防ぐカギになることもあります。
がん治療中だからこそ、日常を快適に過ごすための環境づくりは大切にしたいもの。たとえ小さな変化であってもひとりで悩むことなく、主治医や看護師などに積極的に伝えるようにしましょう。