抗がん剤治療(などの薬物療法)の副作用として、肌荒れや色素沈着などのトラブルが起こることがあります。ここではその原因と対処法に関するお悩みについて考えていきます。
Q.肌にどのような症状が現れますか?
A.抗がん剤治療(などの薬物療法)中には、肌にさまざまな症状が現れることがあります。ただし、患者さんの体の状態や薬の量によって、症状には個人差があります。
抗がん剤治療(などの薬物療法)による肌トラブルの例
- 発疹・紅斑(ほっしん・こうはん):赤いブツブツや斑点ができる。
- 手足症候群:手や足が赤くなったり、しびれやピリピリした痛みを感じたりする。
- 乾燥:皮膚が乾燥してかゆみを感じたり、進行するとひび割れや出血を伴うこともある。
- 色素沈着:皮膚や爪が黒ずんだり、黒い斑点状のものが現れたりする。
- ざ瘡様皮疹(ざそうようひしん):にきびのようなブツブツが現れ、痛みを伴う場合もある。
- 爪囲炎(そういえん):爪周辺の皮膚が赤く腫れ、痛みを伴う。爪がもろくなる。
Q.なぜ皮膚トラブルが起こるのでしょうか?
A.薬による治療にはいくつか種類があり、それぞれ作用が異なるため、皮膚トラブルが起こる原因は使用する薬やご自身(または その人)の状態によっても変わってきます。
細胞障害性の薬の場合
この薬は、がん細胞が増殖する仕組みの一部を邪魔することで、がん細胞を攻撃します。がん以外の正常に増殖している細胞も影響を受けてしまうことで、皮膚トラブルが発生することがあります。
分子標的型の薬の場合
これはがん細胞の増殖に関わるタンパク質など、がんに関係する特定の分子を標的にしてがんを攻撃する薬です。標的のタンパク質だけでなく、それ以外のタンパク質にも影響することがあるため、一部の薬では皮膚トラブルなどの副作用が出ることがあります*。
* 皮膚トラブルは、タンパク質の一種であるEGFR(上皮成長因子受容体)などの、タンパク質を標的とする複数の薬で起こりやすいとされている。
免疫チェックポイント阻害薬(免疫療法)の場合
この薬は、自分の免疫細胞ががん細胞を攻撃する力を強くします。しかし、免疫機能が過剰に働くことで、自分の正常な細胞まで攻撃してしまうことがあるため副作用が出ることがあります。
そのほか
皮膚がんなどの場合、がんそのものによって皮膚トラブルが起こることがあります。他にも、治療中に免疫機能が低下し、感染症にかかることで発生する場合もあります。
気になる症状が出たら医師に相談するようにしましょう。
Q.どのようなケアをしたらいいでしょうか?
A.副作用を完全に防ぐことはできませんが、肌トラブルの悪化を防ぐためにも日頃のスキンケアを見直しましょう。スキンケアの基本は「清潔、保湿、保護」の3つです。
清潔
低刺激性(添加物が少ない、弱酸性)の石鹸をよく泡立てて洗いましょう。特に就寝前は日中使用した化粧品や保湿のためのクリームなどを確実に取るようにしてください。その際はぬるま湯を使用して、丁寧に流すことも忘れずに。そのようにして清潔になった肌に、保湿クリームなどを塗り保湿をすることが大切です。
保湿
手洗いや入浴後は、なるべく早めに保湿ローションやクリームをたっぷり塗って保湿しましょう。ふだん使っているスキンケア用品が肌に合っていればそのまま使用しても問題ありませんが、香料や添加物が少なく、肌の刺激となる尿素や乳酸、アルコール成分が入っていないものが理想的です。
保護
治療中の肌は刺激を受けやすくなっているため「紫外線」「日焼け」「ケガ」「虫刺され」「摩擦」「着衣などによる継続した締め付け」「喫煙」などはなるべく避けるようにしましょう。
Q.メイクやひげ剃りなどはいつも通りしていいですか?
A.お肌のシミやくすみが気になる場合は、コンシーラーやファンデーションを使ってカバーしましょう。ただし、肌がデリケートになっている状態なので、お化粧をしている時間をできるだけ短くしたり、香料やアルコールの入っていない低刺激の化粧品を選ぶなど意識してみてください。また、日頃から使っていた化粧品でも、異常を感じたら抗がん剤治療中は使用をやめておいた方がいいでしょう。
カミソリは肌の表面を傷つけてしまうことがあるので、電気シェーバーを使う方が望ましいです。またひげを剃るときには蒸しタオルでひげを柔らかくしたり、シェービング剤を使うなどし、剃った後も保湿を忘れないようにしましょう。
皮膚のトラブルは命に影響しないものが多いため、治療のためにと我慢する人も少なくありません。自分でできるケアは取り入れながらも、気になることがあれば我慢せず担当の医師や看護師に相談しましょう。