大腸がんの手術後には、がんを取り除くため腸を切除した後遺症として「性機能障害」が起こることがあります。「性機能障害」の具体的な症状とはどのようなものなのか?症状が起こるメカニズムやその改善(治療)方法について、わかりやすく説明します。
どんなときに起こるのか、なぜ起こるのか
直腸のまわりには、性機能をつかさどる自律神経が多くあります。そのため、手術の際にこれらの自律神経が損傷してしまうと性機能障害が起こるのです。
たとえば、性機能障害の発症が考えられる手術法には、低位前方切除術が挙げられます。がんのある部位(直腸)を切除する際、直腸の横にあるリンパ節を合わせて切除した場合、性機能障害や排尿障害が起こる可能性があります。
また、下部直腸を支配する骨盤神経叢(しんけいそう)は、膀胱と前立腺も支配しています。そのため、骨盤神経叢を損傷・切除すると、上記と同様に、性機能障害や排尿障害を起こす可能性があります。
どんな症状があるのか
性機能障害は男性に起こることが多く、勃起障害と射精障害の2つに分けられます。勃起障害とは、勃起が不十分で性交が行えない状態を表します。また、射精障害とは、勃起はしますが、正常とは逆に膀胱内へと射精(逆行性射精)してしまうことです。
女性においても、直腸がんの手術後、性交時に痛みが出るなどの障害が生じることがあります。しかしながら、女性の性機能に関わる自律神経の役割について、わかっていないことが多いのも現状です。そのため、女性の性機能障害の発症には心理的な要因が大きく影響するのではないかと考えられています。
症状への対処法とは
男性の性機能障害には、内服薬をはじめ複数の治療方法があります。まずは、主治医を通じて泌尿器科の専門医に相談します。手術に伴う後遺症であり、場合によっては患者さんの生活の質(QOL:Quality of Life)を大きく下げてしまうことにもつながります。もちろん恥ずかしいという気持ちや、他者に話すことをためらう思いがあるかもしれません。けれどもQOLを保つことも治療のなかで大切なことです。
また、ストーマ(人工肛門)になった場合には、心理的な要因などから障害が誘発されるケースもあります。男女問わず、1人で抱え込まずに、少しでも気になることや不安や悩みを抱えていたら専門家による心のケア・サポートを受けてみるのも効果的です。
これまでの日本では、がんの再発防止に治療の重点を置いてきましたが、手術の際にリンパ節や自律神経の切除を行わず性機能を温存させる方法(自律神経温存術)もあります。自身がどちらを優先したいのか、考えることも大切です。