大腸がんの手術後には、がんを取り除くため腸を切除した後遺症として「排便障害」が起こることがあります。「排便障害」の具体的な症状とはどのようなものなのか?症状が起こるメカニズムやその改善(治療)方法について、わかりやすく説明します。
どんなときに起こるのか、なぜ起こるのか
大腸がんの手術には、大腸を切除する手術と、肛門から腫瘍だけを取り除く(局所切除)手術があり、「排便障害」が起こるのは、主に直腸を切除する手術[低位前方切除術、括約筋間直腸切除術(ISR)]です。
ではなぜ、大腸を切除すると「排便障害」が起こるのでしょうか?まず1つめの理由として挙げられるのが、大腸の中でも、特に直腸がなくなる(小さくなる)と、便を溜める働きが弱くなってしまうためです。
2つめは、手術により肛門括約筋が損傷した場合。肛門を締める働きをする筋肉である肛門括約筋が傷ついたり切除されたりすると、肛門を締める働きが弱くなったり、なくなったりするため、便がもれやすくなります。
3つめは神経の損傷です。がんを取り除く際、大腸から肛門に向かう神経の一部も合わせて切除しなくてはならないこともあり、それに伴い、排便機能が低下してしまうこともあるのです。
どんな症状があるのか
最もよく起こる症状は、排便回数の増加で1日5~6回、多い人では10回を超えることもあります。1回あたりの排便量が少なくなり、便を出し切れていないような残便感があり、すぐにまたトイレに行きたくなることも。さらには、下痢や便秘、腹部の膨満感、突然の便意や、自然に肛門からもれてしまう便失禁が起こるなど、排便に関するさまざまな不調が起こります。このような不調を総称して「排便障害」と呼んでいます。
症状に対する対処法とは
「排便障害」を治すための治療法は、大きく分けて保存的治療と外科的治療の2種類があります。まずは、服薬などの保存的治療から始め、効果を見ながら次の治療法を考えます。
主な保存的治療は以下の3つとなります。
1. 内服薬
下痢止めや、過敏性腸症候群の治療に使うポリカルボフィル・カルシウムを使用。ポリカルボフィル・カルシウムには、便を適切な硬さにすることで排便機能を整える働きがあります。
2. 骨盤体操
肛門を締める運動を行う運動療法ですが、効果には限界があります。
3. バイオフィードバック
特殊な装置を利用して、肛門を締めたときにかかる圧力の変化をモニターで確かめながら行うトレーニングです。画面を見ながら力加減を確かめられるので、筋肉の使い方の理解も深まります。限られた施設で行われる治療法ですが、副作用などのリスクが一切ないため、どんな人にも勧められる治療と言えます。
外科的治療として、便疾患に対しては、仙骨神経を刺激する装置(ペースメーカーのようなもの)を腰の皮下に埋め込む仙骨神経刺激療法があります。また、あらゆる治療を行っても満足できる効果が得られなかった場合には、人工肛門の増設手術を行うことも。これは最終手段であり、主治医もしくは、がん手術を行った執刀医と相談した上で選択する治療法です。
専門施設で相談する方法も
がんの手術を受ける際には「がんを取り除くこと」が1番であり、後遺症などの手術後の変化についてまで考える余裕がない患者さんがほとんどです。手術後の起こる不具合については、それに対応する専門施設もあります。主治医への相談に加え、セカンドオピニオンを得ることも可能なので、活用するとよいでしょう。
排便・蓄便のしくみ
運ばれてきた便を一時的に溜め、体外へと排出する働きは、直腸と肛門括約筋、骨盤底筋群が担っています。直腸と内肛門括約筋は平滑筋のため、自律神経の働きにより、自然と肛門を締めてくれています。
便が溜まってくると、内肛門括約筋は自然に緩みますが、便意を感じることで、横紋筋である外肛門括約筋を意識的に締めることができます。そのため、排便のタイミングまで我慢することができるのです。
排便の際には、腹部に力を入れてふんばることで便を押し出します。便を出す働きには直腸の収縮が関わっているため、便意が強い=直腸の収縮力が強い際には、強くふんばらなくても排便できます。