がんが粘膜内にとどまっている早期の大腸がんのケースでは、肛門から入れた内視鏡を使ってがんを切除する「内視鏡治療」が可能な場合があります。内視鏡治療とはどのような治療なのか詳しく見ていきましょう。
内視鏡治療とは?
内視鏡治療とは、直径1cm程度の細長い管状の医療器具(内視鏡)を使って、がんを切除する方法です。内視鏡の先端にはカメラや電気メスなどがついており、医師は患部をモニターで観察しながら、がんを切除します。
大腸がんの場合は、肛門から内視鏡を挿入します。大腸の粘膜は痛みを感じませんが、挿入の痛みを和らげるために、大腸の動きを抑える薬や局所麻酔・潤滑用のゼリーが使われます。
内視鏡治療は、腹部を切開する必要がないため、手術に比べて痛みが小さく、体への負担が少ない、入院日数が短縮できるなど、患者さんにとってメリットの多い治療です。しかしながら、すべての大腸がん患者さんが内視鏡治療を受けられるわけではありません。
内視鏡治療ができる大腸がんとは?
内視鏡治療が可能な大腸がんは基本的には「早期がん」です。さらに、「がんが粘膜下層までにとどまっているか」「一度で切除できる大きさか」などが判断の基準となっています。
粘膜下層より深くに進行しているものや、粘膜下層内であっても転移がある場合は、内視鏡治療ではなく、手術(開腹手術や腹腔鏡下手術など)によって、がんを取り除きます。
治療後は、切り取った組織を顕微鏡で観察し、周りの組織にがんが広がっていないか(すべて取り切れているか)を確認します(病理診断)。病理診断の結果、がんが取りきれていない、または転移の可能性があると判断された場合は、再度手術を行う必要があります。
内視鏡治療の方法
大腸がんの内視鏡治療には次の3つの方法があり、いずれも保険適用です。
1. 内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)
キノコのように隆起した茎のあるがんやポリープ*1に対して行う内視鏡治療です。内視鏡の先端から出した金属の輪(スネア)をがんの茎に掛けて締めた後、高周波電流を流して茎を焼き切ります。多くの場合で日帰り手術が可能です。
最近では、高周波電流を流すことなく、特殊なスネアでそのまま切り取る「コールドポリペクトミー」という方法も行われています。焼き切る場合よりも大腸組織へのダメージが少ないことが特徴です。
*1 大腸の粘膜から発生するイボ状のできものの総称。良性であっても放置するとがん化する可能性があるものもある
2. 内視鏡的粘膜切除術(EMR)
茎を持たない2cm未満のがんに対して最もよく行われる内視鏡治療です。がんが平たい場合や凹んでいる場合にも切除しやすい方法です。がんの下の粘膜下層に生理食塩水などを注入し、浮き上がらせた部分にスネアを掛けて高周波電流により焼き切ります。
多くの場合で、日帰り手術が可能ですが、切除に高度な技術を必要とする一部のがんの場合では、3泊4日程度の入院が必要になることがあります。
3. 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
一度で切除することが難しい大きな(2cm以上の)がんや、生理食塩水などの注入では十分に盛り上がらないがんに対して用いる内視鏡治療です。
がんの下の粘膜下層にヒアルロン酸ナトリウムなどの特殊な液を注入し、浮き上がらせた後、電気メスを使って、がんを剥ぎ取ります。EMRよりも確実な切除が可能ですが、出血や穿孔(せんこう:大腸などの消化管の壁穴が開くこと)のリスクが高くなることがあります。
一般的に、治療には4泊5日程度の入院が必要になります。出血や穿孔が起こった場合には、入院期間が延長される場合があります。
治療後に起こりやすい合併症
頻度は多くありませんが、内視鏡治療後には出血や穿孔などの合併症が起こることがあります。
切除部位から出血が起これば血便が、穿孔が起これば腹痛や発熱などの症状となって現れます。入院中に合併症が起こった時は再度内視鏡治療が行われますが、ごくまれに手術が必要になることもあります。
もし何か体調の変化を感じたら、すぐに治療をした病院の主治医や看護師に伝えましょう。