「家族が大腸がんを経験しているけど、自分や子どもは大丈夫かな」と不安に思う方は少なくありません。現に、大腸がんの中には、遺伝しやすいものもあります。ここでは、大腸がんが遺伝するしくみとともに、注意するべきケースについて見ていきましょう。
がんは遺伝子の変異で起こる病気
がんが遺伝するしくみの前に、人はどうしてがんになるのか、その理由を簡単にお話しします。
私たちの身体は、約60兆個もの細胞からできており、細胞は日々、細胞分裂を繰り返しています。細胞分裂は「DNA」という設計図をもとに細胞をコピーする作業ですが、幾度となくコピーを繰り返すうちに、DNAにキズがついてコピーミスが起こります。このコピーミスを突然変異といいます。
突然変異した細胞のほとんどはすぐに死んでしまったり、自己免疫によって取り除かれます。しかし、ある特定の遺伝子に突然変異が起こると、自己免疫が上手くはたらかなくなり、細胞が増殖してかたまりになることがあります。
このかたまりを腫瘍といい、腫瘍の中でも無秩序に増殖しながら周辺の組織にしみ出したり、転移するものが悪性腫瘍(がん)です。
大腸がんが遺伝しやすい理由とは?
特定の大腸がんが遺伝しやすい理由は、突然変異によって細胞ががん化するのを止める「がん抑制遺伝子」の働きが弱いためと考えられています。
私たちの体をつくるすべての細胞には、父親と母親それぞれに由来するがん抑制遺伝子が2つずつ入っています。これは、がんを止めるブレーキが2つあるようなもので、たとえ片方が故障しても、もうひとつのブレーキがきちんと機能していれば、その細胞はがんになりません。
しかし、遺伝性大腸がんの患者さんの多くは、生まれつきがん抑制遺伝子のひとつが正しく働きません。そのため、残りひとつのブレーキ(がん抑制遺伝子)に問題が起こると、途端に細胞のがん化を止められなくなってしまうのです。
遺伝性大腸がんの可能性があるとき
一般的に大腸がんが遺伝しやすい家系には、次のような特徴があります。
・若くして大腸がんに罹患した方がいる
・家系内に何回も大腸がんに罹患した方がいる
・家系内に特定の大腸がんが多く発生している
ご家族の中に大腸がんの人がいるからといって、そのすべてが遺伝性腫瘍ということではありません。遺伝しやすい大腸がんは、特定の種類に限られているのです。遺伝しやすい大腸がんには、次のようなものがあります。
リンチ症候群
リンチ症候群は、比較的若い40代での発症も多くみられる遺伝性腫瘍のひとつです。大腸がんだけでなく、子宮内膜(子宮体がん)や胃、小腸、腎臓・腎盂(じんう)、尿道がんなどを併せて発症する可能性が高いことがわかっています。大腸がん全体の2〜5%程度はリンチ症候群によるものと考えられています。
家族性大腸ポリポーシス
家族性大腸ポリポーシスは、大腸の全域に大量のポリープができ、それを放置すると、ほとんどの場合で、大腸がんを発症する遺伝性の疾患です。小児を含む若い年齢での発症が目立ち、将来的にがんになることを予防するために、大腸をすべて摘出する手術が選択されることがあります。大腸以外にも、その他の消化管や甲状腺、骨や歯、網膜などにさまざまな病変がみられます。大腸がんの中でも1%以下と珍しい疾患です。
遺伝性大腸がんは予防できる?
すべての大腸がんが遺伝するわけではなく、遺伝子変異が原因の特定の大腸がんは遺伝しやすいことがわかりました。遺伝性腫瘍かどうか調べるのに遺伝子検査が可能な場合もあり、早い段階で、遺伝性腫瘍の診断がつくことで、将来がんになるリスクを知り、早期発見・早期治療につなげられると期待されています。
その一方で、遺伝子検査の結果によっては、家族関係、結婚、出産、就職、保険などの面で新たな悩みや葛藤が生まれるケースも少なくありません。家族や親族の病歴などから遺伝性腫瘍が気になる方は、まずは家族性腫瘍外来のある専門の医療機関などに相談することをおすすめします。近年では、「遺伝カウンセラー」によるカウンセリングができる医療機関もあります。