がんと診断された時、「医療費がどれくらいかかるの?」と気になる方も多いはずです。ひと言でがんの治療といっても、がんの進行の度合いや患者さんの体の状態、治療内容などによりかかる費用は異なります。大腸がんの治療にかかるお金と知っておきたい支援制度について、見ていきましょう。
がんと診断されたら――心配なのは“お金”のこと
これからのことを考えた時に、お金のことは多くの人が不安になるテーマです。治療費・医療費はどれくらいかかるのか、仕事ができなくなったらどうするのか…など、心配の種はいくつも出てくるかもしれません。
がん経験者の方(全国20~70代の男女・治療中も含む)を対象に、michitekuが実施したアンケート結果を見てみると、大腸がんと診断(告知)を受けた半数近くの方が「治療費・医療費」に不安を感じたと答えており、「症状(進行の具合、転移の有無など)」の次に気になる方が多いようです。
出典:株式会社michiteku「がん患者さんの治療方針検討に関する実態調査」2022年3月実施
設問「がんの診断(告知)を受けた際に、あなたが不安に感じたことや困ったことをすべてお知らせください。また、そのうち、最も不安に感じたことや困ったことをお知らせください(複数回答)」 から大腸がん経験者210人の回答を抽出
けれど、心配しすぎることはありません。がんの治療にかかる医療費には、医療保険の適用以外にも、さまざまな支援制度があります。「高額療養費制度」や「医療費控除」のほか「傷病手当金」、治療中や治療後の状態によっては「介護保険」サービスを利用できたり「障害年金」を受給できたりするケースも。
また、主治医はもちろん、病院のがん支援センターや医療相談室などもあります。患者さんやご家族のみで抱え込まず、相談するとよいでしょう。
どんなお金がかかる?――医療行為ごとに値段(単価)がある
まず、医療費には「直接医療費」と「直接非医療費」の2種類があります。
「直接医療費」とは、診察費・検査費・手術費・放射線治療費・薬剤費・入院基本料・代替医療費など、治療にかかる費用として医療機関に支払う費用のことです。一方、「直接非医療費」とは、入院時に個室などを希望する際の差額ベッド代・入院時の食事費・通院時の交通費・装具(医療用ウィッグなど)などになります。
日本では、公的医療制度(健康保険)により「診療報酬」制度が定められています。これにより、さまざまな医療行為それぞれに対し値段(単価)が決められており、より多くの患者さんが質の高い医療を受けられるようになっています。
現行の制度では、患者さんが負担する医療費は最大で単価の3割です。また、患者さんやご家族の年収に応じた自己負担の月額上限が定められています。上限額を超えた際には払い戻しや、事前の手続きにより支払い免除となる「高額療養費制度」もあります。
がんの治療にかかる主な費用をまとめると、次のようになります。
【医療保険等の対象になるもの】
・診察費
・検査費
・入院基本料(食費・差額ベッド代などを除く)
・手術、放射線治療、薬物療法などの費用
・介護サービス費など
【それ以外にかかるお金】
・通院・入院時の交通費(自動車のガソリン代、駐車場代も含む)
・公的医療保険の対象外の治療(開発中の試験的な治療法や薬、医療機器を使った治療など)の費用
・差額ベッド代、食費(標準負担額が上限)
・文書料(診断書や生命保険会社への証明書など)
・入院時や通院時の日用品や消耗品
・家族の交通費・宿泊費、お見舞いのお返しなど
・生活費、医療用ウィッグなど
内視鏡治療にかかる医療費
大腸がんの早期や良性の大腸ポリープの場合、手術ではなく内視鏡治療で、がんやポリープそのものを取り除くのが一般的な治療となります。腫瘍の大きさによって治療法が異なり、負担額も変わります。
大腸がんの内視鏡治療には、ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)・内視鏡的粘膜切除術(EMR)・内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の3つがあり、がんの大きさが2cm未満ならポリペクトミーか内視鏡的粘膜切除術(EMR)、2cm以上なら内視鏡的粘膜切除術(EMR)か内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が選択されます。
こちらの治療にかかる費用を2022年の公定価格をもとに計算すると、ポリペクトミー・内視鏡的年末切除術(EMR)で約5万5,000〜約7万5,000円(3割負担は約1万7,000〜約2万3,000円)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で約22万6,000円(3割負担は約6万8,000円)です。(いずれも病理検査代含む)
入院が必要な際には、さらに入院費用がかかります。入院基本料は1日あたり1万6,000~2万円(3割負担は約5,000〜6,000円)ほどで、入院中の食事代は保険適用外ですが1食あたり460円と一律で定められています。大腸の内視鏡治療での入院は、2~3日ほどの短期入院がほとんどです。
手術にかかる医療費
大腸がんの手術には、開腹手術・腹腔鏡下手術という大きく2つの方法があります。また、がんのステージや発生場所によっても様々な切除方法があります。
手術方法によって費用が異なっており、どの方法を取るかは患者さんの希望も考慮しながら選択します。
手術による治療では、手術費のほかに、麻酔・病理検査費、点滴や投薬、入院などの費用もかかります。
1日あたりの入院費は内視鏡治療の場合と同じですが、結腸がん・直腸がんの手術ともに2週間ほどの入院期間となりますので、医療費の総額は結腸がんの手術で100〜130万円(3割負担は30〜40万円)、直腸がんの手術で130~170万円(3割負担は40〜50万円)前後となり、ほとんどの方が高額療養費制度の対象になります。
例えば医療費総額120万円、自己負担3割の方で70歳未満かつ年収が370~770万円の場合なら、最終的な自己負担額は12万円弱に抑えられます。
薬物療法にかかる医療費
薬物療法では、選択した治療法(薬)にかかる費用に加え、薬が効きそうかを判断するための検査、起こった副作用に対する処方、再発や治療効果をチェックするための検査などの費用もかかります。
また、初回の治療時や患者さんの状態により入院して治療する場合には、入院費用も発生します。
大腸がんの治療で使われる主な薬には、「細胞障害性抗がん剤」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」という分類があり、それぞれに様々な薬があります。薬剤費については、選択する薬の種類に加え、患者さんの体重やジェネリック医薬品を使用するかどうかでも変わります。
放射線治療にかかる医療費
放射線治療は、使用する放射線の種類・照射部位・照射回数などにより、費用が異なります。
たとえば、直腸がんに対して、外来通院で25回の体外照射(体の外から病変に向けて放射線を当てる治療)を行った場合は、初回がおよそ2万円、2回目以降は1回5,000円ほどかかるため、総額でおよそ15万円(いずれも3割負担)となります。
ストーマ(人工肛門)にかかる医療費
手術の際にストーマ(人工肛門)をつくる場合は、手術費とは別にストーマ造設費が必要となります。
一時的ストーマの場合は、もとの肛門に戻すために一時的ストーマを閉鎖する際の手術にも、手術費や入院費などの費用がかかります。
ストーマを使用するには装具が必要ですが、永久的ストーマの場合は身体障害者手帳の交付対象であるため、手帳を申請することで日常生活用具(ストーマ装具)給付を受けることができます。給付の可否・給付基準額は、世帯所得や自治体に応じて異なりますが、上限額の目安は8,600円程度で、負担額は原則1割です。給付の手続きについては、自治体や病院の担当窓口、がん相談支援センターに相談しましょう。
一方、治療のための一時的ストーマの場合、装具代は医療保険の適用外(10割負担)となっています。
医療費に関する支援制度
がん治療にかかるお金(医療費)に関する支援制度についての詳しい情報は、こちらをご参照ください。
相談は主治医やがん相談支援センターへ
ひと言で大腸がんといっても、がんの進行度合いや選択する治療法によって、必要な医療費は大きく異なります。医療費について不安や疑問がある際には、主治医をはじめ病院のがん支援相談センターや医療相談室などに相談してみてください。