「どんな治療があるのだろう」「この治療法を提案されたのはどうしてかな」。主治医からの治療方針の説明前後で、そんなふうに思う方がいるかもしれません。
大腸がんの治療は基本となる考え方の型をもとに、患者さんごとに治療方針が立てられます。では、治療の方針や方法は、どのような過程を経て決定されていくのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
治療方針を決めるための要素
「大腸がん」の治療の方針を決めるための要素には、大きく「がんの状態(進行度、性質*1、発生場所など)」と「体の状態(年齢、病歴・持病など)」、「患者さん本人の事情(仕事や趣味など生活・人生で大事にしたいこと、サポート者の有無など)」の3つがあります。
がんと体の状態は検査によって、患者さん本人の事情は診察やカウンセリングによって主治医のもとに集められます。主治医はそれらの要素から最適な治療を総合的に判断し、患者さんに提案します。
一般的に、治療方針は「大腸癌治療ガイドライン」に沿って提案されます。「大腸がん治療ガイドライン」には、科学的根拠があり、医学的に最も推奨される治療方法(標準治療)が記されています。
*1 がんが未分化型(がんがある程度まとまった状態)か、分化型(がんがパラパラと散らばりながら広がっている状態)か。また、がん細胞の増殖のスピードなども考慮される
大腸がんの治療方針が決まるまで
定期検診や診察の際に行われる「便潜血検査」で大腸がんが疑われた場合は、精密検査を行います。精密検査では、肛門から内視鏡を挿入して、疑わしい細胞を組織ごと採取する、「大腸内視鏡検査」が行われます。採取した組織は、顕微鏡による病理検査*2に回され、がんかどうかを判定します。その際、必要に応じて「X線検査(注腸造影検査)」「CT検査」などを行います。
大腸がんと診断された場合は、さらにMRI、エコーなどの画像検査を実施し、がんの大きさや、転移の有無などを確認。それらの情報をふまえて、がんのステージ(病期)が判定されます。大腸がんの治療方針は、基本的にステージ(病期)ごとに大枠が決定されています。
*2 細胞や組織を顕微鏡で観察することで、がんかどうか、がんの種類についての診断を確定するための検査。専門の病理医が行う
ステージの診断に用いられる指標
がんのステージ(病期)は、がんの深さ(T)、周辺リンパ節への転移(N)、他の臓器への転移(M)の3つの項目に基づき判定されます。この3つの項目のことをTNM分類といい、治療の方針を左右する重要な検討材料になります。
Tカテゴリー:がんの深さ(深達度)
大腸がんは大腸のもっとも内側の粘膜から発生し、組織の中を潜るように進行していきます。Tカテゴリー(深達度)では、がん細胞がどの組織まで入り込んでいるのかを判断し、T0の腫瘍なしから、進行するにつれTis〜T4に分けられます。
なお、がんには、「早期がん/進行がん」という表現もありますが、それはこのTカテゴリー(深達度)の観点の指標であり、後述するステージとは別のものです。
Nカテゴリー:周辺リンパ節への転移
がんは進行するにつれ大腸壁を越えて、周辺のリンパ節に転移します(リンパ節転移)。リンパ節転移が起こるとがん細胞がリンパ液の流れに乗って、さらに離れたリンパ節へと広がるリスクがあります。
Nカテゴリーでは、大腸の近くにあるリンパ節への転移の有無を判断します。N0のリンパ節転移なしから、リンパ節転移の程度によりN1~N3に分けられます。
Mカテゴリー:他の臓器への転移
がん細胞がリンパや血液の流れに乗って、他の臓器や大腸から離れたリンパ節に広がることを遠隔転移といいます。遠隔転移の有無を判断するのがMカテゴリーで、M0の遠隔転移なしとM1の遠隔転移ありの2つに分類されます。
なお、大腸がんが肺に遠隔転移した場合は、肺がんではなく大腸がんの肺転移と表されます。
TNM分類とステージ(病期)との関係
TNM分類の結果をレベル分けして表したものをステージといいます。大腸がんの場合、ステージは0〜4まであり、進行するにつれて、ステージ0〜ステージ4と表されます。TNM分類は複雑なため、一般的に患者さんにはこのステージを用いた説明が行われます。
大腸がんのステージを判断するタイミングは治療中に2度あります。1度目は検査を実施し、TNM分類に従って導かれる「推定」のステージ。2度目は、実際に内視鏡治療や手術を行ったあと「確定」したステージです。手術後に、最初に医師から聞いていたステージから変わったというケースがあるのはこのためです。
最初の治療法選択の流れ
下のチャート図では、治療前の検査で得られた情報をもとに、TNM分類に従いステージ判定し、そこから選択される治療を表しています。
【遠隔転移がない場合】
遠隔転移がない場合(M0)は、周辺リンパ節への転移の有無(N0〜N3)やがんの深さ(Tis〜T4)、それからがんの大きさや部位によって、内視鏡治療が可能か、手術を行う必要があるか検討されます。手術を行う場合は、大腸とその周囲のリンパ節をどの範囲まで切除するか検討されます。
【遠隔転移がある場合】
遠隔転移がある場合(M1)はステージ4となり、転移先のがんである「転移巣(そう)」と最初に発生したがんの「原発巣(そう)」のそれぞれを手術で取り切れるかどうかで治療が変わります。
転移巣、原発巣ともに取り切れる場合は、両方の手術を行います。一方、転移巣、原発巣ともに手術で取り切れない場合や、転移巣は取り切れても原発巣が取りきれない場合は、両方とも手術をせず、薬物療法や放射線治療が選択されます。
また、原発巣のみ取り切れる場合は、原発巣による症状*3の有無によって治療が変わり、症状ありの場合は原発巣は手術を行い、転移巣には薬物療法や放射線治療が選択されます。
*3 腸閉塞(ちょうへいそく)、穿孔(せんこう)、高度の貧血、疼痛(とうつう)などによる症状
ちなみに、このときのTNM分類によるステージ判定に用いられるステージ分類は、以下のように表されます。
内視鏡治療・手術後の治療方針
内視鏡治療や手術後に、切除されたがんを調べ(病理検査)、病理診断(病理分類による判定)を経て、ステージが確定します。
内視鏡治療により、がんが完全に取り切れていれば、治療完了で経過観察となります。一方、リンパ節転移が確認された場合は、リンパ節を切除するための手術が検討されます。
最初や追加の治療で手術を行った後、切除されたリンパ節にがんの転移が確認された場合はステージ3と診断されます。ステージ3や、再発のリスクが高いステージ2の場合は、再発を抑えるための薬物療法が追加で行われます(術後補助化学療法)。
ここでのステージ判定時にも、最初の治療選択時に用いたステージ分類が用いられます。
なお、手術を行わずに薬物療法や放射線治療を行った場合は、腫瘍を切除しないため、2度目のステージ判定は行われません。
納得した治療方針を得るために
主治医は、これらの基準やそれぞれの患者さんの希望をふまえた上で、最適な治療を総合的に判断しています。
大腸がんの治療は長期にわたることも多いものです。主治医との信頼関係を築くためにも、治療方針の決定プロセスと決定に必要とされる要素の全体像や自身の治療方針が立てられた理由を知り、納得した状態で治療に臨むことがとても大切です。
提案された治療方針に関して疑問や不安がある場合は、遠慮をすることなく主治医に確認しておきましょう。