大腸がんは男性・女性ともに多いがんですが、早期に発見し治療ができれば、多くの場合、日常を取り戻すことができます。ここでは大腸がん治療の中心となる手術の方法や、切除する部位、ストーマ(人工肛門)が必要になるのはどのような場合かについて見ていきましょう。
大腸がんの手術の目的とは?
内視鏡治療でがんが取りきれない時や、再発、転移の可能性がある場合は、手術が選択されます。手術の目的は、がんを残さず切除する(体の外に取り除く)ことです。手術の際は、がんとその周辺の大腸(腸管)やリンパ節の一部も同時に切除します。また、がんが他の臓器にも及んでいる場合は、可能な限りその臓器も一緒に切除します。
切除が終わったら、今後も食事を取れるように残った腸管同士をつなぎ合わせます。肛門の近くにがんがあるなど、そうした処置が難しい場合には、ストーマ(人工肛門)をおなかにつくる必要があります。
手術の方法
手術には、大きく分けて次の2つの方法があります。
1. 開腹手術
おなかを15〜20cmほど開いた状態で行う手術です。医師が実際に患部の様子を見たり、触ったりして感覚を確認しながら手術を進めることができ、出血などにも素早い対応が可能です。開腹手術は、大腸がんにおける標準治療*1です。
*1 科学的根拠に基づいた最良の治療であり、患者さんにとって有効である可能性が最も高いとされる治療方法
2. 腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術
おなかに5〜12mm程度の小さな穴をいくつか開け、内視鏡(カメラの一種)や手術器具を挿入して行う手術です。手術の前には、おなかを炭酸ガスで膨らませ、内部を見えやすくします。医師は、内視鏡から送られる映像を外部モニターで確認しながら手術を行います。
近年では、内視鏡と関節のついたロボットアームをおなかに挿入し、医師が遠隔で操作して手術を行う「ロボット支援下手術」も実施されています。
腹腔鏡下手術は、開腹手術と比べて傷が小さいため、出血や術後の痛みが少なく回復が早いというメリットがありますが、手術時間が長くなりやすい、手術が難しくなるなどの課題もあります。腹腔鏡下手術を受けるかどうかは主治医とよく相談しましょう。
大腸がんの手術は大きく「結腸がん」と「直腸がん」に分けられる
大腸がんは大きく「結腸がん」と「直腸がん」に分けられ、実際にどんな手術をするかは、がんのステージや発生した場所などによって変わります。具体的な手術内容を見ていきましょう。
結腸がんの手術
結腸がんの手術では、がんのある場所から口側、肛門側それぞれに10cmほど離れたところで、腸管を切除し、残された腸管同士をつなぎ合わせます。その際、転移の可能性のあるがん周辺のリンパ節も同時に切除します(リンパ節郭清{かくせい})。
手術はがんの発生した部位によって、次の中から、適切な方法が選ばれます。
【結腸がんの主な手術方法】
・回盲部切除術
・結腸右半切除術
・横行結腸切除術
・結腸左半切除術
・S状結腸切除術
また、がんを完全に切除できない場合でも、狭くなった腸管とは別に便の通り道を作り、便通異常などの症状を和らげる手術を行うことがあります(バイパス手術)。
そうすることで、一般的に結腸がんの手術後は、大腸の長さは短くなるものの、その機能は維持されます。なお、結腸がんであっても、肛門の近くにがんがある場合や、腸管のつなぎ目が完全にくっつくまでの間など、その患者さんにとって必要と判断された場合には、ストーマをつくることがあります。
直腸がんの手術
肛門から約20cmの大腸を直腸といいます。直腸は、骨盤に囲まれた深く狭い場所にあり、その周囲には前立腺や膀胱(ぼうこう)、子宮、卵巣などの臓器のほか、排尿機能や性機能を調節する自律神経も存在します。
直腸がんの手術では、これらの機能を維持するために、可能なかぎり自律神経を残す手術を一緒に行います(自律神経温存術)。がんが自律神経の近くにまで及んでいる場合には、がんの切除が優先され、自律神経を残すことができない場合もあります。また、肛門を温存できるか否かによっても、術後の生活は大きく変わります。肛門を切除した場合は、おなかにストーマをつくります。
手術の具体的な方法は、がんのステージや発生した場所によって決まります。直腸がんの手術について詳しくみていきましょう。
肛門とがんが離れている場合
【前方切除術】
直腸S状部、上部直腸、下部直腸の進行がんなど、肛門とがんに距離がある場合は、前方切除術が行われます。前方切除術では、おなかを開いて、がんと周辺の腸管を切除し、残った腸管同士を縫い合わせます。その際、転移の可能性のあるがん周辺のリンパ節も同時に切除します(リンパ節郭清)。肛門の機能が残る手術です。
腹膜反転部より上の位置で縫い合わせる場合を高位前方切除術、(腹膜反転部より)下で縫い合わせる場合を低位前方切除術といいます。低位前方切除術では、より肛門に近い部位を切除するため、ケースによっては人工肛門(ストーマ)を作ることがあります。
肛門とがんが近い場合
【直腸切除術】
肛門とがんが近い場合などは、直腸全体を肛門ごと切除する直腸切除術とリンパ節郭清が行われます。もともと肛門があった場所は縫い合わせて閉じ、切除した大腸の先端をおなかに繋げ、ストーマ(人工肛門)を作ります(マイルズ手術)。
高齢の場合は、肛門を絞める筋肉(肛門括約筋)の働きが低下していることがあるため、がんの発生した場所にかかわらず、ストーマが提案されることもあります。また、ストーマを作る場合でも、元の肛門を閉鎖せず、将来的な自然排せつの可能性を残す方法(ハルトマン手術)をとる場合もあります。
比較的肛門に近い早期の直腸がんなどの場合
【直腸局所切除術】
肛門に近い早期がんなど、転移のリスクが低く、がんと周辺組織だけを切除すればよい場合に行われる手術です。肛門から、内視鏡と手術器具を挿入し、がんを切除、傷口を縫い合わせます(経肛門的切除)。おなかを開く必要はありません。
がんのある場所によっては、うつ伏せになり仙骨(骨盤の後ろの尻尾のような骨)に沿ってメスを入れてがんを切除する方法(経仙骨的切除)が選択される場合があります。
下部直腸がんでも肛門を温存できる手術とは?
【括約筋間直腸切除術】
これまで、肛門に近い下部直腸がんは、早期であっても直腸切除術により、肛門を切除することが一般的でした。しかし、近年の技術の進歩により、肛門に近い下部直腸がんであっても、肛門を温存しストーマ(人工肛門)を避ける手術(括約筋間直腸切除術:ISR)が可能な場合があります。
括約筋間直腸切除術(ISR)は、肛門括約筋の切除範囲を一部分のみにとどめることで、元の肛門の機能を残します。実施には、再発のリスクや術後の排便機能の低下など総合的な判断が必要となるので、主治医とよく相談してください。