がんの治療中には手術や薬物療法・放射線治療だけでなく、人間関係や社会的役割の変化などさまざまな要因で体や心のバランスを崩してしまう人が少なくありません。少しでも体調を維持し回復させることが、治療を続ける体力・気力の維持だけでなく、日常生活や早期の社会復帰にもつながります。がん治療中の体調の維持・回復方法を見ていきましょう。
治療中の体調はさまざまに変化する
治療中の心身への影響はとても大きいものです。病状や治療薬によって個人差があるものの、化学療法ではがん細胞だけでなく正常細胞にも影響を与えます。全身に副作用が現れ刻々と変化する体調に不安を感じることもあるでしょう。ときには、治療を断念したくなるかもしれません。治療中の体力の消耗や心と体への影響を最小限にし治療を継続するために、体力の維持・回復に効果的な方法を取り入れましょう。
規則正しい生活を心がける
健康を維持するために『規則正しい生活が必要』ということを聞いたことはないでしょうか。治療中も、規則正しい生活が体調の維持・回復に欠かせません。治療中の人が体調の維持・回復のために心がけたい、規則正しい生活のポイントを5つお伝えします。
つい『がんになる前の自分』を基準にしがちですが、無理をしたり思うようにできないことに苛立ちを感じたりと、ネガティブな気持ちになることもあります。症状に応じてできる範囲で取り入れてみましょう。
朝起きて夜眠るリズムを崩さない
ヒトの体には『概日(がいじつ)リズム』とよばれる、約24時間の規則正しいリズムが備わっています。概日リズムは眠くなったりお腹がすいたりと、規則的な生活のベースとなっています。概日リズムが崩れてしまうと眠気やだるさ・食欲不振につながります。概日リズムを崩さないことが規則正しい生活の第一歩です。
食事は食べられるタイミングで
治療中の副作用で食事が進まないこともあります。食欲不振や嘔吐、口内炎により食事量が減ると、一時的な低栄養状態になります。低栄養状態が長く続くと痩せてしまうだけではなく筋力が衰え体力も失ってしまいます。
食べられるものを少量ずつでよいので、無理しない範囲で規則正しく食べるようにしましょう。
水分摂取を行う
治療中、使用されているお薬によってはたくさん水分を飲むことが必要となるときがあります。特に、副作用で嘔吐・下痢を伴う場合には、脱水症状を引き起こす危険が高くなります。下痢や便秘、吐き気、口内炎や味覚障害がある場合には、一度に多くの水分を摂取することが難しいことがあります。少量ずつ、無理のない範囲での水分摂取を心がけましょう。
身だしなみを整える
体調が悪いと入浴や歯磨き・着替えなどをおざなりにしてしまうかもしれません。しかし、化学療法中は骨髄抑制の影響で感染症にかかりやすくなるため、感染症を防ぐためにも身だしなみを整えることは重要です。
口内炎がひどく歯磨きが難しい場合には、うがいだけでも十分効果があります。入浴や着替えも体調に負担のない範囲で行いましょう。
日光にあたる時間を作る
日光にあたる時間が短いと体内でビタミンDが十分に生成されず、カルシウムの吸収や骨の成長に影響を与えます。さらにセロトニンの分泌が不足するため気分が落ち込みやすかったり、ストレスを感じやすくなったりします。眠気を感じにくくなる、睡眠の質が悪くなるなどの影響もあります。
室内では効果が若干下がりますが、少しずつ日光にあたる時間を増やしていくことで体内時計も整うため規則正しい生活により近づくことができます。無理のない範囲で日光にあたる時間を増やしていきましょう。ただし、直射日光を避けなければならない薬もあるため、あらかじめ医師または薬剤師に相談しておきましょう。
適度に運動を取り入れる
体調が安定している時には、無理のない範囲で体を動かしましょう。治療中も体調に合わせた運動を行うことが体力の維持・回復につながります。
日常生活や簡単な家事も運動の1つ
体調が安定しないうちは、外出や激しい運動は負担となります。横になっている時間が長くなると、筋力低下だけでなく免疫力の低下にもつながります。
座っている時間を長くするだけでも筋力低下を防ぐ効果は十分にあります。起きて顔を洗ったり着替えたりするだけで、体力が低下している時期には十分な運動効果が期待できます。また、炊事や洗濯、掃除は全身運動になることから、まずは身近なところから始めましょう。
深呼吸やストレッチも効果十分、ラジオ体操もおすすめ
深呼吸やストレッチもおすすめです。深呼吸は自律神経を整える効果があります。体力が低下していると、急激な運動で怪我をする危険があるためストレッチは欠かせません。急に走ったり激しい運動をしたりするのではなく、運動するための心と体の準備を整えていきましょう。
また、ラジオ体操などの簡単な運動も、体調に合わせて短時間から取り入れやすいため、治療中の体調の維持・回復方法におすすめです。座ってもできますし全身運動になり、真剣に行うと軽く汗ばむほどの運動量になります。深呼吸やストレッチ効果も期待できるラジオ体操などの運動を少しずつ取り入れていきましょう。
外出は感染予防対策と短時間がポイント
治療中は免疫力が低下するため、基本的な感染予防対策が欠かせません。治療中の感染予防対策のポイントは、新型コロナウイルス感染症の対策とは少し異なっています。
まず、手洗い・うがい、歯磨きや入浴で清潔を保ちましょう。また皮膚の乾燥や荒れにより傷ができたり、そこから雑菌が入って感染症を起こしたりするリスクが高くなりしますので皮膚の保湿も重要です。
治療中は体力だけでなく抵抗力も落ちています。マスクを着用し人混みを避ける方がよいでしょう。
初めは短時間から、徐々に体調に合わせて外出時間を長くしましょう。せっかく外出するからといって予定を詰め込みすぎると疲れてしまい、体力の回復にも時間を要してしまいます。無理をしないことが大切です。
体調が安定するまでは外出は誰かと一緒に
回復途中は自分で思っているよりも体力が低下しています。特に筋力やバランス感覚の低下に注意が必要です。段差や坂道など些細な場所で転びやすくなっています。
また、体力不足や急な体調の変化でサポートが必要になることもあります。初めは誰かと一緒に外出するほうが安心です。
生活・運動以外の工夫も
体調を維持・回復させるために大切なことは、規則正しい生活と運動だけではありません。ほかにも工夫できることがあるので、チェックしていきましょう。
体調が悪い時は無理をしない
体調が悪いときは休息を十分に取るようにしましょう。無理をするよりも、十分な休息後に運動するほうが、心身ともに効果が期待できます。だるさやつらさは他人には伝わりにくいものです。つらいときはまわりの人に体調の変化を理解してもらい、サポートを受けることが必要です。
また副作用で体調が悪い時には、主治医に相談し副作用をやわらげることも大切になります。早く回復したいからといって、無理をするのは禁物です。
筋力の低下や横になっている時間が長くならないように、体調が悪い時にも取り入れやすい筋力低下を予防するためのポイントをお伝えします。
1)手すりや座面の高さを調整し起き上がりやすいようにする
2)歩行器・つえ・車いすなどを使って自分で動けるようにする
3)息苦しさや痛みのない楽な姿勢をとる
4)定期的に運動する
少しずつでもよいので日常生活に取り入れ、筋力低下を防ぎましょう。
困った時は病院に相談する
「体調がなかなか回復しない」「どれくらい運動していいのかわからない」「外出しても大丈夫かな」など、困った時は病院に相談しましょう。適切なアドバイスを受けることが回復の近道です。
体の変化を受け入れる
治療中の体調は、化学療法の直後・数日後・数週間後と時間経過によって変化します。少し前までは大丈夫でも、急に体調が悪化したり精神的に落ち込んだりすることもあります。
変化に一喜一憂せず体調に合わせた生活を心がけましょう。
症状や体調に合わせて無理せずに
治療中には体を動かすことさえつらいときもあるでしょう。また、治療を繰り返しているとつらい気持ちになることがあるかもしれません。
体だけでなく心のつらさも大事にし、主治医とよく相談したうえで、決して無理をせずに自分の症状や体調に合ったものを取り入れていくようにしたいですね。