薬物療法を始める時、「どんな副作用が出るんだろう」「どのくらい出るんだろう」「副作用が出たらどうすればいいんだろう」と経験のないことに不安を抱くかもしれません。医療従事者は何を見て副作用を判断するのでしょうか。それを知っておくことで、自身はどのような予防・対処ができそうか考えてみましょう。
薬物療法の副作用とは
薬物療法の副作用と聞くと「大変そう」「怖い」などかぜ薬や花粉症薬など身近なお薬に比べてネガティブなイメージを持つ方は多いでしょう。
薬物療法に使われる過去によく使用していた抗がん剤は、がん細胞に作用してがんの治癒や進行・再発を抑える効果があります。しかし、がん細胞だけでなく正常細胞にも影響を与えることで脱毛や吐き気、皮膚症状、免疫力低下などさまざまな症状を引き起こす場合があります。
特に脱毛や吐き気などは目に見える症状のため、副作用が強いイメージがつきやすいのかもしれませんが、以前に比べて副作用の少ない医薬品の登場や対処法の増加により副作用を軽減する手段は増えてきています。
医療従事者は副作用をどう判断するか
治療が始まると「副作用かもしれない」「これは副作用なのかな」と少しの違和感にも敏感になるかもしれません。どのように副作用を判断しているか医療従事者目線で見ていきましょう。
検査値を見る
抗がん剤の副作用には自覚症状として現れるものと、採血をしなければわからない副作用があります。
例えば、免疫力に関連する白血球の数や腎・肝機能が正常かどうかは検査値を見て医療従事者は判断します。特に白血球の数は治療スケジュールにも関係するため、患者さんも目にする機会が増えるかもしれません。
患者さんの状態を見る
目で見てわかる副作用として、肌荒れや発疹などの皮膚症状や爪の変形があります。医療従事者は、患者さんの顔色や雰囲気なども見て判断します。
患者さんの話を聞く
吐き気や手足のしびれなどは検査値や状態を見るだけでは判断できません。診察時には元気でも、患者さんが自宅にいる時に起こった副作用やしんどかったことを患者さんから話を聞くことで判断していきます。
副作用が現れたら自身でどう対処するか
副作用の症状や程度は、使用されるお薬の種類や量、患者さんの身体状況により異なります。「副作用がつらくても続けるべき?」「副作用が起きたら治療できないの?」など今後の治療に対する不安や心配もあるでしょう。
副作用が起きても治療を継続することがあります。反対につらい治療を必ず続けるわけでもありません。副作用の具合から、今後の治療方針がどのように判断されているのか見ていきましょう。
状態を見ながら継続していく
大前提として、投与回数が限られている抗がん剤を除き、効果が続く場合はお薬を継続します。そのため、軽度の副作用や対処可能な副作用であれば、上手に付き合いながら治療を続けます。
例えば、抗がん剤服用後に吐き気がある場合は、治療前後に吐き気止めを使用するなどの対処法が取られています。
お薬の減量や休薬をする
薬物療法には治療スケジュールや投与回数が決まっているものがあります。また、お薬の投与量は体重や体表面積などを用いて決められており、副作用の程度や状態によってお薬の投与量を減らしたり、治療スケジュールを変更して休薬期間を設けるなどの対応をしたりします。また、お薬の投与量を減らして治療を継続することがあったり、投与量は変えず休薬期間を増やして副作用の回復を図ったりするケースもあります。
お薬の投与量が減ったり治療スケジュールが乱れたりすると「がんが悪くなるのではないか」と不安になるかもしれません。しかし、お薬の効き方や副作用の出方は人それぞれであり、医療従事者はそれらを踏まえて患者さんの最適な治療計画をしています。そのため、お薬を減らしたり休んだりすることは決して珍しいことではありません。
お薬を変える
お薬を変更するタイミングとしては、投与回数の決められた薬剤のスケジュールが完遂した場合や治療効果が見られない場合があります。また、服用しているお薬によりアレルギーや重度な副作用症状が現れた場合は治療法を変更することもあります。
何事も伝えることが大切
お薬の種類により副作用の起こる頻度や種類は異なります。医療従事者はお薬ごとに副作用の特徴(種類や現れやすい時期など)を把握し注意を払って患者さんの観察や質問などをしていますが、許容できることとその範囲は患者さんによって異なります。
吐き気が起きても平気な方もいれば、少しの吐き気でもぐったりする方もいます。「つらいけどこれくらいの副作用は普通なのかも」と我慢せず、ささいなことでも主治医などに伝えるようにしましょう。
また、治療スケジュール通りに行うことは重要ですが、自身の気持ちも大切です。「この時期に旅行に行きたい」「行事に参加したい」「点滴ではなくて飲み薬だけがいい」など初めはなかなか言いづらいかもしれませんが、スケジュールや治療法に対しても思うことがあれば伝えてみましょう。
自分でできる副作用対策
ここからは副作用の中でも自分で対処できる副作用に関して『予防できること』と『副作用が起こったときの対処法』をお伝えします。
副作用の種類によっては完全に予防できませんが、日頃から気を付けることで、副作用に左右されにくい状態で治療を行う準備ができます。これから治療を行うにあたり、知識として覚えておくとよいでしょう。
吐き気、おう吐
お薬を投与する日の食事は軽めに済ませましょう。少しは胃の中に食べ物を入れておくと副作用の発現が予防できるといわれています。吐き気やおう吐が起こりやすいお薬の場合は吐き気止めも予防的に使用します。
症状が現れたら無理に食事を取らず、食べられるものを食べられるときに摂取しましょう。また脱水症状にならないために水分はこまめに補給することが重要です。
また、次回受診日に医療スタッフにいつ吐き気やおう吐があったかを報告すると、今後の予防策を立てやすくなります。ただし、食事や水分も取れないなど症状がひどい場合はすぐに電話などで連絡してください。
食欲不振
食欲不振が起こらないように気を付けることはありませんが、治療を始めると治療前と比べて味の好みや好き嫌いが変わることを知っておくと治療後の対策を立てやすくなります。
食欲がない時はすっきりとした味、さっぱりとした味、のど越しのよいもの、口当たりのよいものを選びましょう。また、少量の盛り付けにすることで食べる意欲や安心感を得られることもあります。
『吐き気、おう吐』と同様に食事が取れない状態が続く場合はすぐに医療スタッフに連絡するようにしてください。
下痢
普段の便の性状(水様、泥状、ウサギのふんのように硬くコロコロした形など)と回数を確認しましょう。それをもとに治療による影響かどうか判断することがあります。
下痢を起こした際は消化の良いものを摂取し、脱水症状にならないようにこまめに水分を補給してください。また、市販の下痢止めは自己判断で使用せず、病院から処方されている場合は医師の指示通りに服用しましょう。
次回受診時に、『いつ、何回、どのくらいの間隔で』起きたのか、下痢止めは服用したかなどを報告しましょう。
便秘
日頃から便秘がちな方は多いです。事前に医療従事者へ伝えておきましょう。また普段から適度な運動、正しい生活習慣を心がけましょう。水溶性の食物繊維や乳酸菌を含む食品、水分を摂取することで、便が硬くなることを予防します。
排便がないことに苦痛を感じる方もいるようです。排便状況は本人にしかわからないため、いつ排便があったか、どのような大きさや形だったか報告するようにしましょう。
口内炎(口腔粘膜炎)
口内炎は食事に影響する副作用です。日頃から歯科受診を行い、口のチェック、虫歯治療を行い口腔内を清潔にしておきましょう。口腔内を清潔に保つことが重要となるため、1日4回(朝食後、昼食後、夕食後、就寝前)の歯みがき、こまめなうがいを行いましょう。
それでもできてしまった際には、炎症を抑えるうがい薬を使用したり、食事の工夫によって口の中の粘膜への刺激を少なくしましょう。
炎症が多数でき、痛みで食事が取れないなど支障をきたす場合はすぐに医療スタッフに連絡してください。
皮膚障害
皮膚の予防と対処方法は共通であり、皮膚を清潔に保ち、保湿をしっかり行うことです。保湿には低刺激のローション、クリームを使用します。体を洗う際はごしごし強くこすったり硬いボディタオルを使ったりなどの強い刺激は避けてください。紫外線も肌への刺激になるため、低刺激の日焼けどめクリームやローション、日傘、帽子などを使用することを心がけましょう。
我慢せず早めに医療従事者に相談を
薬物療法は、これまでの経験から『どのような副作用が起こるのか』『どの時期に起きやすいのか』を医療従事者は予測しています。
しかし、患者さんから教えてもらわないとわからないことも多くあります。「副作用だから仕方ないか」と自己解決するよりも我慢せず、早めに相談し対策を取ることが重要です。がん治療は決して一人で戦うものではありません。医療従事者やまわりの方とともに副作用と上手に付き合っていきましょう。