治療を始める前はもちろん、治療を始めたあとにも気になること、相談したいことがたくさん出てくるものです。そのような時、『だれに』『どうやって』『どのタイミングで』相談したらよいか悩むこともあるでしょう。主治医や看護師などの医療従事者への相談のしかたについて考えてみましょう。
時間がたつほど『気になる』が増える
治療を始める前に十分な説明を受けていたとしても、すべてを理解したうえで治療を始めるのはなかなか難しいこともあると思います。治療に慣れてくると少しずつ体力的にも精神的にも余裕が出てくるので、時間がたつほど気になることが増えてくるものです。
主治医に「何をどう聞いたらいいのだろう」「どこまで話してもいいのかわからない」「聞きたいことがちゃんと伝わるだろうか」と悩むこともあるでしょう。一方で、気になることを話し過ぎると「嫌がられないかな」「治療法がなくならないかな」と不安に思うこともあるかもしれません。
医療従事者が知りたいのは『患者さん本人の思い』
主治医や看護師などに相談することをためらう方もいるかもしれませんが、そんな心配はいりません。彼らが知りたいのは『患者さん本人の本当の思い』です。病気の状態などの目に見える症状は自身が話さなくても診察や検査などからわかってもらえますが、自身の心の内にある不安や「気持ちが悪い」「頭が痛い」「夜眠れない」「食欲がない」といった目に見えない症状やつらさを医療従事者がすべて把握することはできません。
どんなにささいなことでもよいので、気になることや困っていることを話してみると、改善策を一緒に考えてもらえます。本当は気になることがあるのに、「特に変わりはありません」「大丈夫です」と答えるのは控えましょう。
相談したい内容を「誰に聞くといいのだろう」と悩むこともあるでしょうが、相談先が違っていたとしても、聞くべき医療従事者に伝えてもらえますので、心配せず気になった時に相談しましょう。
主治医以外への相談という手も
そうはいうものの、主治医に伝えたくても診察時間が短かったり、入院中であれば病棟にはあまり顔を出してくれない、出してくれてもさっさと診察をして帰ってしまったりと、相談内容を詳しくゆっくり話すことができないことも多いでしょう。そんな時は、他の医療従事者に相談しても大丈夫です。
医療従事者は医師や看護師だけでなく、薬剤師や管理栄養士、理学療法士など多職種が専門的知識を生かして患者さんにとって最善の医療を提供するために日々活動しています。「ほかの医療従事者に相談して、主治医に直接相談しないのは申し訳ない」と感じる必要はまったくありません。
「あとで相談しよう」と思っても忘れてしまうものです。気になることを思いついた時にそばにいる医療従事者にどんどん聞いてみましょう。
医師への相談は『療養生活の記録』などを活用する
主治医による診察時間は思ったよりも短く、その短い時間にすべてを伝えるのは難しいでしょう。いざ思っていることを伝えようとしてもうまく伝えられなかったり、診察が終わってから「あれを聞くのを忘れていた」「これも伝えるのを忘れてしまった」と気持ちが沈んでしまうことはよくあるものです。
そのようなことを減らすための手段のひとつとして『療養生活の記録』という冊子があります。受診時に伝えたいことや聞きたいことを記録しておけるページがあるので、日々の生活を送っているなかで気になったことがあった時に書き留めておくことができます。また、治療法によっては、疾患に合った専用の冊子を渡してもらえることがあります。
点滴中の時間を利用し看護師・薬剤師に相談する
施設にもよりますが、外来で点滴治療を受けている方は点滴時間中に看護師や薬剤師に相談するとよいでしょう。点滴中のスタイルとしては、リクライニングチェアに座ったりベッドに横になったりしながら、本を読んだりテレビを見たり、リラックスして過ごすことができます。なかには仮眠を取る方もいます。
点滴は30分程度で終わるものもありますが、3時間以上かかるものもあります。気になることがある方はこの時間を利用するのがおすすめです。点滴で針を刺す場所の確保や点滴のお薬の交換のために何度か看護師が訪ねてくるので、日常的に気になることや今後のスケジュールで気になることを相談してみましょう。
また、前回の治療後に副作用がなかったか、治療をしていない期間に気になる症状がなかったかどうかを薬剤師が聞きに来てくれることがあります。お薬について気になることがあれば、どんなささいなことでも薬剤師に聞いてみましょう。
施設によっては外来化学療法室に薬剤師が常駐していないこともあるので、その時は看護師に「薬剤師に相談したい」と伝えてみましょう。
調剤薬局でお薬をもらう際に薬剤師に相談する
注射のお薬ではなく、内服や副作用を軽減するための支持療法のお薬を調剤薬局でもらう方は薬局の薬剤師に相談するのもよいでしょう。副作用をやわらげるお薬として処方されるものには、吐き気止めや便秘薬、下痢止めなどがあります。どの程度の症状があれば服用したほうがよいかなど事前に相談してみましょう。
もし、帰宅したあとに聞き忘れたことや気になることがあれば電話で相談もできます。
薬局の薬剤師は患者さんからの相談や日常生活での変化などの情報を、患者さんの同意のもと主治医と共有し、より良い医療提供に努めています。「医師に言えなかった」「伝えそびれた」ということも伝えてみましょう。病院から離れている薬局でお薬をもらっている方でも問題ありません。
入院中ならその都度相談する
入院中であれば、気になること、相談したいことが思い浮かんだ時に医療従事者に聞くことができます。病棟に常時いるのは担当してくれている看護師かもしれませんが、「薬剤師に話を聞きたい」「相談したい」と看護師に伝えれば、担当の薬剤師に連絡してもらえます。
がんに精通した薬剤師がいる場合もあり、今後の治療方法なども医師とともに検討してくれることもあります。
ソーシャルワーカーに相談する
病気や障害によって患者さんやそのご家族が抱える問題を相談できる相手として医療ソーシャルワーカー(MSW)と呼ばれる方がいます。病院にいる医療ソーシャルワーカーであれば、ほかの医療従事者と連携をとってくれますので、どの職種に相談したらよいかわからない内容でも気軽に相談することができます。がんと診断されて漠然と押し寄せる不安や、これからの生活に対する不安、治療費に対する不安、などさまざまな不安への相談に乗ってくれます。
がん相談支援センターを利用する
がん相談支援センターは全国のがん診療連携拠点病院や小児がん拠点病院、地域がん診療病院にある、がん相談窓口です。がんに詳しい看護師やソーシャルワーカーが相談員として対応してくれ、対面や電話で相談ができます。相談料はかかりません。なかにはがん専門の相談員がいるところもあります。
医療従事者以外の相談先
医療従事者以外の相談先もあります。日常生活の過ごし方の工夫などは、同じくがん治療を経験した方の実体験が非常に参考になります。患者会や患者サロンなどいくつかのコミュニティがあります。
患者会
患者会は同じ病気や障害、症状など、何らかの共通する患者体験を持つ方たちが集まり、自主的に運営する会です。電話や電子メールなどによる悩みの相談、会報による情報提供などを行っています。
患者サロン
患者やその家族など、同じ立場の方が、がんのことを気軽に本音で語り合う交流の場です。患者や家族が主体になっているところもあれば、医療従事者を中心に活動しているところもあります。また、患者サロンを患者会と呼ぶところもあります。
ピアサポート
ピアサポートとは『仲間同士の支え合い』を意味する言葉です。がん患者さんの場合には、がんサバイバーと呼ばれる、がんの治療中や治療後の方が一定の研修を受け、がん患者さんのお話を聞く場です。
対がん協会のがんホットライン
日本対がん協会のがんホットラインは、年間9000件前後の電話相談があります。電話で相談でき、通院している病院とは関係のないところで相談できるため利用しやすいのが特徴です。
ただし、症状や治療内容、副作用の現れ方などは人それぞれです。医療従事者以外に相談する時には、情報をうのみにしないことが大切です。治療内容やお薬に関しては医療従事者と相談するようにしましょう。
自身が相談しやすい相手を見つけよう
相談する相手や相談のしかたはみんな同じではありません。面と向かって顔を合わせて直接話をするほうが相談しやすい方もいれば、面と向かうと相談しにくい方もいます。また、治療が行われる環境は人それぞれで、関わってくれる医療従事者も違います。治療については医師、お薬については薬剤師などはあまり考えずに、『自身にとって話しやすい相手や相談しやすい相手・相談先』を見つけて話してみましょう。