近年、手術の入院期間は、手術方法や手術後の対応の進歩によって短くなり、その後の日常生活で受ける影響も少なくなりつつあります。それでも胃の一部または全部を切除するため、食生活を主として対策を取ることが望ましい側面もあります。胃がんの手術を受けるにあたり、事前に準備することや入院期間の長さ、退院後の日常生活で気をつけるポイントなどについて見ていきましょう。
入院前の準備、日常生活への影響は
胃は食に関わる重要な臓器であるため、胃がんの手術で、一部あるいは全部を切除することによる手術後の生活について、不安を感じる方もいるのではないでしょうか。手術による影響とその対策は明らかになっており、あらかじめ準備することで、日常生活への影響は緩和できます。
入院準備の持ち物は深く考え過ぎずに
手術を受けるにあたり、事前の準備は必要です。入院時の持参品には、保険証や病院から渡された書類、寝間着、下着、洗面・入浴用具、筆記用具、上靴を用意しましょう。このほかにウェットティッシュ、ペーパータオル、衣服用S字ハンガーなどが便利なものとしてよく挙げられます。
これらの日用品は、院内の売店で販売されていることもあるので、あまり深く考え過ぎずにできる範囲で準備を進めましょう。
家族へどこまで情報共有するのがよいか
胃がんの手術は、長くて2週間前後の入院が必要になる場合があります。そのため、入院で影響を与える家庭や職場などには、あらかじめ情報共有が必要になります。
同居する家族には、病名のほか具体的な手術内容や入院期間、術後に起こりえることなどを伝えましょう。家事や育児など、入院期間に対応できないことに対する代替方法も、早めに話し合っておくことで、安心して入院・手術に臨めます。
職場への情報共有は
職場の上司や同僚にどこまで伝えるかは、自身で決められます。早期の胃がんで治癒が見込め、かつ入院期間の休暇を問題なく取得できる場合、それほど多くの関係者に伝えず、治療を終えることもあります。
一方、手術に伴う入院期間が長くなりそうな場合や、退院後も術後の補助化学療法を行う場合、休職や休暇取得が必要になることもあります。その場合は、上司や人事・総務部門の担当者に、病名や治療による休暇・休職期間の見込み、治療によって困難になる業務などをあらかじめ伝えて、治療に臨むのがよいでしょう。
入院期間は1~2週間ほど
胃がんの入院期間は、治療法により大きく異なります。最も早期の胃がんで行われる内視鏡治療のうち『内視鏡的粘膜切除術(EMR)』『内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)』は1週間ほど、お腹に開けた1~3cmの穴から内視鏡や手術器具を入れて、モニター映像を見ながら行う『腹腔鏡手術』は10日前後です。また、従来型のお腹を大きく切り開く『開腹手術』では、2週間前後といわれています。
手術とその合併症の対策で、日常生活に与える影響を最小限に
手術後の日常生活では、主に食生活の面で注意したいポイントがあります。
退院後は、当面、腸に負担をかけないよう注意しましょう。食物繊維の多い食品、油っこい食品、硬い食品、消化の悪い中華麺や餅、アルコールを控えましょう。
また、胃を一部切除した場合、胃の容量が小さくなるため1回当たりの食事量が減少します。手術後は食事の回数を1日5~6回に分け、調理時は食材を細かく切ったり、食べる際は以前よりも良く噛んで時間をかけたりするなど、消化しやすい食事と食べ方を心がけましょう。
胃がんの術後に起こりやすいダンピング症候群に注意を
手術後は、胃の中の食べ物が以前より短時間で小腸に流れ込む『ダンピング症候群』が起こりやすいので注意しましょう。ダンピング症候群には、食後30分以内に起こる『早期ダンピング症候群』と食後2~3時間で起こる『後期ダンピング症候群』があります。どちらも冷や汗、立ちくらみ、めまいなどの症状が起こります。
早期ダンピング症候群と後期ダンピング症候群
早期ダンピング症候群の場合、頭を高めにして横になることで改善しやすいと言われています。後期ダンピング症候群には下記のような対策があります。
・1回当たりの食事量を減らして回数を増やす
・甘いものを摂取し過ぎない
・1回当たりの食事に時間をかける
・食事中の水分量を少なくする
・食後2~3時間後を目安にあめをなめる/甘いジュースを摂取する
後期ダンピング症候群は、小腸から急速に糖質が吸収されて、急上昇した血糖値を下げます。そのため、体内でホルモン(インスリン)が大量に分泌された結果、短時間で血糖値が急低下する恐れがあるので注意が必要です。後期ダンピング症候群では、意識を消失する場合もあり、車の運転などは控えましょう。
その他の合併症対策
胃での鉄分、ビタミンB12、カルシウムなどの消化吸収能力が低下することで、貧血や、骨がもろくなる骨粗しょう症を引き起こすこともあります。そのため、しっかり食事をとり予防しましょう。症状によって治療する場合もあるので、主治医や管理栄養士と相談して対策を取りましょう。
食道から胃への入口にある『噴門部分』を切除した患者さんは、胃酸を含んだ胃内の消化物が逆流し、食道の一部が胃酸で炎症を起こす『逆流性食道炎』になりやすい傾向があります。そのため、食べ物をゆっくり30分以上かけて摂取することや、食後すぐに横にならないこと、食後2~3時間ほど空けてから就寝することなどを心がけ、予防しましょう。
術後の生活を含め、主治医とよく相談して治療法の選択を
手術前には主治医と選択できる治療(手術)の長所や短所を確認するとともに、術後にどのような変化が起こりえるのかよく話し合いましょう。また、手術を行う医療機関には、主治医の他にも管理栄養士や相談できる医療従事者、がん相談支援センターのスタッフなども在籍しています。納得する治療選択とその後の生活を目指しましょう。
また、個人差はありますが、手術後おおむね3~4カ月ほどで、手術直後よりも食事量が増えてくるといわれています。ただし、ダンピング症候群のリスクは残るので、食事に時間をかけ、一度に大量に食べないよう注意しましょう。