近年、治療薬の開発は目覚ましい進歩を遂げています。一方、治療薬の種類が増えるにつれ、患者さんを悩ませる副作用の種類もまた多様化しています。抗がん剤治療を始めるにあたり、知っておきたい副作用の種類や対策、日常生活への影響とその相談先について見ていきましょう。
重要な選択肢である薬物療法
胃がんの治療では、薬剤開発の進歩により、薬物療法の選択肢が複数あります。また、その副作用を予防・軽減するためのお薬や対処法も日々進歩を遂げています。
それでも、治療開始後には、日常生活や体調にはさまざまな変化が起こりえます。治療開始前の主治医からの説明は、少々難しい内容もあるかもしれませんが、わからない点は遠慮せずに聞き直したりメモを取ったりするなどして、不安を残さずに治療を受けられるようにしましょう。
薬物療法の前に職場と家庭の調整を
治療を開始すると、仕事を休む必要が出てきたり、ご家族に家事や育児の協力をお願いしたりする場面が多々あります。自身がまわりの方に状況を知られたくないこともありますが、誰にどこまでなら伝えるべきか、気持ちを整理しながら、必要に応じて事前の調整を進めましょう。
胃がんの薬物療法は、入院と通院どちらの可能性も
胃がんで薬物療法を行うのは、おおむねステージ2以降です。ステージ2の胃がんでは、手術後の再発防止を目的とし、飲み薬のみで治療を行うことがあります。また、ステージ3では、手術後の再発予防が、他の臓器に転移があるステージ4では、飲み薬と点滴投与が必要な注射薬の併用、または注射薬同士の併用が、標準的な治療として実施されます。
薬物療法による入院期間は1週間ほど
現在、薬物療法は、外来通院で専用の化学療法室を使用して行うことが増えてきましたが、副作用が強く現れやすいお薬を使う場合、病院の方針によって副作用チェックを目的に、入院することがあります。
薬物療法で入院が必要な場合、その期間は数日から1週間ほどです。詳しい日数は、病院ごと、状況ごとに異なりますので、必ず確認しましょう。入院時には、衣服・下着、洗面・入浴用具などの持参品が必要になります。
点滴治療は車の運転を控えたほうがよい場合も
通院による外来化学療法室での薬物療法は、点滴が行われ、リクライニングする椅子やベッドが患者さんごとに用意されます。点滴中は飲食も可能で、シートに付属したディスプレイで、テレビの視聴が可能なこともあります。
外来化学療法室での点滴治療は、治療開始前に採血を行い、薬物療法を行えるかどうかの確認をする場合もあります。また、病院側では必要なお薬を事前に準備し、厳格な投与スケジュール管理が行われているので、予約時間に遅れそうな場合や都合が悪くなった場合は、必ず連絡しましょう。
なお、アルコールを含んでいる抗がん剤や副作用防止のために眠気が出る抗アレルギー薬を使用することもあります。その場合、自身の運転による通院は大変危険ですので、ご家族に送り迎えをお願いするか、公共交通機関を利用するようにしましょう。
外来での点滴治療でも休暇取得を検討
仕事がある場合は、外来治療の際は休暇を取得することが望ましいでしょう。治療後は副作用で一時的に体調が悪化することもあります。
家庭内で担当している家事・育児も、外来治療の予定日は家族に代わってもらったり、外部サービスを活用したりするなど、自身やご家族に無理がないよう準備を整えましょう。
3つの『抗がん剤』とその副作用対策
胃がんの治療で使用される治療薬は、がん細胞の増殖を直接抑える『抗がん剤』、がんの増殖に必要なたんぱく質の働きを抑える『分子標的薬』、がん細胞が免疫の働きを邪魔しないようにして、がん細胞を免疫の働きで排除する『免疫チェックポイント阻害薬』などがあります。
抗がん剤による副作用はさまざま
抗がん剤の主な副作用は、白血球などの血液の成分をつくる働きが抑えられる骨髄抑制や、脱毛、口内炎、強い吐き気などがあります。骨髄抑制が起こると、細菌から守る役割の白血球、そのなかでも好中球が減少すると感染症にかかりやすくなるので、日頃から手洗いをする、感染症流行時は外出を控える、外出の必要がある際はマスクを着用するなど、対策を心がけましょう。
脱毛は一部の抗がん剤で避けられない副作用で、予防も難しいのが現状です。対策としては、治療開始前に医療用ウィッグ(かつら)を入手し、自分の髪をあらかじめウィッグに近い髪形に散髪するとよいでしょう。口内炎は、抗がん剤治療開始前の虫歯治療や歯石除去、治療中の念入りなうがいや歯磨きで軽減が期待できます。吐き気がみられる場合、吐き気止めのお薬や不安を和らげるお薬、セルフケアにより、多くは発症の予防が期待できるとされています。
なお、口内炎と吐き気などの副作用は食欲に影響しやすいため、治療中に体重が減少することもあります。極端な体重減少は、抗がん剤の継続治療や効果にも影響するという研究結果もあるので、治療開始前はややカロリーの高い食事を取る、口内炎や吐き気による食欲不振時は食べたいものだけでも食べるなどの対策で、極端な体重減少を予防しましょう。
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の副作用は気づきにくいものも
分子標的薬は、時に、心臓のポンプ機能が極端に低下する心不全が起こり、免疫チェックポイント阻害薬では、強化された免疫が自身の体を攻撃することで起こる、各種の自己免疫性疾患などの副作用があります。抗がん剤の副作用に比べると頻度は低いのですが、いずれも対処が遅れると、命にかかわることもあります。あらかじめ主治医や担当の看護師、薬剤師にどのような症状に注意すべきか確認しましょう。
なお、このような副作用に伴う初期症状は、自身では気づきにくかったり、大したことはないと思ったりする場合があります。医師などから説明を受けた副作用の症状を、ご家族など周囲に情報共有したり、日々の体調の変化を記録したりすることで、早期発見につながります。何らかの変化を感じたときは、早めに医療機関へ連絡するのがよいでしょう。
不安な点は主治医や各種専門スタッフに相談を
このように、お薬の副作用とそれが日常生活に与える影響は、種類によって異なります。副作用は、治療開始前に説明文書として配られることがあるので、治療の進み具合に合わせて読むとよいでしょう。
また、治療そのものだけでなく、日常生活において不安な点がある場合、主治医はもちろんのこと、外来化学療法室の看護師や薬剤師、がん相談支援センターの相談員ら専門スタッフにも相談ができます。自身の不安の解決につながるヒントをくれるはずです。