がんの告知や治療により、この先どのように事が進んでいくのか、不安に思うのも無理はありません。そんな不安な気持ちが少しでも和らぐよう、ここでは、がんの診断から治療法の決定、実際に治療を開始するまでの流れやその時々の注意点を確認していきましょう。
複数の検査で最適な治療法の判断を
多くの方が、人間ドックやがん検診、または何らかの自覚症状が現れて医療機関を受診した時に、がんに気づきます。
胃内視鏡を使用した検診で、がんの疑いが指摘された場合、がんと疑われる細胞の一部を採取(生検)し、この細胞を顕微鏡で見て、がん細胞かどうかを確認する病理検査が行われます。
胃X線検査で胃がんの疑いが指摘された場合は、追加で胃内視鏡検査および生検による病理検査を行います。
確定診断後も、より詳しい検査を実施
病理検査後にがんと確定した場合は、どの程度がんが進行しているかをさまざまな検査で確認します。以下の検査は、がんの転移の有無を確認したり、治療法の検査に役立てたりします。
CT検査、PET検査でがんの転移を確認
胃がんが胃の表面からどの程度の深さまで達しているかを、超音波(エコー)検査で調べます。また、周辺の臓器やリンパ節にがんが転移しているかどうかを、CT(コンピューター断層撮影法)で調べます。CT検査で見つけにくい極めて小さながんには、がん細胞に集まりやすい放射性物質を注射後に、体を撮影する、PET(ポジトロン断層撮影法)という検査を行います。
心臓や呼吸器の機能検査や血液検査で、治療法の検討を
また、同時進行で、心臓や呼吸器の機能検査や血液検査も行います。これは、手術に耐えうる体力が患者さんにあるかどうかを調べ、治療の選択肢に入れられるかを検討するためです。
がんの遺伝子変異を調べる検査も
近年、胃がんでは、生検で得たがん細胞の中に、がん細胞を増やすタンパク質であるHER2(ハーツー)がどのぐらい含まれているかの検査も同時に行います。HER2が過剰にあるとわかった場合は、HER2の働きを抑えるお薬を使用します。
ステージ(病期)の決定とガイドラインに基づく治療方針の提示
このような検査の結果を総合して、最終的なステージが診断されます。このステージに応じて、その後の治療方針が決定します。
がんをはじめとするさまざまな病気では、専門の医学系学会で、これまで集積した科学的に信頼度の高い研究結果に基づき、現時点で推奨される治療法である『標準治療』を体系的にまとめた、診療(治療)ガイドラインが策定されています。
胃がんの場合も、日本胃癌学会が策定した『胃癌治療ガイドライン』があり、その中に記載されたステージごとの治療選択にのっとり、治療が進められます。つまり、主治医の一存で選択が決まるものではなく、基本的にはこのガイドラインに沿った治療法であるということです。
医師と二人三脚で治療選択を行うシェアード・ディシジョン・メイキング
近年、がんの治療法を選択する際には、『シェアード・ディシジョン・メイキング(共有意思決定、SDM)』という意思決定法を用いるのがよいと考えられています。SDMでは、医師から提示された治療法を選択する際、自身が置かれている生活環境や生活習慣、自身が持つ価値観などを率直に主治医に伝え、一緒に治療法を選択します。
がんの診断でショックを受けている中、複数の治療法から自身の治療法を選択するのは難しいことです。そのようなときは、それぞれの治療法のメリットとデメリットを医師に確認し、可能ならばその内容のメモを取りましょう。そのうえで、SDMの考えに基づいて、自身が何を大事にして治療法を決めたいのかを考え、最良と思える治療法を、医師とともに選択しましょう。
納得して選択できるよう、セカンドオピニオンの活用も
もし主治医の説明に不安を感じたら、主治医とは別の病院の医師に意見を求める『セカンドオピニオン』を受けるのもよいでしょう。「主治医の機嫌を損ねるのでは」と心配になる方もいるかと思いますが、セカンドオピニオンを選択することは患者さんの権利です。
まずは、自身が納得して治療法を選択することを優先しましょう。セカンドオピニオンを受ける場合は、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターに問い合わせることで、地域内のセカンドオピニオン外来の情報を得やすいでしょう。
治療開始までにできること
治療法が確定すると、その方法に応じて、入院や通院での具体的な治療スケジュールの調整に入ります。手術の場合、術式や担当医の勤務状況などに応じて、1カ月からそれ以上待つこともあります。
患者さんの不利益とならないかどうかを判断したうえでスケジュールは提示されますが、不安に思う気持ちがある場合は、主治医やがん相談支援センターに伝えてみましょう。
食事や生活習慣の見直しは基本的に不要
手術など、治療を開始する前に、生活習慣を大きく変える必要はありません。ただし、睡眠時間や食生活の乱れは体力の低下につながる可能性があります。
がんの治療前は、健康的な生活を心がけ、体力を保ちながら治療開始を待ちましょう。また、体を動かす余裕のある方は、主治医と相談したうえで筋肉トレーニングや有酸素運動を行い、基礎体力の向上に努めるのがよいでしょう。
家庭や職場で対応の相談も
入院治療を行う場合、家庭・職場ともに、自身が担っていた役割の一部を誰かにお願いすることになるでしょう。その際には、具体的な対応を話し合うだけでなく、自身の状況を、誰に、どの程度伝えてよいのか、家族・同僚などに意思表示するのがよいでしょう。
自身の気持ちを大切に、一つひとつ確実に対応を
がんの疑いから診断、そして治療の開始までには、さまざまな検査や準備が必要になります。あれやこれやと対応に追われているうちに、あっという間に過ぎていると感じている方もいるのではないでしょうか。
大切なのは、自身の気持ちを大切にしつつ、一つひとつ確実に対応を進めることです。もし、不安がある場合は、がん相談支援センターや患者会に相談するのもよいでしょう。