「がんの治療費はいったいどれくらいかかるのだろう?」。突然、がんと診断された時、気になる方がいるかもしれません。一口にがんの治療といっても、手術から放射線治療、薬物療法まで、その選択肢はさまざまです。また、がんのステージ(病期)や体の状態によって、どの治療を選択するかは患者さんによって大きく異なります。がん治療にかかる費用について、胃がんを例に治療法ごとに見ていきましょう。
医療行為ごとに値段(単価)が決まっている
医療費には、診察費、検査費、手術費、放射線治療費、薬剤費、入院基本料といった『直接医療費』と、個室〜少人数の部屋を希望した時の差額ベッド代(差額室料)、入院時の食事費、通院のための交通費などの『直接非医療費』の二種類があります。
日本では国民全員が加入を義務付けられている公的医療保険制度により、直接医療費の入院費に関して、より多くの方が質の高い医療を受けられるよう、『診療報酬』という制度で医療行為ごとに値段(単価)が決められています。
患者さんが負担する医療費は、現行で最大単価の3割です。また、年収に応じた自己負担の月額上限もあり、それを超えた自己負担額の払い戻しや支払い免除が行われる『高額療養費制度』もあります。
内視鏡治療でかかる医療費
がんの発見が早い段階では、がんそのものを手術で取り除く治療が一般的です。胃がんでは、がんが胃内部表面の粘膜内のみにとどまり、周辺のリンパ節や他の臓器への転移がない極めて早期の場合、手術ではなく内視鏡治療が行われます。
がんの大きさ2cm以内の場合に選択できるのが内視鏡的粘膜切除術(EMR)、それより大きい場合は内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)という方法です(3cm以内の腫瘍も適用の場合あり)。これら治療の公定価格は2021年時点で、内視鏡的粘膜切除術(EMR)が約6万5,000円、内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)が約18万4,000円です。
通常、これらの治療は前日から入院し、治療後に合併症がないことを確認するため、5日ほど入院することになります。入院基本料はおおむね1日1万6,000~2万円前後です。また、入院中の食事代は公的医療保険は適用されませんが、標準負担額が1食460円、1日1,380円と全国一律で定められています。これ以外に麻酔費用が約6~7万円、切除したがんの病理検査費用が5,000円ほどかかります。
ここまでの費用をまとめると、内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)を受けるにあたって必要となる医療費はそれぞれ約24万円と約39万円になります。さらに自己負担割合が3割の場合、実際の窓口負担はそれぞれ約7.5万円、約11万円です。
開腹手術や腹腔鏡手術でかかる医療費
近年、胃がんの手術では、『腹腔鏡手術』という術式の割合が増えています。公定価格は胃の切除範囲で変わり、約64~83万円と幅があります。これに対して、従来型のお腹を大きく切り開く開腹手術は約55~71万円です。
その他の入院費などは内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)と同じですが、腹腔鏡手術や開腹手術の場合は入院期間が10日前後ですので、医療費の総額は最低でも100万円前後となります。自己負担3割でしたら30万円ですが、前述の高額療養費制度の対象になる方がほとんどです。
例えば医療費総額100万円、自己負担3割の方で70歳未満かつ年収が370~770万円の方でしたら、この制度により最終的な自己負担額は9万円弱に抑えられます。
手術後にお薬を服用する術後補助療法を行う場合も
胃がんでは、手術後の再発を防ぐために補助療法をする場合があります。年齢や栄養状態、自身の希望に合わせて、飲み薬やそれに加えて点滴を行うことがあります。
種類もさまざまな薬物治療
胃以外の臓器にがんが転移している場合、手術は行わず、お薬で治療を行います。胃がんの治療で使われるお薬は、細胞増殖の仕組みの一部を邪魔することでがん細胞を攻撃する『抗がん剤』、がん細胞の増殖に必要なタンパク質の働きを抑える『分子標的薬』、がん細胞によってブレーキがかかった状態となった免疫機能を回復させ、がんの増殖を抑える『免疫チェックポイント阻害薬』などがあります。薬剤費は、体重やどのお薬を使うか、ジェネリック医薬品を使うかでも変わります。
相談は主治医や相談支援センターへ
こうしたお薬の投与に当たり、安全性を考慮して数日間だけ入院して経過を見る病院も少なくありません。その場合は入院費がかかります。また、入院後のリハビリテーションの医療費がかかることもあります。
このように患者さんによって医療費は大きく異なります。不安を感じる場合は主治医や各病院のがん相談支援センターや医療相談室などに相談してみましょう。