自身ががんであることを知り、それだけでもつらい状況にある中で、家族や友人、職場など、まわりの方々に、どのように説明すべきか悩んでいませんか。がんをまわりの方々に伝えることは、精神的な負担が大きいものですが、状況をうまく説明できれば、まわりの方々が自身の治療や生活を助けてくれる存在になるでしょう。自身の状況をまわりに伝え、理解してもらうためのヒントを考えていきましょう。
伝えるべきかは自由意志、自身の気持ちを大切に
がんの治療に取り組む際は、それまでの日常生活からある程度離れ、治療のために時間を確保する必要があります。自身のこれまでとは違う様子から、まわりから「どうしたんだろう?」と心配されることもあります。
がんであることを知り、精神的負担を感じるとき、まわりに伝えるかどうか考えることは難しいことかもしれません。「考えられる」と思えるようになるまで無理をする必要はありません。自身の気持ちを整理しながら少しずつ考えていきましょう。
『患者さんが自身の自由意志で決める』ことが重要です。自身の気持ちが落ち着いたら、まずはまわりの方々、例えばご家族やご友人のうち、誰にがんであることを伝えるかを考えてみましょう。また働いている方は、同僚や取引先にもご自身の状況を伝えるかどうか、どのような協力を仰ぎたいかなども少しずつ考えていきましょう。
家族にはどう伝えたらよいか
自身のがんについてまわりに伝える際、簡単なようで難しいのが、家族への伝え方です。一口に家族でも配偶者やパートナー、子供、親兄弟では伝え方が異なります。
配偶者・パートナーへの伝え方
自身にとって最も親しい間柄の配偶者・パートナーであったとしても、がんのことを伝えるのは、とてもつらいことでしょう。また、生活をともにし、家事や育児などを分担している以上、何も伝えることなく、がんの治療を進めていくことは困難です。自身の気持ちが落ち着いてから、がんの状態や治療内容、必要となる医療費の見込み、治療中に家庭内でできなくなる可能性などは、できるだけ率直に伝えましょう。
家庭内で自身が担当していた家事や育児の一部は、配偶者・パートナーに代わってもらうこともあるでしょう。どこまで配偶者・パートナーにお願いできるか、よく話し合いましょう。
その過程で、まわりの方々の助けを借りるという選択肢が挙がるかもしれません。配偶者・パートナーには、家族や親族、友人など、誰にがんのことを伝え、協力を得るのがよいか、自身が想定している『伝えたい相手』と『伝えたい内容』を共有し、相談に乗ってもらうことで、より安心して治療やその後の生活を過ごせるのではないでしょうか。
子どもへの伝え方
お子さんがいる場合、自身の状況をどこまでお子さんに伝えるかは、大変悩ましい問題でしょう。まだ病気や死を理解できない年頃のお子さんには、あえて秘密にしておこうと考える方もいるかもしれません。しかし、病気のことを理解できないお子さんでも、それまでの生活とは何かが違うことを感じ取り、不安を覚えることがあります。また、ある程度大きくなったお子さんでは、理由を明かされないことが不安や心配につながることもあります。
患者さん自身の気持ちが落ち着いてからで構いません。お子さんと自身の気持ちを語り合える機会を作ってみてはいかがでしょうか。まずは、自身の病状やがんという病気について説明し、そのうえでお子さんがどの程度理解できているか、どのようなことに不安をおぼえているかを確かめながら、徐々に互いの理解をすり合わせていくのがよいでしょう。
その際、がんという病気をわかりやすく伝える方法の一つに『3つのC』を伝えるというものがあります。『3つのC』とは、『Cancer (がんという病名)』、『not Caused (誰のせいでもない)』、『not Catchy (うつる病気ではない)』の3つです。
がんという病名をはっきりと伝え、自身(お子さん)のせいでがんになったわけではなく、うつる心配もないことを正直に伝えることは、互いの不安を取り除き、安心して治療や日常生活を過ごす助けになるでしょう。
また、子どもをもつがん患者さんたちがつながるコミュニティサイト『Cancer Parents(キャンサーペアレンツ)』(運営:一般社団法人キャンサーペアレンツ)というSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)もあります。お子さんにどのように伝えたらよいか迷ったり、相談相手が必要と感じたりした際は、同じ悩みを経験した患者さんの力を借りて、伝え方を考えてみるのもよいでしょう。
親への伝え方
もう一つ悩ましいのが親への伝え方でしょう。親は子どもが何歳になろうとも心配なものです。どんなに落ち着いて状況を説明しても、親御さんにとって、やはりショックは大きく、悲嘆に暮れてしまうこともあるでしょう。まずは、可能であれば直接話ができる機会を設け、互いの顔を見ながら自身の状況を落ち着いて伝えましょう。
遠方で直接会うことが難しい場合、ビデオチャットなど、互いの顔を見ながら話ができるコミュニケーションツールを活用できるようでしたら、電話やメールで状況を説明するよりも互いの気持ちをより汲み取りやすいでしょう。
また、がんの部位によっては、異性の親御さんには伝えにくいこともあるかと思います。まずは同性の親御さんや親類などに状況を伝え、どのように伝えたらよいか相談に乗ってもらってみてはいかがでしょうか。
友人への伝え方
友人もどこまで伝えるか、悩ましい問題でしょう。とても仲が良く、治療期間中の体調悪化時にも顔を会わせる可能性がある友人、あるいはそうした時に会うことで心理的な安心感が得られる友人に対しては、自身の状況についてある程度伝えるのがよいでしょう。
長期にわたるがんの治療中は、ご家族やパートナーのサポートを受けにくいタイミングや、ご家族以外の誰かに相談したり頼りたくなったりするシチュエーションも起こりえます。そんな時には、事前にがんのことを伝えてある友人に「〇〇をしてほしい」「相談にのってほしい」などと協力を求めてみてはいかがでしょうか。あなたが「話してもいい」と思った友人なら、きっと助けになってくれるでしょう。
職場への伝え方
仕事をしている方にとって大きな悩みの一つが、自身のがんのことを『職場の人にどのように伝えるか』でしょう。
まず、職場の方々に対して自身のがんのことをまったく伝えずに治療を進めることは少々難しいかもしれません。むしろ、直属の上司や総務・人事部門の方には、『治療のために仕事を休む必要がある期間』や『治療前の時点で分かっている範囲でのできないことや協力してもらえばできること』など、ご自身の状況を正確に伝えることで、治療中に利用する制度を紹介してもらえたり、業務の負荷を減らしてもらえたりすることが期待できます。
他にも職場に伝えたほうがよいこと、伝えなくてもよいこと、伝え方は、患者さん一人ひとりの状況に応じて千差万別です。詳しくは、「職場に病気や治療のことを伝えるヒント」をご覧ください。
がん相談支援センターなど、第三者が助けになることも
ほとんどの患者さんは、まわりにがんであることを伝える際に、緊張することでしょう。その一方、ご家族や同僚、友人など伝えられた方々もまた、突然の知らせに動揺を隠せないかもしれません。そのため、がんであることを伝えた直後、その方々の態度や対応が、それまでとは少し変わったように感じられることもあるでしょう。そんな時には、がんという事実に相手もショックを受け、今後に不安を覚えているのかもしれないと考え、その不安を解消するために互いに何ができるかを考えてみましょう。
また、こうした不安を身近な方に打ち明けにくいと感じる方は、がん相談支援センターや患者会が味方になってくれるはずです。一度、第三者に自身の気持ちを伝え、整理してから、ご家族や友人、職場の方々へ改めて状況を伝えるのもよいでしょう。あなたのペースで進めていきましょう。