『医療費控除』という言葉をご存じでしょうか。糖尿病や高血圧症など、いわゆる生活習慣病の治療と比べ、がんの治療は医療費が高額になりがちです。日本では、1年間の医療費自己負担額が一定額を超えた場合、その年に支払った税金の一部が払い戻され(還付)、税金負担を軽減する公的な制度として『医療費控除』という仕組みがあります。医療費控除の対象や計算方法、申請の仕方などを見ていきましょう。
医療費控除の対象となるのは
医療費控除の対象となるのは、一世帯あたりの1年間の医療費が10万円を超えた場合です。その際、医療保険から支払いを受けた保険金は除かれます。なお、年間の所得金額が200万円未満の場合は、所得金額の5%を超えた場合です。
医療機関までの交通費も対象に
医療費控除の対象は、医療費の自己負担だけでなく、下記の費用もその対象です。
・入院時の食事費
・医療機関までの交通費
・治療(健康維持のためのものは対象外)のために柔道整復師などに支払った施術費
・保健師や看護師などを有する人に依頼した入院付き添い費
・松葉杖・義歯購入費
・出産費用(ただし公的医療保険から支払われた一時金を除く部分)
・病気が発見されて治療を受ける契機となった自己負担の健康診断費
ただし、自分の意思で購入したサプリメントの費用や、通院に使った自動車の燃料費などは対象外です。
医療費控除の対象は『家族で合算』
先述の通り、医療費控除の対象となる医療費は『一世帯あたり』の年間医療費が10万円を超えた場合、または年間の所得金額が200万円未満で、所得金額の5%を超えた場合です。自身のみでは医療費控除の対象にはならなくとも、家庭分を合計すると、制度の対象になる場合があります。
申請時期と還付制度
医療費控除の申請時期は、翌年の2月16日〜3月15日までです。ただし、何らかの事情で、確定申告の期日を過ぎてしまったとしても、払いすぎてしまった税金を戻してもらうことができる還付制度があります。還付の期限は、対象となる年の翌年から5年以内です。
医療費控除は確定申告が必要
医療費控除は年末調整の対象ではないため、自身で確定申告をする必要があります。その申請方法は、自営業者と給与所得者で異なります。
まず、自営業者と給与所得者ともに共通する点として、医療機関の窓口で支払った医療費も含め、全て領収証を保管していることが必要です。これを基に、医療費控除に必要な『医療費の明細書』に、個別の医療費ごとに『名前』『支払先の名称』『金額』などを記入します。これにより医療費控除の額が決まります。
自営業者の場合
自営業者の方は、通常行っている確定申告書にある医療費控除の欄に、計算で決まった額を書き込みます。それを基に、軽減された税金の額が決定され、すでに支払った税金がそれより多い場合は、払い戻しが行われます。
給与所得者(会社員)の場合
給与所得者の場合は、会社や組織から発行された源泉徴収票が別途必要です。それに基づき、給与所得者用の確定申告書に、所得や源泉徴収で支払った税金の額などを書き込みます。そして、明細表で確定した医療費控除額も記入して、改めて軽減された税金を計算し、その差額の払い戻しを受けます。
払い戻しは銀行口座に、領収書は5年間保管を
払い戻しは、確定申告書に記入した銀行口座に入金する形で行われます。申告から入金までの期間は、紙の確定申告書の場合は約1カ月半、国税庁のオンラインサービスe-Tax*を利用した電子申請の場合は、3週間ほどです。
* インターネットなどを利用して電子的に各種申告・納税手続を行う、国税庁のシステム
なお、医療費の領収書は、5年間自宅で保管することが、税法上、定められています。もし、税務署の税務調査などを受けた場合に、領収書が保管されていないと、脱税を疑われる可能性がありますので、なくさないよう注意して保管しましょう。