がんの治療を進めるうえで、患者さんを悩ませる問題の1つに治療費の負担があります。医療費は通常、年齢などに応じて1~3割を自己負担しますが、高額になった際、活用できる公的な支援制度の一つに『高額療養費制度』があります。高額療養費制度の詳細と申請方法を具体的なケースを交えて見ていきましょう。
高騰する治療薬の価格、月100万円超えも
現在、新たながん治療薬が続々と登場しています。その背景には、がんに関する研究の進展や新薬を産み出す技術の進歩があります。一方、高度な技術を駆使した結果、治療薬の価格も上昇する傾向にあります。近年では、月間の薬剤料のみで100万円を超える治療法もあります。
もっとも、多くの国民が何らかの公的医療保険制度に加入している日本では、実際に本人が支払う金額は、総医療費の一部です。医療費の自己負担割合は、年齢や収入などによって1~3割と異なります。
自己負担割合が1割でも金銭的な問題に
ここで、薬剤料が月100万円の治療薬があると仮定しましょう。もし、この薬を使った患者さんの、公的医療保険の自己負担割合が1割でしたら、支払う薬剤料は単純計算で10万円です。
また、ほかにも診察料や検査料を支払う必要があります。心身ともにつらいにもかかわらず、さらに金銭的な問題にも直面するとなれば、より大変な状況になります。
医療費負担の上限額を設ける高額療養費制度
日本では、経済的に質の高い医療を受けられないということを防ぐために『高額療養費制度』という仕組みが設けられています。この制度は、年齢や収入に応じて毎月の医療費負担の上限額を設け、超過した医療費を後で患者さんに払い戻す制度です。
ただし、入院時の食事料や、入院時に個室の病室などを選んだ際に支払う差額ベッド料、自主的に接種したワクチンの接種料などは対象となりません。
高額療養費制度の計算方法やルール
具体的な上限額の計算方法は、70歳を境に変わり、さらに年収に応じて、70歳以上は5または6(個人または世帯によって異なる)段階、69歳以下は5段階の、自己負担額の計算式あるいは定額が決められています。
最も一般的な69歳以下の世代で、年収370~770万円の方を事例にします。該当する方は『80,100円+(総医療費-267,000円)×1%』という計算式が設定されています。
医療保険の自己負担割合3割で、月100万円の治療薬を使った場合に算出される自己負担額30万円は、計算式を適用して(総医療費-267,000円)×1%=7,330円ですから、自己負担上限額は87,430円となります。つまり、約21万円分は最終的に負担せずにすみます。
多数回該当と世帯合算
高額療養費制度には『多数回該当』というルールがあります。これは過去12カ月以内に3回以上、上限額に達した場合は、4回目からさらに上限額が下がるという制度です。複数回、高額療養費制度の適用になる方の経済負担を軽減するため、上限額をさらに引き下げるものです。多数回該当では、収入に応じて定額の上限額が設定されています。69歳以下の世代で年収370~770万円の方でしたら44,400円です。
そのほか、同世帯かつ同月に、世帯内で同じ医療保険を1カ月単位で合算できる『世帯合算』という仕組みもあります。ただし、69歳以下の方での合算は、1人当たり21,000円以上の自己負担額である場合に限定されます。
70歳以上の計算は、より複雑に
70歳以上は、やや複雑になります。現役世代と同等の収入がある方(基準は年収370万円以上)の場合、収入に応じて69歳以下と全く同じ計算式が適用され、自己負担上限額が決まります。多数回該当の上限額も、69歳以下と同じように適用します。
年収370万円未満の場合は、所得状況に応じて、外来診療のみの場合とそれ以外も含む場合で、それぞれ定額の上限額が設定されています。一方、70歳以上でこの年収層に当たる方は、多数回該当が適用されません。
『限度額適用認定証』で窓口負担を減らすことも可能
高額療養費制度での払い戻しを受けるためには、加入している健康保険組合が定めた申請書に記入の上、医療費の領収書のコピーなどを添付して申請します。例えば、国民健康保険に加入している方の場合は、市区町村が申請窓口になり、申請期限は制度が適用となる高額な医療費を支払った月から2年以内です。医療費の払い戻しは、申請から3カ月ほどかかるのが通例です。
ただ、あらかじめ、医療費が高額療養費制度で定めた上限額を超えることが分かっている場合は、加入する健康保険組合の『限度額適用認定証』を取得し、窓口で支払う自己負担額を、該当する上限額ですませることも可能です。
高額療養費制度は、やや仕組みが複雑ですので、気になる方は加入する健康保険組合への問い合わせをおすすめします。