がんの治療が進むと、生活のさまざまな部分に思わぬ影響が及ぶことがあります。その代表格ともいえるのが医療費の問題です。それに対して、医療費に関する支援制度はさまざまで、あまり知られていないところでは介護保険によるサービスを利用できるケースもあります。がん治療を進めるうえで知っておきたい医療費の補助制度を見ていきましょう。
支援制度の基本『高額療養費制度』と『医療費控除』
まず、医療費といえば、検査費、入院費、手術費、放射線治療費、薬剤費、自宅療養時の訪問介護利用料などの公的保険でカバーされる『直接的な医療費』があります。また、医療保険の適用とはならない入院時の食費、個室に入院した時の差額ベッド料、入院中に必要になる日用品費、化学療法による一時的な脱毛をサポートする医療用ウィッグ、通院の交通費などさまざまな費用がかかります。
さらに、医療保険の適応となる医療と併用ができる一方で、治療の実費を全額負担することが必要な『高度先進医療』と呼ばれるものもあります。
こうした中で、公的医療保険の適用となる医療費の自己負担には、年齢や年収などに応じて毎月の医療費上限額を超える部分が払い戻される『高額療養費制度』や税金の還付が受けられる『医療費控除』といった制度があります。
『介護保険』によるサービスを利用できる場合も
がんの療養中に自宅での療養が必要な一部の方では、『介護保険』によるサービスを利用できる場合もあります。介護保険は基本的に65歳以上でなければ利用できない制度ですが、40~64歳でも、がんも含めた『特定疾病』と呼ばれる16種類の病気で、介護が必要な場合は利用が認められています。
主治医と相談して介護が必要となった場合、市区町村の介護保険担当窓口、同じく市区町村が介護・医療・保健・福祉などの総合相談窓口として地域内に設置している『地域包括支援センター』などに相談してみましょう。
療養中の生活を保障する『傷病手当金』
がんの病状や治療の内容によって、仕事を休職する必要がある場合もあります。このような時は健康保険組合に申請することで、療養中の生活を保障するための『傷病手当金』を受け取れることがあります。
傷病手当金は、病気やけがなどで3日を超えて休まなければならない場合に支給されるものです。1日当たりの支給額は過去1年間の月給を日割りした日給換算の3分の2です。支給期間は支給開始から最長1年6ヶ月です。申請は、勤務先の総務担当者や加入する健康保険組合などが窓口です。
がん治療による障害で『障害年金』を受給できるケースも
がんの治療後などには、生活や仕事などが制限されるような障害が残ることもあります。この場合、初診日段階で国民年金、厚生年金といった公的年金制度に加入していることで、障害年金を受給できる可能性があります。
手術だけでなく薬物治療による障害も対象に
人工肛門の造設や、膀胱を全部摘出して新たな膀胱を造設したり尿路変更手術を行ったりする場合、薬物治療でしびれやけん怠感などの症状が長期間続く場合にも対象となることがあります。障害年金の場合は、原因となった病気の初診日から1年6ヶ月を経過しないと受け取ることはできないため注意しましょう。
支給が決定した場合、国民年金では1~2級、厚生年金では1~3級と、障害の程度に応じた認定が行われます。この等級は、数値が小さいほど障害が重度であることを表します。
申請窓口は市区町村の国民年金担当など複数
障害年金の申請は、年金手帳、戸籍謄本や住民票、医師の診断書、自分自身で記入する病歴・就労状況等申立書、受取先金融機関の通帳などが必要です。申請やその相談は、市区町村の国民年金担当窓口や日本年金機構が運営する年金事務所や年金相談センターで行えます。
障害年金の場合、病歴・就労状況等申立書の記述の仕方次第で受給可否が左右されることもあります。記入前に医療機関にある『がん相談支援センター』や『医療相談室』で相談をしてみるとよいでしょう。
厚生年金加入者には『障害手当金』も
厚生年金加入者は、障害年金に該当するよりも軽い障害レベルの場合、一時金である『障害手当金』が受け取れる場合があります。また、障害年金や障害一時金を受けながら、傷病手当金を受け取ることも可能ですが、その場合は傷病手当金の支給額が調整(減額)されます。
都道府県などが交付する『身体障害者手帳』
障害年金や障害一時金とは別に、市区町村が交付する『身体障害者手帳』による助成・支援制度もあります。この手帳の交付を受けると、障害者自立支援法が定める福祉サービスを受けることができます。具体的には医療費自己負担1割化、車いすなどの購入や障害による生活を補助するための自宅リフォームなどへの費用の助成、税金の軽減措置、公共料金の割引などです。
身体障害者手帳の申請窓口は市区町村の障害福祉事務所や障害福祉担当課です。また、申請には申請書以外に定められた書式の『身体障害者診断書・意見書』を身体障害者福祉法の指定を受けている『指定医』に記入してもらう必要があります。もし、主治医が指定医ではない場合は、主治医に指定医を紹介してもらう、または市区町村の障害福祉窓口に相談しましょう。
社会福祉協議会では生活福祉資金貸付制度の紹介も
また、がんの治療で仕事ができなくなるなど、治療を続けたくても生活そのものが苦しいという難しい状況に陥ることもあります。そのときは、お住まいの市区町村の社会福祉協議会に相談しましょう。状況に応じて、利用できる生活福祉資金貸付制度などを紹介してもらえます。