がんの療養中は、手術や薬物療法などの影響により、以前に比べて、体調の維持や回復を図るのが難しい場面が訪れることもあります。がん療養中に重要な、体調の維持や回復に役立つ情報として、『生活』『運動』『食事』の3点について、基本的な考え方や注意が必要なポイントを見ていきましょう。
規則正しい生活は『概日リズム』
ヒトの体は、もともと約24時間を周期とする『概日リズム』があり、いわゆる『体内時計』と呼ばれる規則的な働きが備わっています。
ヒトの体温や自律神経、ホルモンの分泌などが、この概日リズムの規則性に沿って変動しています。そのため、この規則性に沿って生活することが、疲労からの回復を早めたり、良好な食欲や排泄などにも影響します。
ガイドラインに記された適度な運動
適度な運動が、がん療養中の体に良好な結果をもたらすという研究が報告されています。また、アメリカがん協会の食事と身体活動に関するガイドラインでは、全身持久力の改善を目的とした有酸素運動や、四肢(手足)や体幹の筋力増強を目的とした抵抗運動、いわゆる筋肉トレーニングが有効とされています。
買い物や通勤のついでに、できる運動から
ガイドラインでは、成人・高齢者ともに中等度の身体活動を週に150〜300分、または高強度の有酸素運動を週に75〜150分、もしくはそれらを組み合わせる、そして中~高強度の抵抗運動を週2回以上行うことを推奨しています。
中程度の身体活動とは、早足で歩く、軽くウェイトトレーニングをするというレベルです。週150分のためには、1日当たり約22分を早足で歩いてみましょう。何か対策したいと思っている方は、まずはここから検討してみてはいかがでしょうか。
治療法や病状次第で避けるべき運動・状態も
一般的な注意として、抗がん剤を点滴している最中やそれから24時間以内、重い貧血、高齢で重度の骨粗しょう症や骨転移がある場合は、運動を避けた方がよいとされています。
また、がん治療による白血球の数が減っている場合は、感染症予防のため公共施設や大人数がいる場での運動を避ける、放射線治療中には皮膚防護のためプールの使用を避けるなども注意点です。
ただ、個々によって体の状態が違うので、かかりつけの医療機関で主治医の先生や理学療法士などに相談するのがよいでしょう。現在では、がん診療連携拠点病院の半数以上で、理学療法士などが、がん患者さんのリハビリテーションに従事しています。
偏食せず、病状や心的状態に応じた食事を
がんの療養中に非常に偏った食生活を送っている人は少なくありません。特定の食品ばかりを摂取してしまうケースがあるためです。しかし、食事の内容によってがんが進行したり、治療の経過に影響を及ぼしたりすることはほとんどありません。
病状次第で塩分やタンパク質を控える場合もありますが、特別な場合を除けば、基本的にがんの療養中に食べ物の制限はありません。炭水化物、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどが不足しないような、バランスの良い食事を取ることが基本ですので、病状に応じて食べましょう。
特に病状や治療、心理的不安などで食欲が低下することは、しばしば起こります。その際、無理をして食べようとすると、食事そのものがつらくなってしまい、後々の食生活に影響を及ぼすこともあります。そのため、無理をしないよう気をつけて、食べられるものや食べたいものから食べましょう。
体重減少には高カロリー食などで対策
体重の減少が気になる時は、少量で高カロリーの食ベ物を摂取する、カロリーの高い食用油や糖分を多めに使う調理をする、間食をするなどの工夫をしてみましょう。吐き気や嘔吐がある時は、消化の良い炭水化物を中心に1回の食事量を減らして、食事回数を増やす方法もあります。
体重減少が避けられないケースがあることも
胃がんなどで胃の一部を切除した場合、頑張っても以前より食べられる量が減ることで、体重が減少することもあります。また、抗がん剤の影響により、味覚や嗅覚が変化して食べられなくなることもあります。
その際も無理はせず、食べられるものや食べたいものを食べるよう心がけましょう。
飲食時の誤嚥性肺炎にも注意を
体の機能低下により食べにくい時、無理に食べると誤嚥(ごえん)性肺炎につながることがあり、食欲がなくなることもあります。誤嚥性肺炎を引き起こさないよう、食材をやや小さめにカットしてよく煮込んだ料理などにしたり、水分の多い食べ物はかたくり粉やとろみ剤でとろみを付けたりすると、食べやすくなります。
また、横になったまま食べたり飲んだりするのは、誤嚥性肺炎を起こしやすいので危険です。ベッドで食事をする場合は、上半身を45~60度程度に起こした状態で、ややあごを引いた状態で食事をしましょう。
まずは主治医、がん相談支援センターのスタッフに相談を
がんに関する情報の中でも、特に食事について不安に思う方がいるのではないでしょうか。もし、自身が不安を覚えたときは、まずは主治医の先生に相談しましょう。栄養士による栄養指導を受けられるよう調整してもらえます。また、がん診療連携拠点病院の場合は、『がん相談支援センター』などに、がん療養中の栄養や食事に詳しい看護師、栄養士がスタッフとして所属していることもあるので、相談してみましょう。