がんにかかる人の数(罹患者数)は、年間およそ100万人に迫り、もはや特別な病気ではなくなりつつあります。では、ヒトが一生の間にがんにかかる可能性は、どれだけあるのでしょうか。また、その原因は生活習慣など、患者さんの問題なのでしょうか。がんを発症する確率や要因を知り、治療との向き合い方を考えていきましょう。
2人に1人、がんになる時代
日本では、『全国がん罹患モニタリング集計』など、複数のデータを掛け合わせた数学的モデルから、がんにかかる確率を計算しています。それによると、がんにかかる確率は、男性が65.0%、女性が50.2%(2018年時点)です。つまり、男性の半数超、女性の半数程度が、一生涯の中でがんと診断されるということです。よく言われる『2人に1人ががんになる』というフレーズは、この数字を表しています。
統計データ(2021年12月時点)によれば、2018年の1年間に、日本国内でがんと診断された方の数は98万人超で、部位別に第1位が大腸がん、第2位が胃がん、第3位が肺がんとなっています。この3種類のがんは『三大がん』とも呼ばれ、患者数が多いがんです。
健康増進法に基づき、市区町村が5つのがん種を対象に行っている無償のがん検診に、この三大がんは含まれます。患者数が多いからこそ、検診で効果的にがんが疑われる人を見つけ出し、社会全体としてがんの死亡率低下を目指すことが、大きなメリットと考えられているのです。
リスク要因は多岐にわたる
では、がんはどのように発生するのでしょうか。ヒトの体内でがんができるきっかけは、主に体外からのさまざまな刺激などです。それをきっかけに遺伝子に傷ができ、異常であるがん細胞が作り出されます。
タバコは胃がんのリスクも増加する
遺伝子に傷ができる原因には、いくつかのがんで共通のものもあるほか、個別のがんに特有のものもあります。ここでは胃がんを例に説明します。胃がんの発生原因となりえる刺激として、科学的に証明されているものの1つが『タバコ』です。タバコは肺がんの原因として有名ですが、胃がんの原因にもなります。
タバコを吸う人は、タバコを吸わない人と比べ、2倍胃がんになりやすくなるといわれています。タバコは、他にも鼻腔(びこう)・副鼻腔がん、口腔・咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肝臓がん、膵臓がん、子宮頸がん、膀胱がんなど、数多くのがんの原因として知られています。
過度な飲酒や塩分の摂り過ぎは胃がんのリスク増
飲酒の頻度、量の多さも、胃がんになる危険性を高めることが知られています。特に、食道から胃への入口に当たる『噴門部』の胃がんになる危険性は、毎日1合以上お酒を飲む人では、週に1回未満しか飲まない人と比べ、2~3倍高くなります。
また、塩分を多く摂ることでも胃がんになりやすいといわれています。塩分が胃の粘膜の表面を傷つけることで炎症が起こるためと考えられています。
ピロリ菌による慢性的な炎症も
胃がん特有の原因として、近年よく知られているのが『ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)』という細菌による感染です。この菌が引き起こす慢性的な胃炎が原因で、胃粘膜表面のバリアが崩れ、その影響で塩分やアルコールの刺激にさらされて、がんを発症します。
がん増加の最大の要因は、高齢化によるもの
先述の通り、胃がんをはじめとする各種がんの発生は、多くの場合、遺伝子の傷がいくつも積み重なり、それが修復できず発生します。つまり、ヒトは加齢とともにがんにかかりやすくなることを意味しています。実際、新たに胃がんと診断される人が最も多い年代は、男女とも80歳代です。
がんの原因は立証できない
ここまで挙げてきた胃がんの原因は、あくまで、現時点で科学的にほぼ確実と証明されているもののみであり、ほかにも胃がんの要因はあります。その1つに、遺伝の可能性がありますが、その影響は完全に証明されていません。一方で、胃がんの要因とされている生活習慣や家族歴がある場合でも、がんにならないこともあります。
そして、胃がんと診断された方が原因を立証する方法は、現在ありません。そのため、自身やご家族が自責の念に駆られる必要はないでしょう。
これからの生活のために、生活習慣の見直しを
冒頭で一生涯でがんにかかる確率を紹介しましたが、各種のがん別にも計算されています。胃がんの場合、男性が10.3%、女性が4.7%です。つまり、男性の場合は10人に1人、女性では21人に1人が生涯で胃がんと診断されることになります。これは決して少ない数字ではないでしょう。
がんの原因を探るよりも、まずは自身の現状を把握し、どのような治療を選択すべきかを十分に主治医の先生と話し合い、治療を進めることが大切です。そのうえで、治療を円滑に進め、その効果を最大化するために、どのような生活を送ればよいか考えてみましょう。その時に生活習慣を振り返り、改善しましょう。