現在行われる治療法には、ほとんどの場合、『標準治療』と呼ばれるものが定められています。標準治療はどのように決定し、自身が受ける治療法をどのように選択すればよいのでしょうか。標準治療の定義や意味、標準治療が定められるプロセスなどを見ていきましょう。
がん治療における『標準治療』の定義とは
がんをはじめ、さまざまな病気の治療において『標準治療』という言葉を耳にします。標準治療は、かみ砕いて表現すると『現時点で患者さんの病状に最適な利益をもたらすことが、科学的に証明された治療』です。
患者さんの病状に最適な利益は病気ごとに異なり、命に関わることもあるがんでは、『生存期間が延長できる』ことを、医学的に、患者さんの病状に最適な利益と考えられています。
こうした標準治療は、各病気の治療を行う専門医が医学系学会などに集まった際に発表されています。これらの医学系学会では、各病気について、その時々の病状などに応じてどのような治療を行うべきかを、『診療(治療)ガイドライン』として体系的にまとめています。このガイドラインで推奨されているのが標準治療です。
厳格な手続きを経て決定されるガイドラインと標準治療
胃がんを例に標準治療の決定過程をより詳しく説明します。胃がんの治療に関しては、その専門医が集まった日本胃癌学会によって『胃癌治療ガイドライン』を発行しています。日本胃癌学会には、経験値の高い胃がん治療の専門医で構成された『ガイドライン作成委員会』が設置されています。
ガイドライン作成委員会では、胃がん治療に関する国内外の研究論文を収集し、国際的な評価基準を基に判断します。その中で質が高いと判断された研究論文を選び出し、胃がんのタイプ別や病状の段階に応じて、現時点でどの治療法が最も患者さんの生存期間を延長できるか評価します。こうして、ガイドラインに掲載すべき標準治療の案が委員会内で合意されます。
その後、この標準治療案を盛り込んだ新たなガイドライン案が、学会の会員医師専用ページで一定期間公開され、ガイドライン作成委員会以外の医師から意見を集めます。こうした意見を集約し、調整しながら、最終的に正式なガイドラインが発表されます。
ここまで厳格な手続きを経て決定されていることもあり、標準治療がある病状で、それ以外の治療を医師が行おうとする場合、その理由を患者さんと話し合っておく必要があります。倫理的に医師はなぜそのような判断に至ったか、またそうした治療を実施した際の利益と不利益について、患者さんに丁寧に説明する必要があります。
主治医との話し合いで、自身に合う治療を選択
ただ、ガイドラインでは時にある種の病状に関して、例えば『治療薬Aあるいは治療薬Bを推奨する』と複数の標準治療を同列で記述していることがあります。これはその時点での研究結果では、その病状の人に治療薬A、治療薬Bのどちらを使っても、ほぼ同じ生存期間の延長が得られるというケースです。
もっともこうしたケースは、治療薬Aと治療薬Bで投与方法や投与期間、主な副作用が異なることがほとんどです。そのため治療薬の選択時には、あなたのライフスタイルや価値観などをふまえて主治医と話し合い、どちらの治療薬を選択するかを決定することが一般的です。
『高かろう良かろう』とは限らないがんの治療
標準治療は時に「普通ランクの治療ではないの?」と、とらえられることがあります。「普通の治療ならそれよりも優れた治療があるのではないか」「お金などを出せばより優れた治療を受けられるのではないか」と思うかもしれません。
前述のように標準治療とは、科学的に厳格な基準をベースに、専門家による慎重な議論を経て決定された、現状でベストな治療です。また、がん治療は近年、日進月歩で進化しています。そして、ガイドラインに掲載される標準治療もリアルタイムで適宜改訂され、時には年に数回もの改訂・追加が行われることもあります。
標準治療以外の治療が行われるケースの代表格としては、新たな治療法や治療薬の効果を確認するために正式な手続きを経て行われる臨床試験があります。この場合、患者さんは金銭負担のない形で進められます。いずれにせよ、これら以外の治療選択肢を耳にした場合は、自分ひとりで判断せず、主治医などに相談して慎重な判断をするようつとめましょう。